第241話 人魔収容所(2)

「お前はこれを知っているか?」

 ソフィアは机の上に筒状の道具を置いた。それはまさしくタマホイホイ。


――あっ! あんなところにあったのか!

 タカトの足がとっさに一歩前に出た。


「その顔つきは、知っているのだな」

 姿勢を崩さないソフィアが微笑む。大当たりと言わんばかりに微笑んでいる。


 その瞬間タカトの足が止まった。

――何か嫌な予感がする。

 タカトの本能がそう叫んでいた。

 

 静かにソフィアは続けた。

「これは人魔を呼びよせるらしいな」


――はい?

 意味が分からないタカトは、固まった。


 だって、タカト自身、タマホイホイは、タマを呼び寄せるという大義名分で作ったのである。実際の使用目的は実のところ他にあるが……


 だから、タマを呼び寄せると言われれば、そうかもと相槌を打ったかもしれないが、それがよりによって人魔を呼びよせるとは初耳だ。


――何言っているのこの人?


 だが、ソフィアの赤い目は冷たい。どうも冗談を言っているようではないことはすぐわかった。


「あの……すみません。僕には何のことだか分からないのですが……」

 タカトは手をコネコネ。下手に出て様子を見る。


「シラを切るか……」

 ソフィアは手を机について立ち上がろうとした。前屈した体から紫の長い髪が机の上へと流れ落ちてくる。


「いや……本当に……」

 訳が分からないタカトは、手を前で大きく振った。


 ソフィアは執務の机をぐるりと迂回して、ゆっくりとタカトの前やってきた。

 そして、タカトの顔に顔を近づけ、人差し指でタカトの顎を持ち上げる。

 ソフィアの甘い息がタカトの顔をかすめていった。

 その香りに、タカトの視界がピンクに変わる。タカトの目にハートが浮かんでいたのだ。

 そう、まるで魅惑チャームでもかかったかのように。


「もう一度聞くよ。これは人魔を呼ぶんだろ」

「しりましぇーーーん」


 ソフィアは人差し指をはね上げた。それに伴いタカトの視界がピコンっと部屋の天井をとらえた。


 フン!

――これでも答えないということは本当に知らないのかい。この小僧!

 

 限界まで後ろに反り返ったタカトの頭は跳ね返る。そして、その勢いでソフィアの胸の谷間へと飛びこもうとした。

「ソフィアさまぁァァぁ! おっぱいもましぇてくだしゃァぁぁい!」


 しかし、タカトのその野望は、すぐについえた。

 そのタカトのデレデレの様子にカチンと来たビン子が、タカトの足を踏みつけたのだ。これでもかと言わんばかり思いっきりに。


「いてぇぇぇぇ!」

 タカトは叫んだ。

 左足を抱え、ぴょんぴょん跳びで痛がった。

「何をしやがるんだビン子!」

「別に……」

 そっぽを向くビン子。


 その様子にソフィアが一瞬驚いた。

「この小僧……私の魅惑チャームを破ったというのか……」

 しかし、その驚きを悟られぬように、すぐさま落ち着きを取り戻す。


「それでは、小僧、この道具の作り方を教えてもらおうか」

 ソフィアはタカトをじーっと見つめる。

 しかし、先ほどとは違いタカトは魅惑チャームにかからない。

――なぜだ……なぜ、魅惑チャームが通じない。

 焦るソフィア。

 しかし、魅惑チャームとは、まるで神の恩恵のようなスキル。いや、神の恩恵そのものか。

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