第四章 燃えよ!闘魂!万命寺
第159話 赤き目の謀略(1)
第六の門の宿舎前の広場で、城門から出てくる人々に話しかけるタカトとビン子。
「カルロスさん知りませんか?」
「こんなひげ面のオッサン知りません?」
タカトは自らの指で口の回りに髭を作り、もう一方の手で、目を真横に引っ張ると、誇張するかのように細めた。
城門から、人々が列をなして溢れてくる。
突然の移動だったのだろうか、神民街から追い出された人々は、宿舎前の広場で、その先の行き場を失い、群れを作っていた。
エメラルダの騎士の刻印の除去に伴い、第6の神民たちは、神民の刻印が消え去り一般国民となっていた。
神民街にいつまでもいられるはずはないと分かっていたとしても、住み慣れた家を離れ、卑しい一般街へなどとなかなか行動に移すことができなかった。
遅々と進まぬ明け渡しに業を煮やしたアルダインの指示のもと、本日、一斉に強制移動が行われたのである。
ここにいる人たちは、第6の神民、または、その家族たちである。エメラルダには、縁のある人たちばかりのはずである。しかし、エメラルダは、カルロスだけを探してくれとタカトに頼んだ。罪人に落ちた自分とかかわり合いを持たせたくなかったのだろうか。それとも、罪人に落ちた自分を見られたくなかったのだろうか。いや、やはり、自分のせいで駐屯地が全滅し、生き残った内地の神民たちも、その地位を追われてしまったことに後ろめたさを感じていたのであろう。それでもカルロスを探したのは、誰かに許しを請いたかったのかもしれない。カルロスであれば、エメラルダを責めることは絶対にないだろう。
城門の入り口付近で、出てくる人に手当たり次第に声をかけるタカトとビン子。そのタカトたちの脇から黒色のフードの集団が広場の群衆の中に分け入って行く。ぎこちなく動く黒色の集団。その異質な光景に、タカトの動きが止まった。
――なんか違う……
黒色の集団を目でおうタカト。その刹那、タカトの視線は、一人の黒色のフードを被った女の美しい目に絡めとられた。目を離すことができない。女の赤色の目は、艶っぽくタカトを見つめる。鼓動が早くなるタカト。みるみるタカトの顔は上気し、熱く、汗がにじみ出る。体は見えない糸に縛られたかのように動けなくなった。ただ、ただ、女の赤い目を見つめ続けるタカト。
「タカト!」
ビン子が叫ぶ。
はっと我にかえるタカト。
「カルロスさん見つかったよ!」
ビン子の前にがっちりとした老人がいた。
しかし、その体のわりには生気を感じない。
まるで、生きる屍のような雰囲気であった。
その老人は、背中に大切そうに長細い革袋を担いでいた。
「じいさん、カルロスさん?」
慎重に確認をする。
ボケてそうな目は、すでに焦点があっていないように思えた。エメラルダから、カルロスは、歴戦の勇者で、新人の魔装騎兵の教官役も担った猛者だから、見ただけですぐ分かると言われていったのだが、全然違うような気がする。
「なんじゃ……」
カルロスは力なく答える。
「なんじゃじゃなくて、あんた、本当にカルロスさんなの?」
簡単に、エメラルダの名前を出せないタカトは、再度尋ねた。
「そうじゃが、なんじゃ」
やはりどうみても違うような気がする。
タカトは、カルロスの耳に手をあて小声で話す。
「エメラルダさまってめっちゃ巨乳ですよね」
「なんじゃと! 小僧!」
カルロスの目に力が戻る。
そこには、先ほどまでのボケたジジいの姿はすでになかった。
胸元を捕まれたタカトの足が、みるみる宙に浮いていく。
「ストップ! ストップ! ジジいストップだって!」
慌てるタカト。
――このジジいで確定!
血の気が引いていくタカトの脳裏に当選確実のアナウンスが流れた。
ビン子が、とっさにカルロスに耳打ちする。
「エメラルダさまは、生きています」
「本当か!」
カルロスに吊し上げられたタカトは、大きく涙目で何度もうなずいた。
「小僧! 嘘じゃあるまいな!」
「ボ、ボクは、今までウソをついたことないですよ……神さまに誓って」
嘘ばかりの人生、すでに今言っている言葉が嘘じゃないですか。
ビン子も、カルロスの手を抑える。
「無事と言えばご無事ですが、いろいろと辛いことがあったみたいです」
タカトを力なくおろしたカルロスは、背にかついでいた革袋を抱きしめうずくまる。
「エメラルダさま……」
オッサンが人目をはばからずに泣き出した。
とっさにカルロスの口を抑えるタカトは、辺りに気づかれていないかと見まわした。
ビン子が、そっと耳打ちする。
「今は、その名を声に出してはダメです」
涙目のカルロスが口を抑えるタカトの手を握り、ビン子を見つめる。
小さくうなずビン子。
「イテテテテ」
腕を掴まれ叫ぶタカトは、ビン子に助けを求めるかのように自分の腕を指さす。
ビン子は、そんなタカトに構う時間も惜しそうに、カルロスに手をさしのべた。
「万命寺に参りましょう」
カルロスは、ビン子の手を優しくとると、タカトを握る手に力を込めて自らの体を引きずり起こした。
「ホギョエェエぇ!」
タカトの腕の骨がきしむ音を立てたような気がした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます