第286話

大きな塊から伸びた触手が、徐々にその中心へとビン子の体を引きずり込んでいく。

その瞬間、触手から紫の体液が飛び散った。

ビン子の体が、触手と共に落下する。

真音子の剣が、3000号の触手を叩ききっていたのだ。

地面に着地するとともに、ビン子の体を支える真音子。

キッとケテレツをにらむ。

「この下種が! よからぬものを作りおって!」

ケテレツは突如現れた真音子に驚いた。

「お前は誰だ!」

守備兵たちも、とっさに剣を抜き真音子に向ける。

「私は怪盗マネー! タカト様が作ったあれはどこにやった!」

「あれとは何のことだ?」

「セレスティーノが持ってきた道具のことだ」

「あぁ、あの人魔呼ぶ道具の事か、あれならソフィア様が大事そうに持っておったぞ」

くそ!ソフィアが持っているのでは手が出せないか。

今は、ビン子を救い出すことが先決か。

仕方ない

真音子はビン子を抱え咄嗟に部屋の出口へと駆ける。

しかし、真音子の体が宙を舞う。

その反動で、ビン子が真音子から離れ跳ぶ。

真音子の足にまとわりついた触手がうなる。

大きく弧を描く真音子の体。

真音子は、とっさに、自分の足にまとわりつく触手を剣で叩ききった。

膝をつく真音子は、瞬時にビン子の体を探す。

咄嗟の事で、つい手を離してしまった。

目の前のビン子の体が宙に浮く。

3000号の触手がビン子の体にまとわりついていた。

よほど、ビン子の体が欲しいのか。

真音子よりも、ビン子に対して触手が動く。

くそ!

真音子の体は、ビン子へと跳ねる。

しかし、守備兵たちが真音子の前を遮った。

「邪魔するなぁ!」

真音子の体が地面すれすれを反転する。

それと共に、守備兵の体がひっくり返る。

真音子の足が、守備兵たちの足を払っていたのである。

足に力を込め、前へとはぜる真音子の右手。

しかし、それはビン子の黒髪をかすり、宙を切った。

ビン子の体が、触手によって高々と担ぎ上げられていた。

びんこさぁぁぁぁん!

真音子は叫んだ。

だが、ビン子の体は3000号の大きな塊へと勢いよく取り込まれていった。

真音子は、体を反転させると、3000号の塊へと駆ける。

その真音子に向けて次々と伸び来る触手たち。

それを剣で受け、身をかわす。

その都度、3000号の紫色の体液が飛び散った。


触手が戻り行く3000号の中心に、人影らしきものが見えた。

剣を振り、その影を確認する真音子。

どうやら、女のようである。

大きな塊の上に突き刺さるかのように存在する十字架。

その十字架に張り付けられるかのように女がいるのである。

その女の体は、一糸まとわぬ裸であった。

そして、その十字架に触手によって拘束されている。

女の体の右半身は、3000号の肉塊に取り込まれ、左半身のみがさらけ出されていた。

あががが

女が何か言っている。

真音子の姿を見たとたん、何かを叫んだ。

口の中に触手を突っ込まれているせいか、何を言っているのか判然としない。

しかし、その女の赤く染まった目からは、大粒の涙がこぼれていた。


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