6-6 チートソウ

 何が起きた? 目の前の出来事に理解が追いつかった。


 レッド・サンの計略通り、第2ラウンドでも復活した怪獣帝ダイラント。第1ラウンドと同じく、石動いするぎLxLxLエルキューブの陣営を攻撃すると誰もが思った。でも、その破壊熱線はレッド・サンに向けられた。


 『エイリアンズアース』は、ユニットを動かして勝負するSLGだ、プレイヤー本人が戦闘に介入することもないし、その逆もありえない。ましてやユニットをあるじであるプレイヤー本人に攻撃を仕掛けるなんて……!


「うわあああっっ!!?」


 レッド・サンのプレイヤーシートは熱線を受けて大爆発を起こし、跡形も無く吹き飛んだ。爆炎が晴れるとそこには何も残されていなかった。


「レッド・サン!!」


 シートに座っていた本人の姿すらない。レッド・サンは……アカサカはどこいった!?


『オリベ! オリベ聞こえるか!?』


 耳元にホリキの声。あいつはSEEFにはログインせず、現実世界からこの世界をモニターしている。


「ホリキ! どうした? 今、何があったんだ!? レッド・サン……アカサカは!?」

『 アカサカは強制ログオフして、こちらに戻ってきた。タイムペナルティが付いて、しばらくそっちには行けない』


 タイム・ペナルティは、VoGのようなアクションゲームにおいて、ライフがゼロになったときに発生する「擬似的な死」だ。これが発生すると、一定時間SEEF世界にログインすることができなくなる。


「なんでこのゲームでタイムペナルティが発生するんだよ!? いや、そもそも…」

『忘れたかオリベ。その世界は、思考がすべてを決めるSEEFだ。その世界のルールは、思考次第でいくらでも破ることが出来る。例えば〈ソウ〉を使って!』


 そうだった。例えば通常のビデオゲームでは、ルール外の行動を取ることは出来ない。バットを持ってバッターボックスに立つプレイヤーは、ボールを打つことしか出来ない。バットを振るう対象として、ボール以外の物体がプログラムされてないからだ。

 けどSEEFは違う。SEEFでやるゲームは、現実世界のそれと似ている。バッターボックスに立つプレイヤーは、皆で決めたルールに従ってボールを打つのが普通だ。でも、強い意思と、社会的リスクを負う覚悟があるのなら、主審の頭を殴りつけることだって出来る。

 もちろん、そういった行為を防ぐためのリミッターは用意されている。けど、意志力がそれを上回りさえすれば、理屈の上では可能なのだ。


『もっとも、一流のゲーム企業が作ったリミッターに介入できる精神力なんて半端なもんじゃあない。多分〈チートソウ〉だ』


 〈チートソウ〉とは、SEEFのシステムに介入して擬似的に「強い意志の力」を実現させる違法プログラムだ。

 それは、今目の前で起きたようなゲームでのPプレイヤーKキルや、仮想通貨ISIイシの不法な新規発行マイニングなど、ろくな使われ方をしないことが殆どで、闇市場で高値で取引されているらしい。


「ちょっと!! アンタ達どういうことよ!?」


 ミヤコは抜身の刀のような鋭い眼で、石動とLxLxLエルキューブをにらみつける。


「いや… 俺たちに言われても……」

「そ、そうだよ! こんなの…わたしたちだってわからないよ!」


 石動たちもこの状況に困惑していた。そりゃそうだ。いくら自分たちが不利な状況とはいえ、お遊びの試合で〈六華仙〉がこんな汚い手を使うはずはない。

 けど、異常事態にも関わらずゲームは進行中だった。セミオート設定にされている二人のユニットは、ダイラントが制御できず滅亡寸前まで追い詰められた地球人に猛攻を加えている。このまま行けば第二ラウンドは彼女たちが勝つだろう。


「そのまま勝って下さい! これはお二人のための配信です! よそ者にいつまでもデカい顔させちゃいけませんよ!!」


 観客席の中から何者かが二人、プレイフィールドに乱入してきた。


「お前らは………」

「へへっ 詫びを入れに来ました。〈チートソウコレ〉は手土産ッス!」


 二人とも、僕がよーく知っている顔だった。SEEFこっちの世界ではビッグマウスに実力が伴わない三流アイドルとして。

 現実あっちでは、ホリキを痛めつけ、普通科生徒を脅す不良芸能科生徒として……


「この勝負に勝ったら、俺たちを家族ファミリーに戻してください!」


 そいつらは、華院カイン阿須真アスマ由名瀬ユナセ魔綺マキの二人だった。


 


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