第266話 研究棟(4)

 タカトの上半身が勢いよく前に傾いた。

 その瞬間、怪獣のどでかい頭が、犬のようなモノの頭をクリーンヒット!

 まるで、どでかいハンマーで叩きつぶすかのように、脳天に落ちた。

 きまった!

 犬のようなモノは、床にたたきつけられた。

 しかし、すぐさま、四肢に力を入れ立ち上がると、人の首をプルプルと横に振る。

 効いてない。

 全く効いていないぞ! タカトぉぉ!

 まぁ、それもそのはず、怪獣の着ぐるみの表面は綿で覆われている。

 めちゃくちゃ柔らかいのである。そんなものでどついても、全く効果はないのだ。

 犬は、再度タカトにとびかかった。

 怪獣の首が宙に飛ぶ!

 とびかかった犬の歯が怪獣の耳に食いつき引きはがしたのだ。

 緑の怪獣の着ぐるみにタカトの顔がぽつんと乗っている。

 コチラも、異形のモノたちに似たような雰囲気になっていた。

 ひえぇぇぇぇ!

 タカトはビビった。

 自分の身を守る着ぐるみを引っぺがされたのである。

 次の一撃は、確実に自分の身に届いてしまう。今度は死ぬかも……


 犬についた人の顔が笑っている。すごいイヤな笑みを浮かべている。こいつ、生前は絶対に性格が悪かったに違いないと思えるほど、嫌味な笑顔だ。

 じりじりと近づく、犬のようなモノ。

 犬が後ろ脚に力を込めたかと思った瞬間、タカトの頭上に飛び上がる。

 よだれを引きながら、タカトめがけて一直線。

 その目はまさにいただきまーすっと言っているようである。

 もうあかん……

 タカトは目を閉じた。

 だが、次の瞬間、犬の体が、90度真横に吹っ飛んだ。

 薄っすらと目を開けるタカトには何が何だか分からない。

 だが、目の前に太い腕が伸びていた。

 そう、ピンクのオッサンの右ストレートが犬の顔面にクリーンヒットしたのだ。

 タンクにぶつかり、赤い花を咲かせる犬のようなモノ。

 タンクの壁面に沿って赤い帯を引きながらずり落ちていった。

 あれは死んだな……

 タカトは一瞬、犬のようなモノに同情した。


 カルロスはカルロスで、蛇のようなモノとタコのようなモノと格闘していた。

 しかし、相手は長い手を持っている。それが合わせて10本である。2本の手しかないカルロスは、全く持って手が足りない。

「この部屋を出るぞ!」

 次々と伸び来る腕を、かわしながらカルロスは叫んだ。


 コウスケが大きな四角に光る部屋の出口へと駆け出した。

「あなたたちも! ざあ! はやく!」

 ピンクのオッサンは、異形のモノをにらみつけらがら、タカトとビン子に声をかけた。

 首がなくなったとはいえ、体にはまだ着ぐるみがまとわりつくタカトは、もたもたと走りだす。

 ビン子が、急かすようにタカトの背を押し続けた。


 異形のモノの触手を投げ飛ばし、出口のドアへと駆け戻るカルロスが叫ぶ。

「ゴンカレエどのも早く!」

 ピンクのオッサンが、異形のモノの足を掴んでぐるぐると回している。

「わたじを、ぞの名前でよばないでぇぇえぇ!」

 気合一発! 異形のモノが側面のタンクへと投げられた。

 ジャイアントスイング張りに渾身の力を込めたスローイング。

 タンクのガラスが砕け散る。

 中から、緑の液体と共に魔物の組織が流れ出す。

 たちまち異形のモノたちの目の前を緑の液体の水たまりができた。

 異形のモノたちは、緑の液体に浮かぶ魔物組織を悲しそうに見つめていた。

 自分たちの姿を、悲しむかのように、ただ茫然と立ち尽くしていた。


 ピンクのオッサンと、カルロスはその隙に、廊下へと飛び出した。

 そして、勢いよく、研究室のドアをスライドさせ締め切った。

 しかし、廊下に飛び出した収容者の数は10人にも満たなかった。



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