第414話 孤軍の神と背水の駐屯地(3)

 城壁の隙間からガンエンはその様子を覗いていた。

 神の盾と神の恩恵を同時に使えるのか?

 あの女? それほどまでに上位の神なのか?

 まさか、魔の融合国の原始の神ではあるまいな……

 確かに、原始の神であれば、魔の融合国すべての魔人騎士や神民魔人たちの生気を吸い取ることができるため、生気の枯渇などを気にすることはない。

 だが、それはあり得ない。

 原始の神は、王のそばを離れない。

 まして、魔の融合国から出るには、大門を通るしかないのである。

 そう、今いる騎士の門を通ることはできないのだ。

 ならば、あの神は神民を持たぬノラ神か……

 それなのに、あの力の使いよう……まるで、後先考えないような攻撃である。

 そうであるならば、まだ、戦いようはある。

 そう、相手が神であったとしても。


 ガンエンは立ち上がると、周りの守備兵たちに命令する。

「お前たち、皆に伝令しろ!」

 権蔵をはじめ、まだマリアナの誘惑にかかってない守備兵たちが、一斉にガンエンに振り向いた。

「ありたっけの矢と投石をあの神に向けて放て! 途切れることもなく撃ち続けろ!」

 意味が分からない守備兵たち。

 それどころか今は、味方であった者たちが襲ってきて大変なのだ。

 まして、相手は神である。

 矢を放ったところで、神の盾によって跳ね返されるだけ。

 傷一つつけることもできない。

 そんなことよりも、まず、一之祐さまに伝令を!

 右往左往する守備兵たち。

 だが、権蔵は気づいた。

 ガンエンが言わんとすることを。

 要は、その神の盾を発動させ続けろというのである。

 そして、今、この駐屯地の多くの守備兵たちは、神の恩恵によって支配されている。

 ということは、神の盾と神の恩恵を同時に発動させることになる。

 それが長く続くことは、神の持つ生気の枯渇を意味する。

 その先に待つのは荒神。

 そして、荒神爆発である。

 だが、荒神になれば、神の意識は吹っ飛ぶ。

 目的など見失う。

 手当たり次第に暴れ出す。

 そして、何よりも、神の盾がなくなるのだ。

 ならば、その荒神爆発を起こすまでの時間に、荒神を何とかすればいい。

 だが、何とかといってもどうするのだ……

 この駐屯地には荒神の気を払う儀式などできるものはいない。

 では、神を殺すことはできるのか?

 いや、それは不可能かもしれない。

 なにしろ、だれも、神など殺したことが無いのだ。

 殺せるかどうかも分からない。

 だが、最悪、荒神爆発を起こせば、神は消滅する。

 ただ、この騎士の門内のフィールド上の全ての物が消し飛ぶだろう。

 そう、全てものを道連れに吹っ飛ぶのだ。

 それほどの威力。

 だからこそ、荒神爆発を起こさせるときには小門のような隔離された空間に押し込めるのである。

 だが、荒神爆発をココで起こしたとしても、駐屯地の地下室に避難すれば命だけは助かるかもしれない。

 やってみる価値はあるのではないか。

 でないと、現状、このままで置けば、第七の駐屯地は全滅は必至。

 ならば、ガンエンの策に乗るしかないのである。

 権蔵は、ガンエンとともに、守備兵たちに命令するために走り出した。


 この第七駐屯地は他の駐屯地と違い、身分制度を気にしない。

 そのため、一般国民であるガンエンや奴隷である権蔵の言い分が耳に逆らうことはなかった。

 ガンエンの意思を理解した守備兵たちが、次々に窓から矢を射始める。

 それを合図に、城壁の上部では、投石車が次々と引き絞られていく。

 城壁のきわに、連弩が次々と並べられていく。

 熟練度の高い第七駐屯地である、その行動は早い。

 一之祐がいなくとも、それぞれが自分のなすべきことを理解して動いていく。

 だが、守備兵たちの半分はマリアナの誘惑にとらわれている。

 そして、残った守備兵たちの半分は、その誘惑された兵士たちを、矢を射る者へ近づけさせないようにと壁となる。

 そのため、実際に、矢や投石できる兵の数は、極端に少なかった。

 だが、それでもいいのだ。

 要は、あの女の神の盾を発動させ続ければいいのである。

 矢一本でも、あの神めがけて放ち続けていればいいのだ。


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