第125話 別れと不安(1)
タカトたちは、今日も、六の門へと配達に出かけた。
途中、いつものようにコウスケに出会うものの、コウスケは道具バトルの日時を確認すると、わき目もふらずに神民学校へと走っていった。
おそらく、出席日数が足りないのだろう。
いや、毎朝毎朝、タカトたちの邪魔をしているのだ。
すでにもう、留年は確定なのかもしれない。
なら、今更焦ってどうするのであろうかとバカにするタカトであった。
そんなこんなで第六の門。
いつもどおり、権蔵が作った融合加工の道具を納め終えたタカトたち。
そして、こちらもいつものように、守備隊長のギリーから受領書にサインを記入してもらっていた。
書き終わったギリー隊長は、それをタカトに手渡すと一息つくかのように腰に手を当てて辺りを見渡した。
「お前ら、ヨークを見なかったか?」
「さぁ?」
タカトはいそいそと受領書をカバンにしまいながら答えた。
これを失くしたら、また権蔵じいちゃんに怒られるもんね。
納めたカバンをポンポンと叩きながらタカトは思った。
――だいたい俺たちに聞いてどうするんだよ。今の今まで、裏の倉庫で作業していただろうが。どうせ、あの兄ちゃんのことだ、また、あの連れ込み宿で、さぼってるんだろう……
だが、そんな事を知らないギリー隊長は少々不機嫌な様子で、きょろきょろしながらヨークを探す。
「クソっ! ヨークの奴め、自分の誕生日には大切な人から何かプレゼントをもらえるかもって、鼻の下を伸ばしてソワソワしてやがったんだ。本当に仕事しろよ!」
それを聞くビン子はギリー隊長を寂しい目で見つめた。
――そこですか……単なる妬みですか……
タカトも思う。
――寂しき独身貴族の性よの……プレゼント、いやいや、義理チョコすらもらったことないのだろうな……
少々涙ぐんでいるタカトが、頑張れ!と言わんばかりにギリー隊長の肩に手を置いた。
「よかったら今度、銅貨一枚のチョコでよければ、俺があげるよ……」
ギリー隊長は、タカトの言っている意味がよく分からなかった。
だが、なにか妙に馬鹿にされたような気がしたのは間違いない。
そんなギリー隊長のイライラした手が、肩に置かれたタカトの手を払いのけた。
「そんなのいらんわい! しかし、ヨークのやつ、エウア教の活動拠点捜索の任務はどうなっているんだ! 報告しろよ! 報告っ!」
タカトたちは、そんなイライラしているギリー隊長を完全に無視、帰り支度が終わるとそそくさと馬車に乗りこんでいた。
だが、それと時を同じくして、異変が起きたのだ。
神民街の城壁の門から黒い服に身を包んだ10人ほどの男たちがやってきたのである。
その男たちの歩き方からして、いかにも偉そうでかたぎの人ではないようでった。
黒服の男たちは第六の宿舎に近づくと、申し合わせたかのように正面と裏口にとどまることなく流れるように別れていった。
一人の黒服の男だけが広場に残っていた。
その男は黒服の中でもとりわけ偉そうな歩き方の男である。
そんな男が、今度は守備隊長ギリーの元へとズカズカと近づいてきたのだ。
偉そうな男はギリー隊長に詰め寄ると、見下しながら低い声を発した。
「エメラルダは、中にいるか?」
エメラルダ?
騎士であるエメラルダに対して敬語ではない。
それどころか、その声はあからさまに敵意をむき出しにしている。
当然、ギリー隊長は黒服の男の上から目線の態度にムッとした。
「何のようだ!」
ギリー隊長の語気も自然に荒くなっている。
「我々は、宰相閣下直属の神民である。質問に答えろ!」
――宰相の神民!?
ギリー隊長は一瞬ひるんだ。
いや、何か悪い予感がしたのだ。
この黒服の男は、自らを第一の騎士アルダインの神民でなく、宰相の神民と名乗った。
ということはおそらく、内政的な何かで動いているのであろう……
ギリー隊長は、その言葉を聞くやいなやとっさに襟を正し直立した。
「エメラルダ様は、中にいらっしゃいます」
それを聞くや否や、偉そうな黒服の男は宿舎に向かって指を振った。
それを合図にするかのように、宿舎を取り囲んでいた黒服の集団がすぐさま宿舎内へと突入する。
まるで、エメラルダの逃走を遮るかのように全ての入り口から一斉にである。
その様子を馬車の上から見るタカトは少々面白そうにニヤニヤしていた。
「何か面白いことが起きてそうだな」
もう、野次馬根性丸出しである。
だが、言っとくが、この一連の騒動の原因は、もとをただせば、お前だぞ……タカト……
ほどなくして、宿舎の玄関から縄に縛られたエメラルダが黒い服の神民たちに連行されて出てきた。
そのエメラルダの後を追って玄関から飛び出してきたギリー隊長がなにやら叫んでいる。
「一体、何の裁判なのですか! エメラルダ様に限って国家反逆などありえません!何かの間違いです! 今少しお待ちください!」
縄に飛びついてエメラルダを解放しようとするが、すぐさま周りの黒服の男達に押さえつけられ地べたに這いつくばり動けなくなっていた。
「あっ、この前の巨乳の姉ちゃん!」
タカトは縄で縛られたエメラルダを見つけると、とっさに指さし、ビン子へと振り向いた。
「なっ、ビン子! お前と違って本当に巨乳だろう!」
「タカト! バカなの、あの姿見てそんなこといっている場合?」
「そうだな、いかんな……」
「でしょう。あの人、大丈夫かな?」
「全然大丈夫ではない! こう挟み込むようにもっと強調しなければ! せっかくの巨乳がもったいない。あいつら縄の縛り方が全くなっとらん!」
「……」
――こいつ大丈夫なんだろうか?
いつものように不安になるビン子であった。
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