第455話 肌を触ったのは……(3)

 と言うことは、この男はミーア姉さまの伴侶……

 認めたくはないが、ミーアが冗談を言うという事実を理解するには、この思考に行きつくしかないのである。

 リンは唇をかみしめた。

 悔しさが込み上げる。

 だが、時期尚早……だって、まだ確証がないじゃない……

 そうであるならば、本人に聞いてみるのが一番手っ取り早い。

 作り笑いを浮かべたリン。

 ぎこちない唇でタカトに尋ねた。

「タ・タカトさんは、ミ・ミーアお姉さまと、どこまでの関係になられたのですか?」

 しまった! ダイレクト過ぎたか!

 口走ったリンのほうが赤面して下を向いてしまった。

「えっ? 何、どこまでの関係って……うーん」

 そういえば、確か、アルテラ達と温泉に行った帰り権蔵じいちゃんの家によった時だったよな。

 そうそう、ミーアに見られたんだよ……俺のムフフな本。

 このリンと言う女……まさか、俺のムフフな本の事を探りに入れているのか?

 ただでさえビン子に捨てられそうになっているのに……

 新たな隠し場所を確保するまでは、さらに不要な敵は作りたくない。

 タカトは、用心深く答える。

「うーん、ちょっとした秘密を共有した仲かな……」

 リンは驚く。

 ちょっとした秘密! そ! それは男女の仲と言う事なのでしょうか⁉

 リンの目がぐるぐる回る。

 もう、リンの世界が音を崩れていくような感覚。

 ミーア姉さまが……私の知らないミーア姉さまに……

 いやいや、まだよ! リン! まだ、そうと決まったわけではないわ……

 自分を落ち着かせるかのように大きく深呼吸をするリン。

「タカトさんは……その、ミーア姉さまのお肌に触れたことがあるとかありませんよね」

 先ほどは質問は直接過ぎた!

 少しオブラートに包んでダメージコントロールをしないと自分の心がもたない。

 だが、もう一人の私が叫ぶのだ。

 リン! 大丈夫! それは絶対にあり得ない! あり得ないって!

 そう、この男……弱い……

「だって……タカトさん弱いですもんね……触った瞬間、ボコられますわよね……ほほほほほ」

 リンは、自分に言い聞かせるようにタカトに問うた。

 懸命に口の端に手の甲をおし当て笑おうとする。

 だが、その目はどことなく引きつっていた。

 そうだ、仮にもミーア姉さまは魔孔雀の双翼と言われる神民魔人だ。

 そうそう、男に体を許すわけがない。

 まして、押し倒されるなどと言うことはありえない。

 しかも! しかもである!

 目の前のタカトは、最弱!

 こんな弱い男にミーア姉さまが押し倒されて操を奪われるなどと言うことは断じてあり得ないのだ。


 カチン!

 リンの弱いという言葉に一瞬ムカついたタカト。

 コイツ……俺のことバカにしているのか……

 弱い俺がミーアに触れないだと……そんな事あるか……大体……

 うん?

 なんで、こいつはこんな事をいちいち俺に聞いてくるのだ?

 俺がミーアに触れると何かいけないことでもあるというのか。

 それに先ほどからもじもじと下を向いてうっとおしい。

 まるで、卒業式の際に好きな人から第二ボタンをもらおうかどうしようかなどと悩んでいるような女子中学生ではないか

 タカトはピーンとひらめいた。

 女心には鈍いのに、こういうイラナイことだけには無駄にサドいタカト君。

 ならば、俺が代わりにその恋人の第二ボタンをもらってきてあげようではないか。

 そして、そのうえで、俺の服についている第三ボタンと交換してプレゼントてあげよう!

 そんな感じの意地汚い思考の悪魔が、タカトの肩を叩きほほ笑んだ

 イヒヒヒヒ!

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