第291話

 アルテラは、走っていた。

 怪盗マネーは言った、ソフィアがタカトを監禁していると。

 そんな事は、ないはず。

 しかし、この人魔収容所のドタバタ、タダごとではない。

 でも、この騒動は、タカトを連れてきてから起こった。

 タカトが何か関わっているような気がしてならない。

 もし、怪盗マネーが言う事が本当であるならば、自分がタカトを売った事になるのだろうか?

 いや、そんなつもりは、全くない。

 しかし、タカトは、どう思うだろうか?

 せっかく手に入れた温かさ。幼い頃に少しの時間感じた、あの温かさ。また、私は、一人ぼっちになってしまうのだろうか……

 嫌だ……

 もう、一人は嫌だ……

 タカト……

 アルテラの目から、いつの間にか涙が溢れていた。


「ソフィア様から地下室に近づくなとのご命令だ!」

 廊下を走るアルテラの耳に、廊下の先で守備兵たちが、ソフィアの命令を伝達しているのが聞こえた。

 ソフィア?

 アルテラは、立ち止まると、きびすを返した。

 アルテラは、表情を厳しくしながら、守備兵たちに詰め寄った。

「その地下室はどこ?」

「こ、これは……ア、アルテラ様……」

 守備兵たちは、互いに顔を見合わせ、困惑の表情を浮かべていた。

「アルテラ様が、その様な汚い場所に足をお運びになられては、私どもがソフィア様に叱られてしまいます」

 両手を前に、守備兵たちが必死に誤魔化した。

「アルテラの名において、正直に答えよ!」

 しかし、アルテラの威圧が守備兵たちを押さえつけた。

 とっさにひざまずく守備兵たち。

 頭を下げ、カタカタと震えている。

「ぎ、ぎょ、御意……地下室は、この廊下を曲がった先の階段を降りたところです」

「そこに、タカト達がいるのね!」

「私どもにはわかりかねますが、どうやら、収容者を連れて行った事は間違いないとの事です」

「分かったわ!」

 アルテラが守備兵たちの横を走り抜けた。

 その瞬間、守備兵たちの力が抜けて、尻が地面にペタリとついた。

 あれが威圧スキルか……

 マジ、生きた心地しないんですけど……

「ところで、ココはどこだ?」

「俺たち、こんなところで何してるんだ?」

 守備兵たちは、自分たちが今まで人魔収容所で働いている事を覚えていない様子であった。

 どうやら、ソフィアの神の恩恵の誘惑が、アルテラの威圧で上書きされたようである。


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