第182話 タカト入院する(5)

 権蔵の道具屋の入り口が勢いよく扉を開いた。

 今まさにドアノブへ手をかけ、外に出ようとしていたビン子の頭に、ドアの角がヒットする。

「いたぁぁぁい!」

 頭を抱えうずくまったビン子は、何が起こったのか分からないまま、涙目で見上げた。

 ドアから差し込む光を背に、肩で息をするコウスケが立っていた。


「ビン子さん! ご無事で?」

「ご無事じゃないわよ! 痛いじゃないのよ!」

 頭をこするビン子は、怒り心頭でコウスケにつかみかかろうとした。

 しかし、肩に持つ大きなカバンに地に引かれ、うまく立ち上がることができなかった。


 そのかばんの中には、タカトから頼まれた極め匠シリーズの工具類が詰め込まれていた。

 ビン子は、タカトから必要な工具を書いた紙を渡されたのだが、いざ、タカトの部屋に入ってみると、どの工具のことやらさっぱりわからない。

 ビン子にとってプラスドライバーもマイナスドライバーも同じに見えてしまうのであるからしょうがない。

 とりあえず、机の上にある工具を適当にカバンの中へと詰め込んだ。

 無造作に詰め込まれた工具で大きく振らんだカバンを、ビン子はやっとのことで肩にかけたのだった。


「いやぁ、本当によかった。ビン子さんがけがをしたと伺って」

「よかったじゃないわよ! これ見なさいよ!今ケガしたのよ!あんたのせいで!」

 ビン子はおでこのたんこぶを指さす。


「あれ……? ところで、タカトはどうしたんですか?」

 ビン子のおでこの事などどうでもいいのであろうというのか。

 そっけない態度のコウスケは、いつも騒ぎ立てるタカトがいないことをビン子に尋ねた。

 ビン子は、道具屋の棚から一つの小瓶を取り出し、それを開けながらコウスケに言った。


「タカトは今、病院よ。イタタタタ……」

 ビン子は小瓶から塗り薬を指につけて、おでこに塗る。


「なんと! タカトがですか! ビン子さん……ちなみに、それ、毒消しですよ……」


「はぁ? それ早く言ってよ!」

 慌てて、おでこを手で拭くビン子。


「もう、ついてない? ……って、もう、おらんのかい!」

 道具屋の入り口で一人突っ込みを入れるビン子。

 すでに、ビン子の目の前にはコウスケの姿はなかった。


 ビン子の握りこぶしが静かに震える。

「あのコウスケのボケ……今度会ったら、必ずしめる!」


 入り口から顔を出すビン子が見たのは、町に向かって走って帰るコウスケの後ろ姿であった。

 おいおい、ビン子ちゃんあんた神でしょ。神の盾は発動しないのですか?


 街に駆け戻ったコウスケは、蘭華と蘭菊が以前働いていた女店主のいる店に飛び込んだ。

 ――タカトが、けがで入院しているだと……


 店の中をあわただしく見渡す。


 ――これはチャンスだ!


 お見舞いにでも行こうというのであろうか。

 しかし、コウスケはお見舞いの果物でも、花でもなく、なぜか着ぐるみを手に取っていた。

 それも、怪獣……

 バカにでもしに行くつもりなのだろうか。



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