第73話 タカト!大ピンチ!(2)
森を分け入る二人の耳に、遠くから獣の声が響いてきた。
「よっしゃ!ラッキー。こんなに早く獲物が見つかるとは」
タカトは喜び、声がする方向に足を向けた。
ビン子が不思議そうにタカトに尋ねる。
「でも、普通、こんな声を出す?」
獣の声はたびたび聞こえる。本来警戒心の強いはずの獣たちが、ここまで声をあげるのは普通ではない。
「なんでもいいじゃん。とにかく、そこに獲物がいれば、それで、万事解決よ!」
意気揚々と、森の茂みをかき分け奥へと入っていく。ビン子は心配そうについていった。
声は移動しているようであった。前から聞こえた声は、次第に奥の方へと遠ざかっていく。まるでタカトたちを森の奥に誘うかのようであった。ますます不安になるビン子がタカトに懇願する。
「戻ろうよ! ちょっと、森の中に入りすぎてるって! 帰り道分からなくなるよ!」
「大丈夫だって、もう少しで追いつけそうだしな」
もう、前しか見ていないタカトは、どんどんと森の奥へと進む。
しだいに声は、はっきりと聞こえてきた。どうやらその声は、2匹、いや3匹の動物が争っているようであった。
緑をかき分けると、開けた崖の上に出た。二人は崖のふちに立ち、真下を覗き込む。
大人一人分位の高さの崖下では、巨大な豚と2匹の犬が争っている。子犬が傷を負った母犬をかばって低いうなり声をあげていた。
「あれ、あいつら……」
「タカト! 何とかしないと」
崖上からその様子を見ていたタカトとビン子は、その犬たちが以前、町で出会った母犬と子犬であることがすぐに分かった。
まぁ、子犬は少々大きくなっているが。子犬だから、すぐに大きくなるもんね。
ということで、二人はとっさに豚めがけて石を投げつけ、挑発し始めた。
「この豚野郎! てめえの汚ねぇケツを掘っちゃるぞ! こっちに来れるもんならこっちに来てみやがれってんだ!」
「豚さん。こちらですよぉ~♪」
「この豚野郎! 尻がでかくて登れないのか! お前の尻なんか小さい方じゃ!」
「こちらにおいで、手のなる方へ♪」
「この豚野郎! フガフガ言ってんじゃねぇぞ! うちの尻デカは、もっと鼻息荒いぞ! コラ!」
「……ちょっと、さっきから私のこと言ってる?」
ビン子が石を投げるのをやめ、タカトをにらみつける。
へっ……(ばれた……)
タカトの石を投げる手も止まった。
豚が崖上のタカトたちをにらみつける。そして、唐突に崖に向かって突進した。
崖は激しく揺れ、突き出されたへりの先端にひびが入っていく。
あっ!
その瞬間、崖がビン子を伴って崩れ落ちた。
とっさに右手を伸ばすタカト。
ビン子の手を握ると、体を勢いくひねり、後方に向かって思いっきり振り飛ばす。
なんとかビン子は崖のへりにしがみつくことが出来た。
タカトの目に、離れていくビン子がスローモーションで手を伸ばす姿が映る。
何か叫んでいるようだ。
えっ……
落ちていくタカト。
強い衝撃と共に、地面に叩きつけられた。
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