第25話 激闘!第六駐屯地!(12) カルロス vs. ゲルゲ

 カルロスはフラフラと揺れる体を何とかダン●ン(仮称)の方へと向ける。

 太陽光サンレーザーの一撃に加え、限界突破の重ね掛け……

 意識も次第にもうろうとし始める。

 だが、ココで膝をつくわけにはいかない。

 走りゆく仲間の背を守るためにも、この糞ダン●ン(仮称)を押さえないといけないのだ。

 だが、今のカルロスに残されている力はわずか……おそらく、あと一撃を繰り出せるかどうかである……

 ならば、その残された一撃をもって、確実にダン●ン(仮称)の核であるタマタマを打ち抜かなければならないのだ。


 しかし、目の前にそそり立つダン●ン(仮称)もまた生き物である。

 いかに下等なスライムであったとしても防衛本能は備わっている。

 先ほどまで石床の上で冷却していたタマタマを引きずり上げて体内に取り込んでいたのである。

 いまやもう……タマタマを踏みつぶして一件落着とはいかないようである……

 ちっ!


 そんなカルロスに無数の触手が伸びてくる。

 だが、触手の先端は、なぜかカルロスを撃ち抜くことなく、その横をかすめていくのであった。

 そう、それはノックアウト寸前のカルロスなどまるでアウト・オブ・眼中のごとく相手などする気はサラサラなく、活きがいい魔装騎兵の逃げゆく背中を懸命に追っていたのである。


 ――行かせるか!

 当然にカルロスもまた逃げる仲間を守るため背後に伸びゆく触手をつかもうと顧みる。

 しかし、もうすでにフラフラの体。

 もつれる足はガクリと崩れ、反転にともなう遠心力に従って体が流れてしまうのであった。

 だがしかし、さすがはカルロスというべきか!

「我!死すとも! 決して膝などつきはせぬ!」

 不屈の精神で何とか一歩を踏み出して倒れる体を支え切ったのだ。

 ぐにゃり……

 だが……その一歩が石床の上に転がる何かを踏みつけていた。


 しかし、その瞬間、あれほど勢い良く伸びていた触手の動きがピタリと止まったのである。

 そして、ゆっくりとカルロスのほうへと触手の先端を向けなおしはじめたのだ。



 ――いったい何が起きたのだ……

 一瞬、訳が分からなかったカルロスであったが、踏み出した一歩を引き上げた瞬間、その全てを理解した。

 ふっwwww

 そんなカルロスの血で汚れた口角が、いやらしい笑みを浮かべていた。

 そして、次の瞬間、引き上げていた足を再び勢いよく石床へと叩き落したのである。

 ぐにゃり……

 再び、カルロスの足の下で何かがつぶれる音が小さく響いた。

 だが、その音を聞くや否や、鎌首をもたげる触手たちが、怒り心頭の勢いでカルロスめがけてものすごい勢いで襲ってきたのである。


 カルロスは石床に押し付けた足をぐりぐりとこすりつける。

「そんなにこれが大事かよwww このリーゼントがwww」

 あれほどきれいに整っていたリーゼントヘアーの塊が、今や噛んで嚙んで噛みまくったすえに完全に毛先が広がってしまった歯ブラシのようにボサボサになっていた。

「ならば! 貴様の息子同様、後生大事にその体の中にでもしまっておけ!」

 そして、そんなボサボサリーゼントをダン●ン(仮称)のもとへと蹴りだしたのだ。


 カルロスを襲わんと迫ってきていた触手たちだったが、すぐさま向きを変えボサボサリーゼントの軌道を追い始めた。

 何回かのバウンドの後、石床に転がるモップのようなリーゼント。

 もはや……そんなリーゼントはまるで死んでしまったかのように動かない……

 まぁ、そもそも髪の毛だから動きませんけどね……

 だがしかし、触手の群れは、まるでそのリーゼントに別れを告げるかのようにその周りをぐるりと一周取り囲んでいたのである。

 しかも、そんな触手たち肩が、わずかに震えているのが見て取れる。

 触手に肩?

 あぁ、触手に引っ付いている分裂体の肩のことねwww

 さながらその様子は、どこぞの族長の息子が非業の死を遂げ、その葬儀を執り行っているかのような、何というか……おごそかな空気が流れていた。


 だが、次の瞬間、そんな雰囲気が吹っ飛んだのだ。

「うっほぉっぉおぉおぉぉおぉぉぉおおおおおぉ♥♥♥♥」

 そう、ダン●ン(仮称)の口からこの世のものとは思えないような叫び声が発せられたのである。

 怒り狂ったかのように白濁の唾液をまき散らす大きな口。

 今や、その大きく開け広げられた口がカルロスに向けられていた。

 そして、喉の奥には、また、あの輝きが……

 次第に輝きを増していく、その光……

 これは!

 もしかしたら……

 太陽光サンレーザー!

 いや、もう、そのダン●ン(仮称)の形からして!

 息子サンレーザーwww


 ふっwww

 カルロスはそんな息子サンレーザーの光を見ながら不敵な笑みを浮かべていた。

 もしかして、死の覚悟を決めたとか……

 というのも、今のカルロスの魔装装甲はボロボロ……

 とてもじゃないが、再び息子サンレーザー、もとい、太陽光サンレーザーの一撃を受けて耐えられるとは思えない。

 だが、その表情は、どちらかというと勝利を確信したかのような力強さを持っていた。

 そんなカルロスが天を指さす。

 その先には赤く輝く一番星。

「お前にはあの死兆星がよく見えていることだろう!」

 って、カルロスさん……

 それは死兆星ではなくて宵の明星、金星だと思いますwww

 

 挑発のせいか目の前のダン●ン(仮称)の体が熱を帯びていく。

 いや違う……おそらく、奴の核融合エネルギーが発熱しているのだろう。

 その熱量はすさまじい……

 先ほどの太陽光サンレーザーの一撃目……その高熱から体を守るために、わざわざ核を外に出して冷却までしていたほどなのだ。

 それがいまや、ダン●ン(仮称)の体の中に取り込まれてしまっている。

 当然に、奴自身の体がその熱量に耐えられるとは思えない。

 ならば……


 次第に、何かを嫌がるかのようにダン●ン(仮称)の肉の体が波打ち始めた。

 体表面に浮かび上がる一つの瘤。

 その瘤が次第に下に下におりてくる。

 そして、先ほどと同じように石床の上に大きく広がりはじめた玉袋の中に一つのタマタマが再び現れたのだ。


 カルロスが動く。

 太陽光サンレーザーが発射されるまでの一瞬が勝負!

 それを過ぎればカルロスは確実に死ぬ……

 そして、第六駐屯地も崩壊することだろう……


 だが、ダン●ン(仮称)もまた、そのタマタマを守るために触手の肉壁を作りだしたのだ。


日月星辰じつげつせいしん!」

 カルロスは右足を軸にするかのように体を回転させ円刃の盾を大きく振りだした。

 これがカルロス最後の一撃! 日月星辰!

 それは円刃の盾を使うカルロスの必殺技!

 大きく重い円刃の盾であるが、それを限界突破をした体の回転を使って無数の高速回転軌道を作り出すのである。


 だが、弧を描いて飛んでいく円刃の盾は、目の前にそそり立つ触手の肉壁を切り裂いたのみ。

 到底、その背後にある目的のタマタマには届かない。


日月星辰じつげつせいしん! 日の軌道!」

 カルロスの体が再び回転するとそれに伴い、円刃の盾が新しくそそり立った肉壁を切り裂いた!

 だが、ダン●ン(仮称)も負けてはいない。

 再び触手を束ねるとタマタマの前に別の肉壁を作り出したのだ。


日月星辰じつげつせいしん! 月の軌道!」

 さらに加速するカルロスの体。

 すでに限界を迎えている老体が悲鳴を上げる。

 ぐぅぅぅぅぅ!

 だが、歯を食いしばるカルロスは止まらない。

 それどころか、さらにスピードを上げるのだ。


 肉壁が次々と壊れていく。

 だが、その後ろでは新たな肉壁が生まれてくる。

 拮抗する攻守の力。


 だが、さらにカルロスのスピードが上がるのだ。

日月星辰じつげつせいしん! 星の軌道!」

 うおぉぉぉおぉぉおおぉおおぉぉおぉっぉぉお!!!!

 もう、肉壁の生成が間に合わない。

 うっほぉっぉおぉおぉぉおぉぉぉおおおおおぉ♥♥♥♥

 徐々に円刃の盾の軌道がタマタマに近づきつつあった。

 だが、ダン●ン(仮称)の口の中の輝きもマックスになろうとしている。

 すでに射出準備に入ったダン●ン(仮称)のカリ頭が反り返る!


「くそチン野郎が! やらせるかぁぁぁぁぁぁぁあ!」

 タマタマを守る最後の肉壁が引き裂かれる。

 ついに姿を見せるタマタマ。

 あれを潰せばチェックメイトである!

「くたばれぇぇぇえ! 日月星辰じつげつせいしん! しんの軌道! お前はもうしんでいる!」

 最後の一撃をタマタマがけて振りぬくカルロス。

 だが、それよりも一瞬早くダン●ン(仮称)の口の中で白く輝く光が力を増したのであった!

 ドゴゴっごごおごおおおおおおん!

 激しい振動が城壁を伝わり……消えていく……

 

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