第242話 人魔収容所(3)

 一方、タカトも焦っていた。


 ――タマホイホイの作り方教えろって……あんた……

 

 作り方を教えろと言われても……


 ――そんなの言えるわけがない。


 ビン子が横にいるこの状況で説明するわけにはいかないのである……


 ――絶対に口が裂けても言えない。


 というのも……

 ビン子がコウスケとお茶をした件でケンカした時のことである。


 すねた俺は自分の部屋にこもっていた。

 で、健全な少年が部屋にこもってすることと言えば!

 そう、厶フフな本を読みあさること!


 で、イカ早口で説明!


 チョッとムラムラときたから、シコシコしてみるとピーから、ピーがドビュッシーで、本についたドビュッシーをどしようかと悩んでいたら、タマが興味深そうに近づいてクンクンしてるから、これはこれで面白いかなぁと思って、それで、もうひと仕事頑張るべってことでシコシコしてピーしたら、本がべとべとになっちゃたもんだから、これ、やべぇ! このまま片付けると本のページくっついちゃうよ! とあせっちゃって、とりあえず、そのページを破っちゃえってことで、ドビュッシーがついているところをビリビリと、そしたら、汚れていない花柄の破れたページが残ったので、それもきれいに破って、その花柄はビン子のなんとか券にとりあえず引っ付けておいて、本はO.K.ってことで、あっ違う! 本は、いいんだよ! 本は……問題は、このドビュッシーをなんとかしないとってことで、その辺りにあった融合加工中の粘土の中に突っ込んでみました。


 で、オイオイ!

 この粘土はどうすんだよ。


 しかも、なんか外でじいちゃんが配達の時間だから出てこいって呼んでるよ!


 とりあえず燃やしちゃう?

 燃やしちゃえば証拠残んないじゃないなんて思って、筒状のもの突っ込んで燃やしてみたら、意外や意外、証拠隠滅できちゃた!


 この現象を応用して融合加工粘土の密度と質を改良してみました!

 はい! 発酵食品ならぬ発酵ティッシュ!


 粘土に溶け込んだティッシュが線香のように燃えてなくなる。

 これはいい!

 ドコでもイツでもティッシュをホイホイ!

 あら不思議ティッシュホイホイの出来上がり!

 タマタマできたティッシュホイホイ!

 略してタマホイホイ!

 

 ……なんて言ったら、絶対にドン引きもの……

 絶対にいえねぇ!

 しかも、ナース服の看護師さん目当てに、それを神民病院に持って行きましたなんて、フジコさんに聞かれでもしたら、一生口聞いてもらえないじゃないか……


「それは欠陥品でして……」

 額の汗を懸命にぬぐうタカトは、必死で取り繕った。


 あのタマホイホイはマズイ……

 あの中身はまだ、完全に燃えきっていない……

 神民病院で突っ込んだティッシュが少々残っているはずなのだ。


 タカトは考えた。

 ソフィアの手から何とかしてタマホイホイを取り戻せないかと……

 ――いや、せめてティッシュが詰まったあの粘土だけでも燃やしきらねば……


「よろしければ、修理をいたしまするが……」

 タカトは恐る恐る手を差し出した。


 しかし、ソフィアはとっさにタマホイホイを頭上にあげてタカトの提案を拒んだ。

「どうしても教えぬというのか……」


 ソフィアはタカトを厳しい目で睨みつけていた。

 ――もう、コイツには魅惑チャームが通じない。ならば、自分から口を割らせるしか方法はあるまい。


 ソフィアは叫んだ。

「衛兵!」


 その声と共に勢いよく執務室のドアがバンと開くと、二人の衛兵がドアの前に現れた。

 その衛兵たちに向かって命令するソフィア。

「こいつらを貯蔵室に放り込んでおけ!」

「御意!」

 ズカズカと衛兵達がタカトとビン子に近づくと、力任せに腕をつかんで引きずった。


 咄嗟の事で、訳が分からないタカトとビン子。

 そんな二人の視界から、薄ら笑いを浮かべるソフィアの姿が離れていく。


 執務室のドアが閉まる瞬間、ソフィアはうすら笑いを浮かべた。

「作り方を教える気になったら、いつでも言え! それまでは帰れんぞ!」


 今の状況が全く理解できないタカトとビン子はソフィアの顔を見ながら叫んだ。

「えぇぇぇぇ!」

「なんでぇぇぇえ!」


 道具を作りに来たはずなのに、なんで、連れていかれるの?

 自分たちは一体何をしたというのでしょう?

 訳も分からない二人は、なされるがままに執務室の外へと引きずられていった。


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