第297話

 3000号の伸び来る触手を次々と切りつけるイサクと真音子。

 しかし、3000号には再生能力があるらしく、次々と触手が治ってしまう。

 そのたびに、十字架の女とビン子の顔が激しく歪み、悲鳴に似たうめき声をあげていた。どうやら、その再生するための生気を二人から吸収しているようである。

「どうします? お嬢? このままでは、あの嬢ちゃんの体、持ちませんよ……」

 唇をかみしめながら、無数に伸びる触手をかわす真音子。

 ――あの触手さえ、他にそらすことができれば、何とか懐に入り込めるのに……

 使える物がないかと、部屋の周りに意識を飛ばす。

 入り口近くに、動く影。

 どうやら、カルロスと共に逃げてきた収容者たちの姿であった。

 その数、5人。

 ――使える!

「イサク! 一旦引け!」

「へい!」

 イサクは後方へと跳ねた。

 それを合図にするかのように、真音子の体が、3000号へと突っ込んだ。

 3000号のすべての触手が真音子めがけて襲い来る。

 勢いよくのびる触手は、早い。

 おそらく跳ねた真音子の体が着地するよりも早く、その体を貫く事であろう。

 しかし、触手が宙に浮く真音子に届こうとしたした瞬間、真音子の体が、何もない後方へバネがはじけるかのように引っ張られた。

 その真音子の体を追って、触手が伸びる。

 真音子の体は、何かに引っ張られるかのように、宙を飛ぶ。

 だが、触手も早い。

 勢いよくスライドする真音子の体に、徐々に徐々にと追いついた。

 しかし、次の瞬間、真音子の体が消えた。

 真音子の体は垂直に跳ね上がったのである。

 触手は、勢いをそのままに、まっすぐに突っ込む。

 ぎゃぁぁぁぁぁ!

 いくつかの悲鳴が上がった。

 伸びた触手が、部屋の片隅にいた収容者たちを貫いていたのである。

 収容者たちを真音子と勘違いした触手は、その体を次々と引きちぎっていく。

 辺り一面、血の海に。

 その、伸びきった触手の脇を、一つの影が疾走した。

 真音子が叫ぶ。

「イサク! 今だ!」

「へい! お嬢!」

 二人は3000号の塊にけんをつきさした。

 この世のものとは思えない悲鳴を上げる3000号。

 真音子が、ビン子の周りの肉塊を、足で押さえながら切り裂いていく。

 イサクが、ビン子の手を取り、力任せに引き抜こうとしていた。

 ビン子の体が、肉の糸を引きながら、イサクのもとへと動き出す。

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