0001 君臨スル者

「あっはっはっは!!! 本当に…! 本当ににやりやがった!!」


 暗い空間にいくつものモニターが投影されている。その光に照らされる二人の影。

 一番大きなメインモニターには、石動いするぎこめっとが配信中のゲームプレイ実況が映し出されている。影のうちの一人、小柄な方はその実況で起きたアクシデントに指を差して笑っていた。


「酷いなぁ、『本当に』だなんて……。キミが仕向けたんじゃないか。それと『やりやがった』なんて言葉も良くない。ファンが聞いたら失望するよ?」


 大柄な影が諭すように言う。


「ダイジョーブダイジョーブ、MIYUKIのファンはありのままのMIYUKIを愛してくれるから! 透亞とあっちのところとは違ってね~」

「ふふっ、じゃあリアルの世界では? 生徒会長としての風格ってものがあるんじゃないのかい?」

御幸みゆき晴都はるともまた、MIYUKIの一側面にすぎないのさ。あの姿は、ありのままのMIYUKIのひとつなんだよ」


 そううそぶいた影は、タンッとつま先で床を踏み鳴らした。それを合図に、光の粒子が手前にあつまり、二つの観戦用シートが出現する。SEEF内でのゲームイベントで、VIPルームに置かれるシートと同じデザインのものだ。


「さぁさぁ、透亞っち! ここから面白くなるからゆったり楽しもうじゃないか!」


 そう言いながら小柄な影はシートに腰掛け、背もたれにより掛かる。前面のメインモニターの明かりに照らされて、その姿があらわになった。

 癖が強く、くるくると巻いたプラチナブロンドの髪。右の瞳は金色に、左の瞳は銀色に輝く。その二つの宝石が収められた顔には、あどけなさが残っていて、少年にも少女にも見える。

 左右で異なる瞳の色に合わせたように、白と青をベースにした衣装も中央からくっきりと左右非対称アシンメトリーにデザインされている。右半分が白くつややかな光を帯びたレザー、左半分はブルーのデニムで作られたジャケット。ハーフパンツは左右の色がジャケットの逆となり、さらに左半分にはスカートのようなプリーツ加工の飾り布が付けられている。

 SEEF世界に入り浸っていたら、一度は何処かで眼にするだろう。〈六華仙〉の筆頭、MIYUKIの姿がそこにはあった。

 


「それでは失礼するよ」


 大柄の方の影もシートに座り、メインモニターの光を浴びる。

 前衛的な衣装のMIYUKIとは対照的に、大柄の影の正体は、数百年前の軍人や王族を思わせるような時代がかった出で立ちだった。首の後ろで束ねられた腰まで届く金髪。切れ長の眼。美形だが精悍さもたたえた顔。

 黒いジャケットは、金モールや肩章、金ボタンに、そして首元と手首はフリルに彩られ、華やかな風格をたたえる。スラックスはジャケットと同じ漆黒。対して、膝上まであるブーツは純白で、やはり金色の装飾が所々に施されている。

 腰から下げていたサーベルは、座る時にじゃまになったためシートに立てかけている。

 こちらもSEEFでは馴染みの顔だ。〈六華仙〉のナンバー2と目され、圧倒的な女性人気から「王子」と呼ばれる男、伊波いなみ透亞とあだ。


「しっかし、本当にバカなんだなあアイツら。あれで家族ファミリーに戻れると思ってるんだもん」

「〈六華仙〉の仲間が公の場で〈チートソウ〉なんて使ってはいけないよね」

「そうそう! あぁーーっ!これでやっとアイツラを一掃できる!」


 MIYUKIは大きく伸びをして、そこに「清々するわ」と付け加えた。


「本当にキミは悪い奴だな」


  透亞は苦笑する。


「だってさー、アイツら邪魔なんだもん。授業で教えたことの実践もマトモに出来ない無能のくせして、徒党組んでさ。〈六華仙〉のこめっとがまたそれを擁護するから邪魔でしょうがない。これで、こめっとごと切り捨てられるよ!」

「おや? こめっとちゃんも追放なのかい? 」

「まぁ見てなって。アイツこれから取り返しのつかないことをするから!〈六華仙〉にふさわしくないようなコトをね!」

「へぇ…それは楽しみだ。それにしてもMIYUKI、少し急ぎ過ぎじゃないか? この前、イオンくんを粛清したばかりだろう?」

「邪魔なヤツは誰だろうと、退場してもらうよ。ヴァンドームがSEEF芸能界に君臨するためにね。それは透亞っち、君だって例外じゃない」

「ほう?」

「君がMIYUKIとは違う思惑で動いてることは知ってるよ? 今は利害が一致してるから、こうして一緒に座ってるけど、もし邪魔になったら……だ!!」


 MIYUKIは、メインモニターの周囲に展開するサブモニターのひとつを指差した。

そこにはつい数分前の記録映像、〈チートソウ〉でダイラントの破壊熱線の直撃を受けるプレイヤーの姿が映し出されている。


「おお、怖い怖い…」


 透亞は肩をすくめて首を振った。

 

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