第45話 激闘!第六駐屯地!(15)

 再び増えるゲルゲの様子を見守る守備兵たちは呆然と立ち尽くしていた。

 そう、戦いの最中であるにもかかわらず、ただただ、なすすべもなく空を見上げていたのである。

 というのも、城壁の上にあれだけいたはずのコカコッコーの数がめっきり減っていたのだ。

 その代わりに、ゲルゲという魔人が飛んでいる。

 だが、先ほどまで空を覆いつくしていたゲルゲの群れは何を思ったのか、突然カルロス隊長にめがけて飛んで行ってしまったのである。

 しかもその数が激減したところを見ると、おそらくカルロス隊長がゲルゲの群れを粉砕したに違いない……

 おかげで、あれほど熾烈を極めていた攻撃がぴたりとやんでいた。

 たとえるなら、それは嵐の中のほんのささやかな安らぎの一時といったところ……

 だがしかし、ゲルゲが再び分裂を繰り返しはじめているのだ。

 増えゆくゲルゲを見まもる守備兵たちは思う。

 ――今度もまた……カルロス隊長のところに飛んで行ってくれるのだろうか?

 いや、そもそもである……

 ――カルロス隊長は無事なのだろうか?

 全体が見えぬ守備兵たちにとって今の戦況がどうなっているのか全く分からない。

 当然、先ほどのゲルゲの一斉攻撃を食らったカルロス隊長の生死など確かめようがなかったのである。

 だが、ただ一つはっきりしていたのは、先ほどからカルロス隊長の大声が全く響かないのだ。

 ――もしかしたら……もう……カルロス隊長は……

 どうすることもできない兵士たちは、増えゆくゲルゲをとともに不安を増幅させていくのであった。

 ――カルロス隊長がいないとしたら、次の攻撃目標は……もしかしたら……いや、確実に自分たちに向けられる……

 先ほど降りかかってきた魔人の恐怖が再び襲い来ようとしているのだ。

 ――おそらく……今度は……逃げられない……

 かろうじて生き延びた守備兵たちは思い思いにつぶやく。

「確実に死ぬ……死んでしまう……」

「いやだ……いやだ……」

「でも、どうすれば……相手は魔人……魔人だぞ……」

 そう考えると、もはや守備兵たちの視界には絶望しか浮かんでこなかった。

 もはやゲルゲに対する恐怖でおびえるその体は完全に硬直し、逃げ出す足すらもなくなっていたのである。


 だが、無数に空を飛ぶゲルゲたちも……その中には足がなくなっているモノもいたのだ。

 確かに空中戦において「あんなの飾りです。偉い人にはそれが分からんのですよ」という声が聞こえてきそうであるが、個体によっては足だけではなく、手や耳、鼻、目といったそれぞれ違った部位が欠落しているものもある。


 ええっと……ただいま、トビなどの鳥は空で喧嘩する際に足を使うんだぞ! というクレームを受けました。

 が……

 そんなことどうでもええわ!

 旧約聖書を見てみ! 旧約聖書を!

 聖書に出てくる天使たちの御姿を!

 そう、目玉に羽が生えているだけなのだ!

 腕や足などありゃしない!

 まさに究極形は手すら必要ない世界なのだ! 分かったか!

 

 だからこそ、その状態でも戦おうと思えば十分戦える。

 だが、さすがに羽がない個体については、分裂した瞬間に飛ぶことすらできずに地上へと落下しぺっちゃんこにつぶれていた……

 まぁ、このようにそれぞれの個体が、いろんな部位を欠落していたのであったが、しかし、よくよく観察してみると、どのゲルゲにも共通してないものがあった。


 そうそれは……

 

 け


 そう……髪の毛である。


 最初登場した時にはナルシストのようにリーゼントヘアーにまとめ上げていた立派な金髪が、今や皆、ツンツルてんのつるぴかハゲまる君になっていたのである。

 ここまできれいにハゲあがってていると、北斗シイタケによって脱毛されたのかと思ってしまうが……ところどころにかろうじて小さな毛が残っているところを見ると、やっぱりセレスティーノの輝きのほうが格段に上である。

 恐るべし! 北斗シイタケ!


 今や、数百体ほどに数を戻したゲルゲ。

 そのうちの何体かがカルロスに向けて突っ込んできた。

 先ほどのように全員が一斉に攻撃を仕掛けてこないところを見ると、少しは学習したようである。

 だがカルロスは慌てることもなく、腰を低くし盾を構える。

 

 がキーン!

 甲高い音とともにゲルゲの爪が円刃の盾を切りつけた。

 それと同時に、別の一匹がカルロスの背後から襲い掛かってきたではないか。

 これは前後同時攻撃! いや、左右からも加えた四方向からの攻撃!

 だが、カルロスの盾は一つ! 前に構えた物しかない!

 すべての攻撃を受けきるのは、まずもって不可能といもの!


 バキッ! バキッ! バキッ!

 砕け散る固い装甲!

 折れた骨と噴き出した血潮が辺り一面に飛び散っていく。


 だが、カルロスは微動だにしない。

 盾を構えた姿のまま動かないのだ。


 うぎゃぁぁぁぁ!

 前後左右から襲い掛かっていたゲルゲたちが血まみれの腕を押さえながら悲鳴を上げていた。

 そう、彼ら?の突き立てたはずの爪が見事に砕けちり、爪の固い装甲をまき散らしていたのである。

 しかも、その衝撃で折れたのだろう。指の中ほどからはとんがった骨が飛び出して指をいびつな方向に曲げているのだ。

 

 だが、そんな叫び声をあげている四匹のゲルゲたちの首が、いきなりはねとんだ!


 カルロスが大きく振り回す円刃の盾についた刃が彼らの首を切り裂いていたのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る