第72話 タカト!大ピンチ!(1)
ガンエンの依頼をこなしに、森に動物を狩りに行く権蔵とタカトとビン子。
「このあたりでいいか」
権蔵は肩の荷物を降ろすと、荷物の中から短剣を取り出し、タカトに投げ渡した。
「また中途半端な物を作りおって。仕上げておいたぞ」
それは、タカトが作ったカマキガルの鎌と融合させた短剣であった。その刀身は丁寧に磨かれ、それが粗末な短剣であることを忘れるほど美しく輝いていた。
「俺の『おぬがせ上手や剣』が……」
短剣を手にうなだれるタカト。
「何が『おぬがせ上手や剣』じゃ。道具に名前なんぞつけんでもいい!」
権蔵は、道具作りに自信を持っていた。
だが、自分の事を名工とは思っていない。
自分が作る道具で、使う人が喜んでくれればいい、その一念で作り続けていた。
その権蔵のもとで、道具作りを修行するタカトもまた、この権蔵の信念を知ってか知らずか引き継いでいた。
だが、やはり、タカトが作る道具の方向性は、若干ずれていることは否めない。
そんなタカトを無視しながら権蔵は近くの岩にゆっくりと腰を下ろす。
「よっこらしょ。タカト、開血解放してみい」
『おぬがせ上手や剣』があきらめきれないタカトは泣く泣く開血解放をする。
「すげぇ、ここまで鋭くなるとは……」
小剣の刃の輝きが増す。その刃の鋭さにタカトは驚きの表情を見せた。
その剣は、名もない無名の剣である。
だが、権蔵が丁寧にしタカトのためにと仕上げた逸品だ。
並みの小剣とは、輝きが全く違った。
それどころか、その小剣の刃は、木々の隙間から差し込む日の光を、鏡のように反射し、タカトの顔を顔に一筋のコントラストを作った。
「このあたりにいる熊ぐらいなら余裕じゃ」
太陽にかざしてその刃の状態をまじまじ確認しているタカトに、権蔵は得意げに話す。
「そいつはな、普通の融合技術ではなく、わしが得意な固有融合じゃからな。お前しか使えない分、威力は3割り増しじゃ!」
「じいちゃん、ありがとう。ありがとう」
既に『おぬがせ上手や剣』のことは忘れたタカトは、権蔵の手を握って興奮している。
だからと言わんばかりに、権蔵がタカトに恩着せがましく命令する。
「じゃから、お前は、山の奥から獲物を追い出してこい、わしが待ち構えて、仕留めるから」
権蔵は森の奥を指さす。
タカトはしまったと思いつつも、短剣を嬉しそうに腰に差す。
そして、ぶつぶつ文句を言いながらビン子と共に、森の奥に進んでいった。
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