第245話 人魔収容所(6)
「よく頑張ったな! タマ!」
タカトがタマを抱き上げた。
ヨシヨシヨシ
満面のタカトの腕の中で、タマもなんだか得意げそうだ。
まぁ、スライムだから表情は分からないけどね……
タカトは意気揚々と、タマの体から突き出された輪っかを引っ張った。
後は、この鍵で牢屋を開けるだけ。
そして、収容されている皆の牢も開けていく。
そう……これで自由だ!
自由なのだ!
じ・ゆ・うぅぅ~♪ ざまぁみさらせ! あのババァ!
しかし、そんな希望に満ち溢れていたタカトの表情が急に陰った。
というより、表情が消え去った。
なんか、固まっている。
タマを抱いたまま、一向に動こうとしないタカト。
しびれを切らしたビン子が急かす。
「早く、鍵を開けて、ココから出ようよ」
ビン子がタカトの肩を揺らした。
だが、タカトは動かない。
――どうしたのよ。お腹でもいたいのかしら? なんでも落ちてるもの食べるから、そういえば、この人魔収容所に入る前に、何か拾って食べていたような……
不思議がるビン子はタカトの手を覗き込んだ。
その瞬間、ビン子もまた、固まった。
………………
…………
……
長い沈黙……
貯蔵室の他の牢屋からの歓声がとどまるところを知らず、響き渡っている。
やっとこの訳の分からない貯蔵室から出ることができる。
その嬉しさはひとしおだったのだろう。
しかし、一向にタカトたちの檻が開かない。
業を煮やした囚人たちは、次々と叫んだ。
「早くしろ!」
「まさか、お前たちだけ逃げるつもりか!」
「さっさと、ココを開けろよ!」
その怒号に急かされるタカトとビン子は互いに顔を見合わせた。
「どないしよう……」
「どうするのよ……」
タカトの手には、鍵がついていた輪っかが握られていた。
その輪っかは、輪っかだけである。
輪っかの先についていなければならない鍵の束がどこにも無いのである。
もう一度言おう、タカトの手には、鍵がない輪っかだけが握られていたのだ。
鍵はどこ行った?
まさか、タマが落としたのか。
いやいや、タマの動きは、収容されている皆が見つめていたのだ。
もし鍵を落したのなら、誰かが気づくはず。
なら、一体……
ケプ!
これはゲップか?
その時、タマがゲップした。
さも、満足と言わんばかりにゲップした。
タマは鍵を運ぶために体内に取り込んでいた。
スライムのタマには手がない。鍵を持ち運ぶためには体内に取り込むしか方法が思いつかなかった。
鍵の束は、タマの体内で揺れていたのである。
そして、タマは一応スライムである。
体内に取り込んだものはなんでも消化する。
そう、鍵の束は消化されていたのである。
タマの体内に浮かぶ鍵は、どろどろに溶け落ちて、鍵の原型をとどめていない。
棒の端キレだけが、輪っかにかろうじて引っ付いていた。
こんな棒きれで牢屋が鍵が開くはずがないのである。
貯蔵室の中は、自由を求める収容者たちの希望がマックスに高まっている。
この状況で、鍵溶けちゃいました。テヘ。で済むだろうか。
済むわけなかろうが!
殺されるかも……
タカトとビン子は覚悟した。
だが、大丈夫、ココは檻の中、そして、叫んでいる収容者も檻の中。
どうやってもタカトたちをどつきに来ることなんてできやしない。
それどころか、鍵が溶けちゃったんだから、このまま一生檻の中!
「どないしよう……」
「どうするのよ……」
二人は再び顔を見合わせた。
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