第358話 死にたがり(3)
事あるごとに自分で死ぬことに失敗したヨークは考えた。
――ロープだからダメなんだ。
酒を飲んだ頭でさらに考えた。
――俺は魔装騎兵だったんだ……ならば、ココは剣だろう。
今一その思考はよく分からない。大体、君は接近戦の格闘タイプ! 拳で闘う男だろ? どこから剣がでてくるねん!
だが、まぁ、酔って壊れた男の思考なんて、大方こんな短絡的なもんだろう。
酒場の椅子に座ったヨークは剣先をそっと自分の胸に突き立てた。
そう、肋骨と肋骨の間をうまく通り抜けれる位置にちゃんとマークまでつけて。
あとは、椅子が倒れる勢いで全体重を剣にかけ己が胸に突き刺せば、晴れてメルアのもとに行けるのだ。
そう思うヨークは一気に椅子を傾けた。
……ダメだよ……アンタ……
酒場の喧騒の中からそんな声が聞こえてきたような気がした。
そんなヨークの体は、またもや床に突っ伏していた。
「くそっ! またか!」
床にこすりつけた顔を振りながら上げる。
だが、その視界のすぐ前には一人の男のものらしき足があった。
どうやらその足が胸に突き刺さるはずの剣の束を蹴っ飛ばしたようである。
伏せるヨークは更に身を反り、その上を見上げた。
そこには無様なヨークを見下すような視線を落とすオオボラの姿があった。
オオボラはそんなヨークの鼻先でうんこ座りをすると、「お前……そんなに死にたいのか。だが、このまま死んでもメルアにいいところみせられないぞwww」ニヤニヤと笑いながら手を差しのばすのだ
どうして、オオボラはメルアの事を知っているのであろうか?
メルアは、第一の神民であるモンガの奴隷である。その上、魔物と人間の間に生まれた半魔である。緑女ほど扱いはひどくないモノの、それでも最底辺に位置する生き物だ。しかも、妓楼務めの汚れ物……神民であるオオボラからすれば、ゴミ以下の存在のはず。
そんなゴミ以下のメルアの事を知っているのだろう。
「なぁ、ヨーク。カッコいいところみせてから死のうぜ。その方が、天国のメルアも喜ぶと思うぞ」
「何が言いたいんだ……」
この辺りで、死にたがりのヨークと言えば、最近ちょっと有名になっていた。
だが、ヨークの腕っぷしの前に誰もその行為を止めることはできなかった。
くさっても元神民兵である。
しかし、いつまでたってもヨークは死なないのである。
街の住人たちは、もしかしてアイツ、実は死にたくないのではと思ったりもしたが、ヨーク自身は、いたって真面目に死のうと頑張っているのである。
だが、いつも、なぜか失敗する。
まるで、だれかが、ヨークが死なないように守っているかのように、いつも寸でのところで失敗していた。
死にたがりのヨークは、死ねないらしい……
そんな笑い話にも似た噂を、オオボラは聞きつけたのだ。
――ヨークと言えば、元第六の神民兵……これは、使える。
オオボラは、自分の奴隷兵を使い、ヨークの身辺を徹底的に調べさせたのである。
「お前が、飲んだくれているせいで、エメラルダは騎士の刻印をはがされたんだ。お前がしっかりエメラルダを守ってなかったせいだよ」
「うるさい! エメラルダの話はするな!」
ヨークは、唇を強く噛みしめオオボラをにらみつける。
……アイツのせいで……第六の仲間たちは死んだんだ……
よほどエメラルダが憎いのだろうか。
……もう……俺には……何も残っていない……何も……
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