第55話 激闘!第六駐屯地!(26)魔物の想い

 そんなゲル×ググを、歯がゆそうに見ながらカリアは懸命に手を振るのだ。

 ――そっちじゃない!

 というのも、カリアは感じていたのだ。

 外につながる裂け目のすぐ側……その城壁の屋上で、先ほどからいやな気配が高まっていたことに。

 そう、幾度の戦いを生き抜いてきたカリアだからこそ分かるのだ。

 この肌にビリビリと伝わるその感じ……おそらく、それはかなりの高エネルギーの集約。

 この離れた広場にいても感じるほどのエネルギーが、先ほどからさらに集まり大きくなり続けていたのである。

 おそらくそれは『多段開血解放! ガちんこ魂赭たましゃブロー』から放出されたエネルギーをもはるかに凌駕する!

 もし、そんなエネルギーが発射されれば、あらゆるものが一瞬にして蒸発し消え失せてしまうことだろう……

 しかも……

 そんなエネルギーのベクトルが、なぜだか分からないが、この広場に向かって伸びてくるような気がしてならないのである。


 にもかかわらず……

 ゲル×ググは大声で叫び声をあげながら、大きくなりつつあるベクトルの中心線に沿って走り続けていたのである……

「イヤですわぁ~♡ 助けてですわぁ~♡」

 ――そっちじゃない!

 すでに声すら出せないカリアは、ゲル×ググの後を追いかけようと必死になって這いずろうとしたが……力が出ない……

 

 石畳の上で腕を突き、やっとのことで上半身を上げるカリアを数人の奴隷兵たちが取り囲んでいた。

 そして、力任せに頭や肩を押さえつけるのだ。

 くっ!

 苦悶の表情に歪んだカリアの表情が石畳に押し付けられる。

 だが、それで終わったわけではない、力なく伸びるカリアの足元にうんこ座りした一人の奴隷兵が、いやらしい笑みを浮かべながらカリアの下半身に身に着けていたビキニアーマーの縁を指先でつかみ、まるでじらすかのように徐々に徐々にと腰から下げ始めたのである。

 そんな奴隷兵が歌うのだwww

 今、大阪で話題となっている万博開催! この万博がかつて1970年に同じ大阪で開催されていたことを知っているだろうか?

 およそ6421万人もが来場した会場に高らかと流れたあの音楽www

 さも、それを真似するかのように口ずさむのである。

 

「こんにちは~♪」「コンニチハ~♪」

 それをのぞき込む複数の奴隷兵たちは声を合わせるwww

「西の紐から~♪」 ずり……

「こんにちは~♪」「コンニチハ~♪」

「東の紐から~♪」 ずりずり……

「こんにちは~♪」「コンニチハ~♪」

「痴帯のひげが~♪」 わぉwww 緑女っておひげも緑ぃ~♪

「こんにちは~♪」「コンニチハ~♪」

「さくらの肉で~♪」 じれったいんだよwwwさっさとはがせよwww

「1970本のこんにちは~♪」 って、お前、毛の数かぞえたのかよww

「こんにちは~♪」「コンニチハ~♪」

「握手をしようぉ~♪」 さあ!誰から握手するんだwww俺!俺!俺!

 俺がやるよ !

 それだったら俺がやるよ !

 じゃあ俺がやるよ !

 どうぞ ! どうぞ ! どうぞ !wwwwって、やっぱり人魔症が怖いんかいwww

 ということで、一人の奴隷兵が脱がせた白いパンツをカリアの頭にかぶせようとしたのである。


 ――やめろ……

 だが……そんなカリアの体には、もう、男たちに抵抗する力すら残っていなかった。


 だが、その瞬間! カリアの視界が真っ白な闇に覆われた。

 何も見えない……

 何も聞こえない……

 遅れて伝わる激しい衝撃!

 歯を食いしばるカリア!

 うつぶせている体が激しく悲鳴を上げているのが分かるのだ。

 ――熱い! 体が熱い……誰か! 助けて!

 そう思ったのを最後に、カリアの意識は次第に細くなっていった。

  

 カリアの足元で奴隷兵たちがダチョウ倶楽部さながらのギャグをかましていたその時、城壁の屋上が明るい光を放ったのである。

 そこはカリアが感じていた高エネルギーが集約されていた場所……そう、カルロスと戦うゲルゲが変化した巨大なダ●コンがそそり立っていた場所であった。

 そして今! ダ●コンの口が大きく開け広げられる。

 口の奥から湧き上がる白き光。

 それはまるで太陽のように大きく輝くのだ!

 そして、今、偶然にも、そんな太陽に惑星直列するかのようにゲル×ググとそれを追いかける奴隷兵たち、そして、犯されそうになっているカリアとが奇麗に一直線に並んでいたのである。

 瞬間、巨大なダ●コンの口から撃ちだされる太陽サンレーザー! もとい、息子サンレーザー!

 光の大きな輪がゲル×ググたちの影を飲み込み直上をまっすぐに突き抜けていった。

 

「きゃっ♡ なんですの♡」

 瞬間、白い光に包まれたゲル×ググは驚いた。

 というのも、身に着けている鎧がたちまち溶けていくのである。

 ――こ! これは! 超まずいですわ♡ 再生しなければ、死んでしまいます♡

 ググの持つ再生能力をフルパワーで発動させる。

 だが、体を再生させるだけで精一杯。

 とても鎧などを再生させる余力などないのだ。

 そのため、すでに一糸まとわぬスッポンポンとなったゲル×ググ。

 その可愛らしい胸の谷間とお尻の割れ目をあらわにさらしていたのであった。

 その様子は、まるで光の草原を裸で走る一人の少女。

 らん♪らん♪らん♪らららん♪らんらん♪ らん♪ らんらん♪らららん♪

 らん♪らん♪らん♪らららん♪らんらん♪ ら♪ ら♪ら♪らんらんらんらん♪

 おそらく後ろを走る奴隷兵たちは、その見事な谷間を見て狂気したことだろうww

「ナウシカか!」

 だが、そんな叫び声をあげる間もなく、一人残らず白き光の中で蒸発して消えていたのであった。

 この間、0.00001秒!

 巨神兵もびっくりするほどの破壊力!

 おそらく痛みも……ゲル×ググの裸体も感じることなく昇天したことだろう。

 残念www

 だが、笑っている場合ではない!

 ゲル×ググの体もまた、この光の中で奴隷兵たちと同じように蒸発していたのである。

 ――体が溶けますわ♡……再生♡

 再生♡

 再生♡

 再生♡

 再生♡

 しかし、何度再生を繰り返しても体を維持できないのだ。

 光の中で徐々にほころび始めるゲル×ググの体。

 ――あぁ……やっぱり……私は死ぬのですね……♡

 覚悟を決めたゲル×ググは、ついに光に身をゆだねた。

 ――温かい……これが……死……♡

 それはまさにナウシカ・レクイエムではなく、ゲル×ググ・レクイエム。

 光に侵食されるゲル×ググの体は徐々にその形を失っていく……

 こぼれ落ちる内臓が赤紫の体液を散らすこともなく、すぐさま塵として消えていく……

 だが、不思議と痛みはない……

 まぶたに浮かぶのは、楽しかった思い出……

 ――もっとやりたかったな……あっち向いてホイ……

 だが、すでにジャンケンをする腕も消え、首だけになったゲル×ググ……

 その瞳にうっすらと涙が浮かんでいた。

 ――今度は……本当の……人間になりたい……な……♡ 

 流れ落ちる一粒の涙。

 その涙が消えていくのと同じように、彼女の意識もまた光の中に消えていった。


 魔人たちは、こことは異なる魔の国からやってくる。

 人を食べるためにやってくる。

 それは人へと進化するため……人へ近づくため……

 その想いを満たすために魔物は人を食べるのである……


 遥か遥か大昔……

 かつて大門の内側の世界にはアダムとイブという邪神がすんでいた。

 だが、その世界の人々は長き戦いの末にアダムとイブをそれぞれの並行世界へと封印したのであった。

 イブは後の聖人世界となる空間に封じられ、一人ボッチの寂しさを紛らわせるために、かつていた世界にいた人々を模して人間を作りあげた。

 アダムは後の魔人世界となる世界に封じられ、かつていた大門の世界に攻め戻るために、その道具として魔物を作りあげた。

 そのため、魔物たちには攻撃本能しかない。

 力こそ正義!

 力こそ絶対!

 魔物たちは互いに互いを食らいあう。

 ただただ強くなるために食らいあう。

 それは殺伐とした世界……

 互いを餌としか見ない救いようのない世界……

 日がな一日、誰かを見つけては殺し食らうだけの世界なのだ……

 いや、本来、自然界とはこんなものだろう……

 そう、これが弱肉強食、自然の摂理なのである……

 そんなことは分かっている……分かっている……のだが、それを理解するだけの知恵を持っていなければ幸せだったのかもしれない。

 だが、不幸なことに彼らは互いに食い合うことによって、わずかならがら知恵を得ていたのである。

 それは、まるで人の心と同じように感情を表すのだ

 生まれ落ちた時は真っ白だった心。

 そんな心も、殺し合いの中で赤くただれていく。

 醜いのはこの容姿?

 いや違う……この互いに憎みあう心こそが醜いのだ……

 だが、そんなことを思って、にこやかに微笑みかけたとしても、結果待っているのは自分の死だけなのである。

 魔物といっても生き物……

 死ぬのは嫌だ!

 なら、目の前の敵を殺せ! 食われる前に喰らいつくせ!


 でも……


 なぜ……自分たちは生まれたのだ?

 なんで、私たちは互いに殺しあわないといけないの?

 どうして、俺たちはこんなに醜いんだ?

 どうして?

 どうして?

 わずかな知恵を得た魔物たちの心の奥底には一つの疑念がくすぶりだしていた。


 そんな蟲毒にも近いような魔人世界が長い間続いたのち、次第に力ある者が生まれて始めたのである。

 それはアダムの従者と言われし者たち……かつて、アダムの側に控えていた8人の魔人たちである。

 だが、魔人といっても、人を食らった進化とは違う。まだ、人と接したことがない彼らは独自の進化を遂げたのあった。

 それは純粋に魔物の魔の生気だけで進化を遂げたもの……ある意味、神にも近しい存在だった。

 その者たちの中に、アイナ、ガイヤ、オレテガ、マッシュの姿があった。

 

 ついに8人の従者を得たアダムは、大門の世界へと返るため大門を開けようと両手を強く押し付ける。

 本来、8つのキーストーンをもって封じられている大門。

 だが、いまだ一つも鍵穴は回っていない。

 それを8人の従者の力を使い、そして、アダムの持つ破壊の力をもって無理やりこじ開けたのである。


 多くの魔物たちが大門の世界へとなだれ込む。

 突然始まる人と魔物の激しい攻防!

 人の持つ重火器の前に魔物の多くが力尽きていく。

 だが、数が多い!

 無限に湧き出づるかのように、魔人世界につながる大門からは魔物が次々となだれ込んでくる。

 そして、魔物の持つ異能の力を前にして多くの人間たちが食われていった。

 阿鼻叫喚の地獄絵図……

 あれだけ青かった空からミサイルの雨が降り注ぐ。

 その間を縫うよう飛ぶ空魔と戦闘機のドッグファイト!

 地上ではカメの魔物と戦車がたがいに力比べをしていた。

 だが、東京という名の都市が荒野に変わるのに、さほど時間はかからなかった。

 一体、どれだけ人間が消えたのだろう……

 いまや、東京の摩天楼の間を魔物の群れが悠々と飛び交っている。


 かつて自分を封印した大門の中の世界。

 そんな世界に舞い戻ったアダムであったが、その足は止まらない。

 というのも、アダムの願いは人間たちへの復讐などではなかった。

 それは……聖人世界に封印されたイブに会うこと。

 だが、魔人世界と聖人世界は大門の世界を通してしか繋がっていないのだ。

 そう、イブがいる聖人世界に行くには、どうしても大門の中の世界を通らないといけないのである。

 ただ……イブに会いたい……

 東京を火の海に染めながら、巨大なアダムの足は聖人世界につながる大門へと足を向ける。

 だが……アダムも無限の神というわけではない。

 魔人世界の大門を無理やりこじ開けるために使った力。

 人間たちと繰り広げた壮絶な戦闘。

 多くの力を失ったアダムは、すでに荒神化していたのである。

 しかし、あきらめない……

 ついに聖人世界に通じる大門に両手をついて、力いっぱいに押し始めたのだ。


 そんな時、アダムに向かって一斉に数百発、いや、この大門の世界にあるすべての核ミサイルが撃ち込まれたのである。

 それは、まるで人類総力戦!

 その瞬間、地図上から東京という地名、いや土地そのものが完全に消滅した。


 だが、それでも聖人世界に通じる大門はびくともしていない。

 そして、アダムもまた、血みどろになりながらもそれを押し続けていたのである。


 捨て身のアダムの力に屈するかのように、大門が軋み音ともにわずかに開きはじめたのである。

 ビキ!

 だがその時、アダムの体表が割れていく。

 そう、アダムの限界がついに来たのだ。

「イブゥゥゥゥウ!」

 そんな叫び声を最後にするかのように、荒神爆発を起こすアダムの体は大門のすべての世界を白く染めていった。


 アダム侵攻が失敗に終わった大門は、再び人間たちによって閉じられた。

 そして、多くの魔物たちはアダムのいなくなった魔人世界で、安寧の時を過ごしていたのである。

 だが、そんな時、聖人世界と魔人世界の決して交わることのない境界面が、まるで本に沸くシミに食われるかのように、かすかに穴をあけたのだ。

 その小さな穴……魔人世界と聖人世界をつなぐ小さな穴……それは小門と呼ばれた。

 魔物たちは、その小門を通して初めて聖人世界というものを認識したのである。

 そこには、かつて大門の世界と似たような人間たちの世界が広がっていた。

 楽しそうに笑う人々の生活。

 キラキラと輝く人間たちの文化。

 ただ、食うだけに仲間を殺していた自分たちの世界とは何もかもが異なっていた。

 瞬間、魔物たちの心の中の奥底に眠っていた疑念が一気に沸き上がる。

 どうして、アダム様は自分たちをこんなに醜く作ったのであろう?

 同じ神であるイブ様は、あんなに美しい世界を作ったというのに、なぜ?

 魔物たちはイブの造りし人間たちに憧れを持つと同時にジェラシーを感じていた。

 そして、自分たちも人間になれば、きっとあのキラキラした世界を手に入れることができるのだと。

 そのためには……

 そのためには……

 人を食って……人になる……

 だが、どんなに人を食って進化しても、それは人を模した魔人でしかない……

 どんなに頑張っても人にはなれないのだ。

 そんなことは分かっている……分かっている……

 でも……できることなら……

 一緒に本当の歌を歌いたい……

 一緒に友達と心から笑いたい……

 きっと……きっと……人に……人間になれば……できるはず……


 城壁の上から放たれた白い一条の光が瞬く間に駐屯地の広場を駆け抜ける

 ドゴーン!

 広場に広がる激しい衝撃音。それと共に乱れ飛ぶ巨大な岩塊。

 遅れて小石の雨が降り注ぐ。

 徐々に晴れていく砂埃の中、広場の真ん中には真っ黒に焼けた一本の太い道が刻まれていた。





 

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