第38話 激闘!第六駐屯地!(13) 緑女たちの戦場

 カルロスとゲルゲが激闘を繰り広げる直前……

 そう、すなわち、巨大なガンタルトの口の中に『宿禰すくね白玉しらだま』を緑女もろとも放り込んだ頃のお話である。


 第六駐屯地の城門の背後では、奴隷兵たちが槍と盾を構え突撃の合図を待っていた。

 そんな彼らの耳には城壁越しに届く魔物たちの悲鳴や絶叫がやけに大きく聞こえてくるのだ。

 おそらく、すでに襲い来る魔物たちは城壁の近く、いや、もうすでに城壁にとりついて登りだしているのかもしれない。

 目の前に垂直にそびえる城壁によって外の様子を全く伺うことができぬ奴隷兵たちにとって想像するしか他にない。

 しかし、そうこうしているうちに、なぜか、空から人が降ってきたのだ。

「ぅぁぁぁぁあああ!」

 徐々に大きくなる叫び声。

 それも一人や二人ではない。

 次々と城壁の上にいたはずの一般兵たちが落ちてくる。

 ドシンという音ともに、次々と広場の地面に広がる肉の華。

 あたり一面があっという間に生臭い真紅に染まっていく。


 不安と恐怖が奴隷兵たちを襲う。

 彼らの視線が垂直に伸びる城壁をつたって上に伸びていく。

 そんな彼らの眼に映るのは絶望の光景。

 あれほど真っ青だった空が、いつしかコカコッコーの群れで黒く染まっていたのである。


 この様子……今回の戦いが、いつもの小競り合いではないことはすぐに理解できた。

 だが、号令一下、そんな外の激しい戦場に飛び出さないといけないのだ。

 ――ついに自分たちも出撃か……

 彼らのような奴隷兵たちの多くは主力である魔装騎兵たちが戦いやすいように一時的に魔物の進行を防ぐ壁役なのである。

 ――でも……今度は生きて帰れるだろうか……

 しかし、魔装騎兵と違って何ら特別なスキルを持たぬ彼ら……

 持っているスキルといえば、「亀頭の大きさ1.5倍!」や「亀頭の耐久力10倍!」、「武技!ブギブギ花金タマ赭ブロー」「チ〇コ in チ〇コ」などである。

 使えねぇ! 

 ……いや、使える! 十分すぎるほど使える!

 というか、作者自身、これらのスキルが喉から手が出るほど欲しい!のだが……

 そんなスキルしかないものだから、当然に死ぬ確率は高い……

 ――いやだ……

 ――怖い…… 

 だが、ここで逃げても結果は同じ……

 そう、奴隷の敵前逃亡は即死刑なのである!

 当然に裁判など行われずに、その場で身分が上位の者によって殺処分されるのである。

 まぁ、それが、単なる享楽で殺したとあれば、手を下したものも罰せられる。

 特に第六の駐屯地ではその取り締まりが厳しいので有名なのである。

 だが、そうはいっても奴隷の命が軽いのは、第六でも変わりない。


 しかし、そんな時である!


 地面を揺るがすような地響きが沸き起こったのである!

 いや、地面が揺れているのではない……これは、目の前の城壁が悲鳴を上げているのだ。

 見上げる視界。

 視界に映っていたはずの……まっすぐな城壁。

 そんな城壁が今、まるでゴムベルトでも湾曲させるかのようグニャリとうねっていたのである。

 外の様子が分からぬ奴隷兵たちにとって、その光景は全くもって意味が分からない。

 思考が追い付かない視界では、まるでスローモーションのように時間が流れていく。


 ついにうねった頂点が限界を迎え砕け散った。

 しかも、砕けた先から何かとがったような異物が飛び出してきたではないか。

 ――あれは……なんだ?

 徐々にはっきりとする異物の形……

 それは、何やら巨大なカメの鼻のようにも見える。


 だが、それよりも大きくなってくるのが、空から落ちてくる石の塊。

 その面積をどんどんと大きくしてくるのだ。

 ――まずい!

 しかも、その数は一つや二つではない。

 うねった城壁の端から崩れだした無数のレンガや石が、そのまま真下へと降り注ぎ始めていたのであった。


 悲鳴を上げながら逃げ惑う奴隷兵たち。

 少しでも城壁から離れようとする彼らたちに、もはや統制という言葉は関係ない。

 我先に逃げようとする者は前の者を押しのける。

 バランスを崩したものは大きく前にのめりこけ、倒れゆく。

 そして、そのものに躓く者がさらに多くの人間を引き留めるのだ。


 いまや地面に重なるように倒れる奴隷兵たち。

 そんな彼らの上に、容赦なく巨大な石が落ちてくる。

 どごーん!

 地面で砕ける巨石の下で、かすかに彼らの悲鳴が聞こえたようにも思えるが……もうすでに、そんなものを気にする余裕など誰にもなかった。


 城壁の前に広がる広場。

  日ごろ鍛錬等を行う広場は小学校の運動場ほど広い。

 そんな広場の端で九死に一生を得た奴隷兵たちが背後を振り返る。

 はぁ……はぁ……はぁ……

 肩で息をする彼らの視界に映ったのは濛々と立ち上る土煙。

 いまだにパラパラと小さな小石が雨音のような音を立てていた。


 そんな彼らは思う。

 ――いったい何が起こったのだ?

 いきなり目の前の城壁がうねったと思えば崩れたのだ。

 ――そう! 城壁はどうなったのだ?


 徐々に晴れゆく土煙。

 うっすらと浮かび上がる城壁の影。

 だが、その城壁の様子を見て奴隷兵たちは恐怖する。


 というのも、目の前の城壁が、まるで男性のオマタのようにパックリとVの字に裂けているではないか。

 しかも、オマタの先端には巨大な亀頭が口から白き液体を垂れ流しながらピクついていた。

 ――やばい……これは……確実にイッている……

 言わんでもわかると思うが、亀頭といっても決してチ〇コの事ではない!

 そう、これは巨大なガンタルトの頭!

 そのガンタルトの頭が、マサカリのように城壁をまっすぐに叩き割っていたのである。

 しかし、その裂け目はガンタルトの甲羅によってかろうじてふさがれている。

 ふさがれているのだが、その甲羅を伝えば、城壁の隙間を通ってやすやすと内部へと侵入することができるのだ。


 その様子を見た部隊長が慌てて命令を下す。

「魔物の侵入を許すな! 全力であの裂け目を防ぐんだ!」

 そう、Vの字のような裂け目の向こうから、魔物たちがガンタルトの死骸を乗り越えてなだれ込もうと集まっているはずなのだ。


 広場の後ろまで下がっていた奴隷兵たちは、その命令に従い盾を構えて全速力で今来た道を駆け戻りはじめた。

 その道上は砂煙が晴れたとはいえ、まだ辺りにはホコリの香りが立ち込める。

 兵士たちのまき起こす足音に、ところどころで積みあがるがれきがバランスを崩し音を立ててこぼれていった。

 そんな中をかけていく奴隷兵たちの眼前に厚き城壁の裂け目が近づいてきたのだ。


 時は昼過ぎ。

 太陽は傾き始めているとはいえ、いまだにまだ明るい。

 だが、城壁の裂け目の幅は部屋一つ分あるせいなのか影となって薄暗い。

 しかも、その影の中に無数のうごめく別の影がはっきりと見えるのである。

 もしかして、城壁の中にいた兵士たちが生き残っていたのだろうか?

「おーーい! 大丈夫かっ⁉」

 と呼びかけたその声は、急に勢いを失った。

 というのもその影に光るのは緑の双眸。

 緑の双眸は魔物の証なのである。

 そんな緑の眼光が薄暗い城壁の隙間の中で無数に……無数に怪しくゆれ動いている。

 そう、もうすでに魔物たちが城壁内に侵入し、すぐそこにまで近づいていたのだ。


 このまま魔物たちが城壁を超え駐屯地の中に入り込んでしまえば、数で劣る人間達の全滅は必至。

 今、何とかしないといけない!

 ここで食い止めないと後がないのである。

 だが、こんな数の魔物の群れを制することなどなど魔装騎兵でもないと絶対に無理筋なのだ。

 いうなれば、奴隷兵である自分たちだけでは、まずもって不可能ということだ。

 確かに不可能なのだが、奴隷兵には奴隷兵のプライドというものがあるのだ。

 ここまでの大勝負!

 もし……

 もしもである……

 ここで仮に生き残ることができれば……休息奴隷となり内地で自由に生きることもできるかもしれない。

 ならば!

 奴隷兵たちは一斉に手に持つ盾でその隙間を必死に押さえつけた。

「ひるむな! 押せ! 押し返せ!」

 おおおおおお!

 奴隷兵たちから見る城壁の裂け目はおよそ人二人分。

 カメの頭はそんなに大きくはない。

 亀頭と同じで先細りなのだ。

 そんな尿道のように狭まった出口を奴隷兵が並べた盾がふさぐ。

 さらにその上部をふさぐために奴隷兵たちがその背に上っていくのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る