第461話 紫のウ●コ

 慌てた様子の緑色の魔人が、スタジアムの階段を駆け上ってきた。

「大変です! シウボマ様! ハトネンが主催する魔物レースにお探しの『羽風の首飾り』が賭けられるそうです!」

 その魔人の頭は、まるで落ち武者のようにおでこから頭頂部にかけ無残に剥げている。

 よほど慌てていたのであろうか、鼻からずり落ちたメガネすら直していない。

「なんだってぇぇぇぇぇぇぇ! ムスビル! それは本当かい!」

 こちらはこちらで、その報告を受けた紫のウンコ、もとい第五の門の魔人騎士であるシウボマが、その脂肪に覆われた体を震わし驚きの声を上げた。


「本当でございます!」

 ムスピルは、緑のおでこから垂れ落ちる汗を拭きながら肯定する。

 そのやつれた表情、まるで中管理職のお父さんのようである。


「ムスピル! 私たちも参加するよ! さっさとついてきな!」

 シウボマは、体につく脂肪の体を揺らしながら歩き出す。

 だが、遅い!

 歩いているのか、這っているのか分からないぐらいに遅いのだ。

 その大きな体、まとわりつく脂肪の重さによって、自由に歩くことができないでいた。

 そこで、シウボマは身につけるモノの体重を羽のように軽くすると言われる羽風の首飾りを探し求めていたのである。

 だが、それはスーパースペシャルレアクラスのアイテムである。そうそう手に入るものではなかった。

 唯一の情報は、ミーキアンの奴隷である人間が持っているという噂。

 人間の奴隷が、そんな高級なアイテムを持っているのかと少々疑問を持たないわけではない。

 たかが人間の奴隷だ、食って調べれば済むことである。

 だが、それをすれば、奴隷の主であるミーキアンと一戦交える覚悟がいる。

 おそらく両陣営とも多数の死者が出ることは間違いないだろう。

 だが、シウボマは、それでも構わないと思っていた。

 それほどまでに、シウボマは羽風の首飾りを欲していたのである。

 事あるごとに虎視眈々とリンの様子を伺っていた。

 しかし、ミーキアンの傍を離れない、離れたと思えば、今度は神民魔人のミーアと一緒である。

 なかなか、機会は訪れない。

 しかし、今、リン自らが、そのアイテムを手放したのだ。

 こんなチャンスは二度と無い。

 ましてや、その羽風の首飾りが賭けられるのが魔物バトルときたもんだ。

 シウボマの飼う三頭蛇のグレストールは、魔物バトルでは連戦連勝。

 負ける気がしない。

 こんな都合のいい条件はないだろう。

 シウボマに付き従う神民魔人のムスピルは問う。

「で、シウボマ様は、一体何をおかけになられるのですか?」

「今からすぐに帰って『関札の石』を持っておいで! あれをレースの賭けに出すよ!」

「えぇぇぇ! シウボマ様! あれはスーパースペシャルレアクラスのアイテムですよ! そのような貴重な品を賭けられては……」

「どうせ私には使えないんだからいいんだよ。それよりもあの首飾りよ! 首飾り!」

 

 これ以外にも、無刃の鞘や、門土竜の卵、訳の分からないバナナなどがかけられた。

 あっ……もしかして、このバナナね。

 ゴリラたちが狙っていたのは。

 このバナナ欲しさに、エメラルダの黄金弓を賭けたわけでございますね。









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