6-5 デビュー曲初披露 そして…

  "吹き抜ける 風が運んできた"

  "貴女の 好きだった華の香"


 それは澄んだ声のアカペラから始まった。ボーカルボイス用は加工を行っていない。キャラメイクのときにTEIKAが決めた会話用ボイスと同じものを使う。

 エフェクトやAI補正もなしだ。久能は、炎浦ほのうらイオン時代から歌唱テクニックには定評があったので、それを活かしたかった。


  "私は どこまでも追うでしょう"

  "風の先に その華は必ず咲くから"


 続いて三味線が奏でる軽快なイントロ。そこに尺八の音色が加わる。

ミヤコのステージが…僕たちが作り上げた初めてのステージが今、始まる。


  "私が 往くその道は"

  "何人たりとも 阻めやしない"


 和太鼓とエレキベースが刻むリズムと、激しく切り裂くようなギターリフが重なる。それに合わせてブーツで力強く地面を蹴り上げてステップを踏むミヤコ。途中から次のパートのために、刀の柄に手をかける。


  "私がたずさふ 白き刃は"


 ここからがこの曲の魅せ所だ! VoG関ケ原のプレイ記録を元に再現された騎馬武者たち。彼らは隊列をなしてミヤコに襲いかかる。歌詞に合わせるようにミヤコは腰から白い刃を抜いて構える。


  "真っ赤な真っ赤な 華 咲かす"

 

 ミヤコは高く跳躍すると、騎馬武者にむかって白刃を一閃する。


  "それは 貴女の好きな 華ではない"


 ぐらりとバランスを崩して落馬する武者。そこから真紅の彼岸花が咲き乱れる。


  "されども私は 咲かすでしょう"

  "幾輪いくりんでも その華を咲かすでしょう"


 そしてサビ。TEIKAがコンセプトに沿って作ったヨナ抜き音階で構成されたメロディライン。リズムはミヤコの剣舞と完璧にシンクロしている。ホリキが、強引にTEIKAの作曲AIに組み込んだ、VoGプレイ記録の成果だ。


  "私が欲しい その一輪のために"


 ミヤコの動きが止まる。周囲には一面に彼岸花が咲き乱れ、中央に白い刃を輝かせるミヤコ一人が立つ構図。


  "風の向こうの 一輪のために"


 そして最後のワンフレーズは、楽器隊の音を退かせて、再びミヤコのアカペラで締める。刀を納め、凛とした表情で立つミヤコ。


 曲自体は1分30秒と短い。編集の時間を惜しんだというのが一番の理由だけど、TEIKAの分析で、アイドルの曲が短時間化しているという傾向や、アウェイで長時間ステージを独占するのは得策でないという考えも含まれている。人気が出たらロングバージョンを作ればいい。


「ありがとうございました!」


 ミヤコが深々と頭を下げると、歓声の波が一気に押し寄せてきた。コメント弾も多数投げ込まれる。


 >>メチャクチャいいじゃん!

 >>ミヤコちゃんかっこええ……

 >>しゅき………

 >>かっこよすぎる!惚れた!

 >>ゲーマーとしてだけでなくアイドルとしてもファンになったかも


 予想以上の高評価だ!! 久能、アカサカ、ホリキ、やったぞ!! 僕たちの作戦、大成功じゃんっ!!



「お姉ちゃん、すごい……」

「思ってた以上だな、アイツ……」


 石動いするぎたちの方を見る。彼女たちの想像も超えたステージを披露することが出来たようだ。〈六華仙〉に実力を認めさせれば、これからの活動はもっとやりやすくなる。


 もっとも……


「さぁレッド・サン!この調子で次のラウンドも勝って完封するよ!!」


 久能本人は、実力を認めさせるどころか、ここで石動を倒すつもりのようだけど……



      *     *     *



  第二ラウンド目。ダイラントを警戒して、石動率いるクリーナーズは環境改造と酸素排出をためらっている。そのため、第一ラウンドのような攻勢に出れずにいた。

 一方でレッド・サンは、汚染地域を作るためにミサイルをバカスカ撃ち込んでいる。


「ひとつだけヒントやるよ。俺たちにダイラントを出させない方法が一つだけある。LxLxLエルキューブ、お前ならわかるよな?」


 レッド・サンはそう言って挑発する。ダイラントを封じる手。それはウィズダミアンが持つ最終兵器の一つ「サテライトシャッター」だ。

 これを衛星軌道上に展開すると、地球上へ降り注ぐ日光が遮断され、永遠の夜が訪れる。結果、地球の気温は氷点下まで下がる。

 そうなると、放射能汚染や大気組成の条件をクリアしていても、ダイラントを復活させる事が出来ない。それどころか地球人は、氷点下の中で生き延びる事が精一杯となり、一気に不利になる。


 けど、この手をLxLxLエルキューブは絶対に使わない。いや使えない。そう僕は睨んでいた。


LxLxLエルキューブは石動こめっとの引き立て役だ。誰よりも本人がそれを意識している。石動の活躍の邪魔になるような事は絶対にしないよ』


 試合前に僕が、アカサカと久能に話したアドバイスだ。これまでの彼らのステージやゲーム実況でも少なからずそういう局面があった。この二人の最大の弱点は個々にある。


 地球を闇の世界に変えて、ダメージを受けるのは地球人だけじゃない。植物生命体であるクリーナーズも、光合成が不可能となり、地球人以上の打撃を被ることになる。

 つまり、石動を見捨てないとダイラントの復活は阻止できない。それはLxLxLエルキューブが絶対にできない決断だった。


「お兄ちゃん……」

「くっそ…! 出来るわけねえだろそんなの!!」


 LxLxLエルキューブと石動は手をこまねいているが、クリーナーズは存在しているだけで酸素濃度を上げる特性がある。二人は何もしていなくても、じわじわと追い詰められていくのだ。


「レッド・サン、援助するよ!!」


 さらに、ミヤコのセイバーズは、NPC勢力のガス生命体「フォギアン」を征服していた。彼らの兵器は、任意の気体を調合して待機中に放出することができる。第一ラウンドよりも緩やかとはいえ、確実に地球上の酸素濃度は上がっていった。


「そろそろだな……ミヤコ!」

「オッケー!」


 すでにファントムズも手中に収めていたミヤコは、前回と同じ座標に精神感応派を打ち込んだ。再びあの咆哮が全地球に響き渡る。


「今回もいただきだ!」


『ゴォォギィャアアアアア!!!』


 太平洋上の孤島から復活するダイラント。即座に目覚めの一発、破壊熱線。


「えっ!?」


 熱線の標的は……誰もが予想していない場所だった。


「うわああぁっ!!」


 ダイラントは首を持ち上げ青白い熱線を吐き出す。それは、レッド・サンのプレイヤーシートに直撃し、大爆発を起こした。

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