第296話

 ネルの長剣が宙を切る。

 やはり剣が大きいためか、初動に少し時間がかかる。

 それに対してソフィアは、小ぶりの剣。

 その二振りの剣を手足のように扱っているのであった。

 赤き魔装装甲が舞うたびに、ソフィアの剣が、ネルを刻んでいった。

 ――チッ!

 重き長剣を逆立てて、ネルの剣を受け止める。

 ――やはりこの女、強い……

 唇をかみしめるが、ココで引き下がるわけにはいかない。

 この女を一発、ぶちのめし、アルテラの前で頭を下げさせるのである。

 そしてもう一発は、日ごろ私を見下した目で見ていることのお返しである。

 だが、ソフィアに対していまだ有効打は決まらない。


 ネルの長剣の刃が、ソフィアめがけてまっすぐに落ちた。

 それを二振りの剣が、交差して受け止めた。

 擦れ合う刃から、低い金属音が鳴り響く。

 交わる剣を挟み、二人の女がにらみ合う。

「この売女が!」

「この年増が!」


 交わる剣が、二人の気合と共に押し離れた。

 ソフィアの剣先が、ネルの手の下を通り、腹をめがけて滑り込む。

 ――かわせぬ!

 ネルの視界がスローになった。

 引き戻す剣は間に合わない。

 身をよじるにしても、既に剣が描く円陣から離れることは不可能だ。

 ネルは、その襲い来る剣先の動きに合わせて、体をはねた。

 しかし、そこには、まっすぐに打ち付けられるもう一つのソフィアの剣

 ――コチラが本命か!

 跳ねた体は止まらない。

 ――アルテラ……ごめんね……

 大きな音を立てて、女の体が吹き飛んだ。

 しかし、倒れていたのはネルではなく、ソフィアであった。

 ネルの横から、野太い腕が伸びている。

 脱毛をし、つるつるのお肌ではあるが、筋肉隆々、逞しい腕である。

 その腕がまっすぐに、ソフィアの顔面を打ち抜いていた。

「あら、大丈夫?」

 ピンクのオッサンが、ネルに言葉をかけた。

 ああ……

 状況が理解できぬネルは、そう答えるのがやっとであった。

「ネル殿、状況はよく分からぬが、加勢いたす」

 遅れてきたカルロスが、言葉をかけた。

「カルロスか! 貴様がなぜこんなところに!」

「まぁ、今は、そんな事より、目の前のあれらを何とかせねばならないのではありませんか?」

 カルロスは、拳を構えた。

 ネルは、起き上がるソフィアをにらむ。

 ――確かに、今の私ではあの女にかなわない……ならば、この男たちの手助けも……

「カルロス、お前、魔血タンクは持っているか?」

「いえ、もう神民を、お払い箱になりましたからな」

「ならばこれを使え!」

 ネルはカルロスに魔血タンクを投げ渡した。

「裏切るかもしれませんよ」

 カルロスは、笑いながら魔血タンクを魔血ユニットに差し込む。

「お前は、そういう男ではあるまいが……」

 ネルは鼻で笑った。

「少々、買い被りですな」

 黒きカメの魔装騎兵となったカルロスが拳を再度構えた。


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