第161話 赤き目の謀略(3)
人魔!
カルロスは、眼前の突然の出来事に、とっさに対応できなかった。
歴戦の勇者であっても、想定外の出来事にそうそう対応できるものではない。
だれが、このような人ごみの中に人魔が突如発生すると予想できるであろうか、いやできるはずはなかった。
しかし、それは、実際に目の前にいるのである。
ここからのカルロスの動きは速かった。
カルロスめがけて襲い掛かる人魔の体を、思いっきり蹴とばした。
人ゴミの中に吹っ飛ぶ人魔。
地面に転がった人魔の目と、既に倒れているカウボーイのオッサンの目が静かに見つめあった。
まるで、ベッドの上で愛を語り合う恋人のようである。
しかし、人魔は、よほどやきもち焼きなのであろうか、愛の語らいもほどほどに、カウボーイのオッサンにつかみかかろうとする。
寸でのところで、身をよじりかわすオッサン。かなり修羅場は経験済みと見受けられる。
カウボーイハットを手で押さえ後ろに飛びのき膝をつくオッサンも、状況が理解できていないようであった。
「状況が予想外の方向に進んでいるようだ。この場は一旦引こう。少年くん。そのお宝は、いずれいただきに上がるよ」
カウボーイのオッサンは、そのまま、後ろの人ごみの中に紛れ込んでしまった。
立ち上がった人魔が、手あたりしだいに人々を襲う。
絶叫に近い悲鳴が上がる。
しかし、その悲鳴の塊は、一つではなかった。
いたるところから悲鳴が沸き起こっていた。
どうやら人魔は、目の前の一体だけではないようである。
その広場は逃げ惑う人々によって、混乱のるつぼに陥っていた。
カルロスは、その人々の激流から守るかのように、その大きな体にビン子とタカトを引き寄せた。
しがみつき叫ぶタカト。手に持つ黄金弓が震えている。
ビン子はそっとカルロスに寄り添い、不安そうに人々の流れを伺っていた。
ビン子のつま先に何かがぶつかった。
小さな何かである。
そっと視線を落とすビン子。
足元に一枚の通行証が落ちていた。
拾いあげるビン子
それは神民街への通行証であった。
ここで逃げ惑っている元神民たちの物であろうか?
いや、彼らはすでに通行証を没収されている。
と言うことは、先ほどのカウボーイのオッサンのものだろう。
ビン子は後で返してあげようと思い、そっとポケットの中にしまった。
人の流れが入り乱れる。
流れは、流れ出る場所を失っていた。
流れと流れが激しくぶつかり渦を作る。
そしてその渦は、下へと伸びていく。
人々の足下には、すでに多くの人間が倒れ込み、踏みつけられていた。
まるで布団でも踏むかのように、人々はそれを踏み、逃げまどっていく。
踏まれるたびに髪の毛が揺れる。
おそらく、もう息はしていないであろう……
悲鳴は、すでに広場を覆い尽くしていた。
人の流れに押され、カルロスの体が激しく揺れる。
鋼のようなカルロスの太い腕が、嵐の中から二人をしっかりと守っていた。
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