第340話 小門の楽園(4)

「商人たちが来るんですって?」

 ガンエンの後ろから、嬉しそうな女性の声が響いた。

 振り返るガンエン。

 その先には、ニコニコと微笑むエメラルダと、その後ろに付き従うカルロスの姿があった。

「エメラルダの姉ちゃん!」

 タカトは嬉しそうにエメラルダの胸を凝視した。

 ビン子がとっさにハリセンを振り上げる。

「大丈夫よ」

 エメラルダが、微笑みながらビン子を制止した。

「胸の調子は大丈夫よ。まるで、本当の自分の胸みたい」

 ――それは、それは、そうですか!

 タカトの指がいやらしくくねくねしながら、エメラルダの胸へと伸びていく。

「えっ? ここで診察するの? ちょっと……ここだと恥ずかしいから、向こうの誰もいないところで……」

 とエメラルダが、顔を背けた。

 へっ!

 タカトの指が止まった。

 ――誰もいないところで二人きり!

 とたんにタカトの鼻息が荒くなる。

 ――これはオッパイだけでなく、あんなことや、こんなことも!

 タカトの顔面は嫌らしく崩壊した。もう、目も当てられないぐらいだらしなくたるんでいる。

 しかし、そんなタカトの願望は、一瞬で打ち砕かれた。

 なにせ、エメラルダの後ろには、鬼のような形相でタカトをにらみつけているカルロスの姿があったのだ。

 ――下手なことをしたら、俺……絶対に死ぬ……

 タカトは悟った。

 まずは、このオッサンを何とかしてからでないと、目的は達成できないと。

「オほん!」

 タカトは、白々しく咳ばらいをすると、背筋を伸ばした。

「うん、服の上からでも分かります。特に異常はございません。大丈夫です!」

 驚くエメラルダとビン子。

「えっ! タカト君、もう終わり?」

「えっ! 本当に検査だったの?」


 タカトに検査をしてもらおうと服を脱ごうとしているエメラルダを、ビン子が力づくで止めようとしていた。


「やっぱり、タカト君にちゃんと見てもらわないと……」


 エメラルダがビン子の手を懸命に払う。

 ビン子もまた、脱がせるものかと、必死で抑える。

 ここでその巨乳などタカトみせようものなら、また、奴の事だ、絶対に変な気を起こすかもしれない。


「タカトが、大丈夫って言ってるでしょ!」


 そんな二人の後ろにたつカルロスが、少し安心した様子でエメラルダを見つめていた。

 カルロスは、この小門でエメラルダに会った時、その変貌ぶりに驚いた。

 もう、元の優しかった笑顔を浮かべることは二度とできないのかもしれないとあきらめていた。

 しかし、そのカルロスの想いとは裏腹に、ココでのエメラルダの生活は笑みにあふれていた。


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