6-4 発動・地球侵略指令

 次々と降下を開始していく異星人の戦艦。そしてそれを迎撃するミサイル群。衛星軌道上で無数の爆発が起きる中、1勢力のみ、下ではなく真横に向かって移動していた。


 ミヤコ率いる『セイバーズ』の部隊だ。本来の侵略対象である地球人を率いるのはレッド・サンだ。つまりセイバーズと地球は同盟関係にある。地上に彼らの敵はいない。


「それじゃーアタシから始めさせてもらうよ!!」


 NPC勢力のひとつ、タコ型宇宙人『テンタクリアン』の母艦に突撃を仕掛ける。地球からの(つまりレッド・サンからの)迎撃がもっとも集中していたのがこの勢力だ。そのため、降下部隊に増援を送りだし本体が手薄になったところに宇宙サムライ達が殴り込みを仕掛けた。

 巨大な全体マップの一部に、平面のウィンドウが表示される。そこには甲冑を思わせる装甲服を着たセイバーズの戦士達が、テンタクリアン母艦のジェネレーターを占拠する様が映し出されていた。


「いいぞ、ミヤコ! そのまま軌道上の制圧を頼む!」

「オッケー!」


 地球降下が完了する前にNPC勢力の母艦をとし、彼らの技術を奪うというのがミヤコとレッド・サンの作戦だった。


 一方で、石動いするぎこめっとの『クリーナーズ』と、LxLxLエルキューブの『ウィズダミアン』は、犠牲を払いつつも地上に拠点を築くことに成功したようだ。さすがに動きが早い。


「ふふっ☆ いくよー、お姉ちゃんたち! 地球に降りればコッチのもんだから!」

「我々はいつでも降伏を受け入れる用意がある! 争いはやめて宇宙連合に加盟したまえ!」 


 二人は母艦から物資をおろしつつ、地上に資源採掘プラントを構築して、拠点を恒久的な基地へと発展させていく。防衛システムが完成されると、攻め落とすのは一気に難しくなる。


「ミヤコ! 宇宙うえの状況はどうだ?」

「もうちょっと待って!」

「早くしてくれよ、お前がカギなんだからな…!」


 ミヤコはテンタクリアンを制圧してから流れるように、別のNPC勢力である『ファントムズ』の攻略にかかっていた。けど、今度は奇襲が失敗して、攻撃は難航している。


「お花いーっぱいにしちゃうよー!」


 植物生命体であるクリーナーズは、地球の汚染物質を除去しつつ環境を自分たちに適合したものに作り変えていた。いつの間にかサハラ砂漠は花が咲き乱れる無限の花園に変貌している。

 石動はプレイヤーシートから、アフリカ大陸北部に飛び降り、花畑の上で小躍りしていた。


 >>やべえ… こめっとちゃんかわええ……

 >>宇宙戦争してる中ここだけ平和

 >>5万回スクショした


 その愛らしい一幕に、コメント弾が投げ込まれる。LxLxLエルキューブも余裕の表情で戦局を見守っていた。


 クリーナーズの活動で、地球大気の酸素濃度が上昇している。地球各地で山火事が発生し、地球軍の各都市・基地にも被害が出ている。

 一方、LxLxLエルキューブのウィズダミアンは占領地域に巨大なドームを築き環境変化による影響を無効化している。


「くそっ! 除草剤だ!!」

「ムダだよーっ♪」


 地球軍が花園に向かって化学兵器を撃ち込む。が、クリーナーズの環境改造プラントはそれすらも自分たちの栄養源としてしまい、花畑が拡大していくだけだった。これだけ環境改造が進行してしまうと、地球人の技術では太刀打ちが出来ない。


「おまたせ、レッド・サン! ファントムズを制圧したよ!」

「よっしゃ!」


 劣勢の中のわずかな勝利。観客にはそう見えていたけど、レッド・サンは不敵な笑みを浮かべている。


「ミヤコ! ファントムズから奪った技術の中に『精神感応波』っていうのがあるはずだ。それを今から送る座標に向かって撃ってくれ」

「これかな? えーっと……本当にでいいの!?」

「大丈夫だ、やれ!!」


 ファントムズは精神的な攻撃を得意とする種族で、敵勢力の戦意喪失や仲間割れなどを引き起こす技術を有している。けど、ミヤコがそれを撃ったのは、クリーナーズの花園でも、ウィズダミアンのドームでもなかった。ターゲットは、太平洋上に浮かぶ孤島……。


「何やってるんだあいつら?」

「あんなところに……なにかあるの、お兄ちゃん?」

「いや、オレにもよくわから……」


 言いかけた所でLxLxLエルキューブの表情が固まる。


「お兄ちゃん?」

「しまった! そういうことか!!」


 ミヤコが精神感応波を打ち込んだその島が震えだした。中央の火山が噴火し、地面が裂ける。そして


『ゴォギャアアアアアアアアォォォォォォン…!!!』


 弦楽器をデタラメにかき鳴らしたような、甲高く、鋭く、そして重たい余韻を残す特徴的な鳴き声。大地の裂け目からゆっくりと巨大な黒い影が姿を表す。


「地球の戦力は人間だけじゃないんだよ!」



 観客たちの歓声がひときわ大きくなった。


 >>ダイラント!!

 >>すげえ!初めてライブで見た!!!

 >>意図的に出せるもんなのかアレ!?

 >>これは勝てる気がしない…


 吹き出し型のコメント弾も多数投げ込まれる。



 怪獣帝ダイラント


 『エイリアンズアース』の最新アップデートで実装された、地球の切り札とも言える最強ユニットだ。古生代ペルム紀、地球生命の頂点に立っていたとされる伝説の怪獣で、一度目覚めると地球の敵(つまりは異星人たち)を滅ぼし尽くすまで戦い続ける。


 怪獣帝は目覚めの挨拶と言わんばかりに、口から破壊熱線を吐く。建設中だったウィズダミアンの前線基地や、周辺に展開していた大部隊が溶けるように消滅した。


「うわあああああ!!!」


 LxLxLエルキューブの悲鳴。建設中とはいえ、一発で基地が吹き飛ばされたのだ。彼にしてみれば、たまったもんじゃない。

 ダイラントは、見ての通りチートすぎる性能で実装されたものの、登場条件が非常に複雑で意図的に出せるものではないとされていた。でも、レッド・サンはここまでのプレイで、入念に布石を打っていたのだ。


「ダイラント復活の条件は、放射能汚染と、古代の大気組成を再現すること。まずは核ミサイルを撃ちまくって汚染地域を拡大させる。次にクリーナーズの環境改造で大気中の酸素濃度を上昇させる。で、最後にセイバーズの闘争心を、ファントムズの精神感応波で増幅して送り込めばお目覚めってわけよ!」


 レッド・サンは簡単に言うが、綱渡りな条件だ。まず汚染地域を広げるというのが、放射能耐性の低い地球人にとって不利なので、やりたくない。大気組成の変化も、都市や基地の火災に繋がるので自殺行為だ。


「あの野郎。30分ゲームにすれば、俺たちがクリーナーズを使うと見込んで準備してやがったな……」

「ど… どうしよう、お兄ちゃん?」

「いや、大丈夫。地球人は壊滅寸前。予定通り進めれば、まだこっちにも…って、あああっっ!!!」


 ダイラントはオーストラリア大陸に上陸すると、そこに建設されていたウィズダミアンのドーム群を破壊した。環境変化に耐性のあるドームも、圧倒的な物理的暴力の前にはなすすべもない。


「ぎゃああーーーー!!! そこには宇宙連合の評議会ビルを建ててたのに!!!」


 LxLxLエルキューブは悲痛な叫びを上げる。これでウィズダミアン主導による宇宙連合エンドは無くなった。



「オマエラ… ぜってー許さんっっ!!!!」


LxLxLエルキューブの表情が憤怒ふんぬに染まる。


 >>はいクール要素消失

 >>ここまでテンプレ

 >>いつものやつ

 >>これがなくちゃクーゴリじゃない


 コメント弾が沸き立つなか、LxLxLエルキューブはウィズダミアンだけが建造可能な最終兵器を投入する。


 機械獣メカダイラント


 ダイラントと同時に実装された、巨大ロボット怪獣。ウィズダミアンの基地がダイラントに破壊されるとその報復手段として登場するユニットだ。


「ブチ壊してやるわぁっ!!」

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!?」


 こうなると誰も手がつけられない。メカダイラントはダイラントの破壊熱線をバリアで弾くと、目からウィズダミア光線を照射し応戦する。

 飛び道具を防がれたダイラントは、接近して格闘戦に持ち込む。ダイラントのキックや噛みつきが銀色の装甲板を破壊する。対するメカダイラントのロケット推進パンチと背びれの回転ノコギリが黒い外皮をえぐる。

 決着がつかないまま双方は離脱し、体力が回復すると再び激突する。


 二大怪獣は地球各地で乱闘を繰り返した。そのたびに戦場は荒廃し、石動が育て続けてきた花園も荒らされて元の砂漠へと戻っていく。


「ああ~!わたしのお花畑が~~……」


 そしてそこに追い打ちをかけるように上空からの攻撃が始まる。ミヤコのセイバーズは、軌道上に残っている全勢力の艦隊を掌握し、地上のウィズダミアンとクリーナーズの基地に爆撃を開始した。


「一回戦目はアタシたちの勝ちね!」


 石動とLxLxLエルキューブが劣勢に回り始めたところで、ミヤコが宣言する。その宣言通り、数分後には地球とセイバーズへの勝利判定がくだされた。


 

 

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