第4話 お手伝い
木々の緑が濃く色づいてきた頃、シュウが珍しく美羽を連れて出かけた。背中には、大きな荷物。
「いい加減、アンタのもの買わないと。いつまでもそんな服着てられないだろう?」
美羽が身につけているのは、小さくなったシュウの服。作務衣のような黒や灰色の内衣に、立襟で左に打ち合わせのある裾の長い上衣。上衣の色は目の覚めるような鮮やかな色ばかり。今着ているものも、夏の空のような地色に、裾には金色の糸で花の刺繍が施されている見事なものだ。シュウには小さくなったといっても美羽の身体には合わず、内衣の袖裾は常にめくっており、上衣も裾を引きずる為裾をあげて縫いとめている状態だ。
これでは、この見事な服は泣いているだろう。
「買う……」
当然、美羽にはこの世界のお金なんてない。それはシュウだって知っているのだから、支払いをしてくれるということだろう。でも、そこまで世話になっていいのだろうか。不安そうに、自分の、着ている服を引っ張る美羽にシュウが笑った。
「アンタにも仕事してもらって、その金で買う」
「仕事?」
「そう、売り子。これから時々やってもらうから、しっかり覚えてくれ」
売り子。背中の荷物を売るのだろが、別の世界からきている自分がそんな事をして大丈夫なんだろうか。不安は山のようだったが、世話になっているのに嫌だとはいえない。美羽は黙ってシュウの後をついていった。
太陽が真上に来くるころには周りの景色はすっかり変わっていた。
道は獣道ではなく車が通れるほどの幅にかわり、道の両側には家が立ち並ぶ。すれ違う者達は同じような立襟で打ち合わせのある服を着ており、姿は美羽の知っているそれと変わらない。この人達は全員、獣の姿に変わるのだろうか。
「おい、少し急ぐぞ。帰りに良く見ていけ」
明らかに遅くなった美羽に、シュウが呆れる。
「シュウ!なんだ、久しぶりに来たかと思えば女連れか?なんだ、その子は?」
「元締め、お久しぶりです。コイツは、まぁ、拾ったんです。今度から仕事手伝わせようと思って」
「拾った?」
「ええ、拾ったんです」
ニッコリと笑い、拾った、と繰り返すシュウ。
確かにそうなのだが、と複雑な想いは飲み込んだ。シュウの背中に隠れるようしながら頭を下げた美羽を、ジロジロと眺める元締め。
「元締め、そんなジロジロと……」
シュウが困った顔で抗議してくれたが、居心地の悪い視線はなかなか外してもらえなかった。
「元締め、場所変えてほしいってヤツが来てますけど、どうします?」
ドアの向こうから聞こえる声に、今行く、と返事を返した。
「日が沈むまでなら、いつもの場所使え。あと、妹って事にしておけよ」
ぼそり、と呟いてドアの向こうに戻って行った。
「妹、だってさ」
「お兄ちゃん、って呼んだらいいですかね?」
「シュウでいい。でも、妹なんだから敬語はいらねぇ」
「さて、この辺りだな」
市場の入り口付近。人の出入りも多いこの場所をもらえたのは、シュウが何年も前から市場で商売をしているからだ。テキパキと敷物を広げて、一つ一つアクセサリーを並べていく。周りには、食べ物や食器、服に雑貨など様々な店が並んでいる。
「お祭りみたい」
どんなものが売っているのか、若い女性が並んでいるのは何の店なのか、気になって仕方がない。この世界にきて、初めての感覚だ。
「これが売れたら、後で見にいくから。おとなしく働け」
呆れたようにシュウが呟く。慌てた美羽は、アクセサリーを一つ一つ並べていった。悪いとは思いながら、シュウが並べている物も、人目を引きやすいように並べなおす。
「うまいもんだなぁ」
「フリーマーケットで、鍛えたんです」
美羽の母もアクセサリーを作るのが好きで、よく二人で作ってはフリーマーケットに出店した。仕事と家事で忙しかった母。一緒にアクセサリーを作る時間、フリーマーケットで一緒に働く時間は、美羽にとって本当に楽しい時間だった。それが、まさかこんな世界で役に立つなんて。
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