第410話 運命の歯車は巡りだす(3)
そのアリューシャの能力を鑑定したミズイは、恐怖した。
そこには、アリューシャの燃える姿。
そして何も残らないアリューシャの未来。
この神の恩恵は、アリューシャ自身を滅ぼす。
ミズイはその力からアリューシャを守るためにも、森の奥で隠れて済むことを選んだのだ。
ここでは、周りにいるのは動物と植物だけ、いかに、運命が気まぐれでも、こんな森深くにくる人間や魔人など、めったにあるわけではない。
しかし、ある日、突然、ミズイの前からアリューシャの姿は消えた。
いや、アリューシャ自ら姿を消したのだ。
アリューシャの神の恩恵は、邂逅。
マリアナとミズイの神の恩恵とは異なり、常にその力が発動している状態なのである。
そのため、生気の消費もミズイや、マリアナに比べると大きい。
自分の生気の枯渇を感じたアリューシャは、ミズイやマリアナに心配をかけまいと、姿を消した。
どこか小門をさがし、その中で、誰にも迷惑をかけずに爆発し、消えるつもりだったのだ。
だが、マリアナは、そんなアリューシャの想いに気づいた。
森を離れるアリューシャの後を追いかける。
死ぬことはない、この世界のどこかには荒神の気を払ってくれる人がいると聞いたことがある。
暗い小門の中でうずくまるアリューシャ。
もう、自分は最後だと、膝を抱えて震えていた。
でも、ミズイや、マリアナと過ごした生活は楽しかった。
せめて、この記憶だけは消えないでほしい。
せめて、姉さんたちの想いの中に生き続けたい。
そう思っていた。
そんな時、アリューシャの肩に誰かが手をかけた。
ふと涙をたたえた顔を上げるアリューシャ。
そこには、マリアナの姿。
マリアナもまた涙をこらえて懸命に笑っていた。
アリューシャの金色の瞳に赤みがさしている。
荒神になるまで、そんなに時間は無いかもしれない。
そう考えたマリアナは、アリューシャに提案する。
「魔人国には、荒神の気を吸収して払ってくれる儀式があるんだって」
どこの誰がやってくれるのかは知らないが、そんな噂を聞いたことがある。
マリアナは、アリューシャの手を引き、小門を走る。
そして、魔の融合国へと入ったのだ。
だが、偶然とは常に幸運とは限らない。
不幸と出会うこともまた偶然なのだ。
本人たちの努力とは関係なしに、定めという名の歯車が回りだす。
その小さな歯車が回ることによって、より大きな運命と言う歯車が回りだす。
そして、歯車の回転は途切れることなく無数の歯車へと伝わっていく。
それは、まるで体内を流れる血流の如く、時代をかけ巡る。
よろけるアリューシャを肩に抱き小門から姿を見せたマリアナの前に立っていたのは、なぜか魔人騎士のハトネンだった。
魔の融合国に入った二人が最初に出会ったのがハトネン。
これも神の恩恵である邂逅のなせる技なのか。
だが、ハトネンのことなど知らないマリアナは、その前に膝まづき、荒神を払う儀式の事を尋ねた。
それは、妹を助けたいという一心の行為であった。
アリューシャの存在を消したりしない。
せめて、もう一度、アリューシャとして再生させたい。
そのためには、どうしても荒神の気を払ってもらうしかなかった。
それができるのは、荒神を払う儀式ができる人間か魔人だけである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます