第359話 死にたがり(4)
「お前、何か勘違いしているな。駐屯地の仲間が死んだのは、エメラルダが罪人になったからじゃない、エメラルダを守ることができなかったお前のせいだよ!」
オオボラがせせら笑う。
「どういうことだ……」
意味が分からぬヨークはオオボラを睨み付ける。
「分からないのか。お前が、エメラルダの命を守って門内の駐屯地まで逃げ込んで籠城すれば、駐屯地の仲間たちは死なずに済んだんだよ」
「……」
ヨークは何も言えなかった。
「魔人国と通じていようが騎士は騎士だ。刻印がはがされるまではお前たちも神民のままだ。ならば、エメラルダという騎士を守り続けていれば、門内の駐屯地は他の騎士には全く手が出なかっただろうが!」
「ぐう……だが……それでは内地に残る仲間たちは……」
「頭を使えよ。そんな状況になれば、内地に残っていれば人質だ。すぐさま皆を従えて駐屯地に逃げ込むしかないだろうが……その算段もしてなかったのかよ?」
確かにオオボラの言うとおりである。
エメラルダが騎士である以上、第六の聖人世界のフィールドでは不老不死の無敵なのだ。
他の門の騎士たちが第六の駐屯地を攻めようとしても、そこは自分のフィールド外。すなわち、不老不死でなくなるのである。
不老不死のエメラルダと不死でない騎士たち。
その勝負の行方など簡単に想像できる。
エメラルダの圧倒的勝利に違いないのだ。
ならば……なぜ、エメラルダは抵抗することもなく拘束されたのだろうか?
自分が魔の国に通じているという国家反逆の自覚があれば、おそらく、すぐさま逃げだしたはずなのに……
まるで、そこには反逆の意思などなかったかのようだ……
なら……なぜ、仲間たちは死ななければならなかったのだろう……
――やはり……コイツのいう通り……俺のせいなのか……
ヨークは歯を噛みしめ、拳を握りしめる。
「お前が、こんなところで、女のために泣いていたから、仲間たちは犬死したんだよwww」
もうすでにヨークは顔を上げることすらできなかった。
いまさらながら己の愚かさをただただ悔やんでいたのだった。
「まぁ、過ぎたことは仕方ないよな。ならば、せめてメルアにいい格好みせてから死のうぜ」
「しかし、今更……」
「だが、もし、エメラルダをもう一度、救うチャンスがあるとしたらどうだ? きっと、メルアは喜ぶぞ! はれて堂々とメルアに会いに行くこともできるってもんだろ?」
「そんなチャンスがあるのか……」
「おっ! やる気になったのか?」
「ああ、どうせ死ぬつもりだったんだ。お前の言う通り一つ格好つけてから死んでやるよ! エメラルダにも一発かましてやりたかったしな!」
「そうか。なら、お前には、商人隊の道案内をしてもらおうか」
オオボラの顔が嬉しそうに微笑んだ。
――これでレモノワの作戦は、面白いことになるぞ……
しかし、その目はどこかいやらしく、何か少し気味が悪い。
「そろそろ、人魔収容所にアルテラさまを迎えに行く時間か……詳しいことは、俺の奴隷から聞いておけ!」
オオボラはそうヨークに告げると急いで酒場を後にした。
この時、アルテラ達がどえらい目にあっていることなどつゆ知らず。その足はうわついていた。
「ヨークの兄ちゃんじゃないか!」
タカトは叫んだ。
「よぉ少年、第一の騎士の門以来だな!」
迫りくる暗殺者たちをいなしながら、ヨークが答えた。
毒が回り膝をつくエメラルダが、はっと顔を上げる。
「えっ? ヨーク? ヨークなの?」
暗殺者たちをどつきながらヨークは振り返りもしない。
そして、ただ、小さく呟くだけ。
「ご無沙汰しております……」
エメラルダは、立ち上がろうと膝に力を入れるが、力が入らない。
だが、懸命に呼びかけた。
「ヨーク! あなたも無事だったのね!」
ヨークは何も答えない。
ただひたすら、とびかかってくる暗殺者の前に立ちふさがり、拳を次々と繰り出していた。
しかし、暗殺者たちに対して、決定的な一撃はいまだに届いていない。
酒のせいなのか。
腕が鈍ったのか。
それとも何か他の事を考えているのだろうか。
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