6-3 エイリアンズアース

「あのさ、LxLxLエルキューブ……怒ってる?」


 ミヤコが恐る恐るLxLxLエルキューブに尋ねた。勝ったほうがステージで曲を披露する。石動いするぎに橋渡しをしてくれた彼に、このプランを何も話さなかった事には若干の引け目があった。


「少しだけな。けど、やり方ではなく、オレに内緒にしてたことに、だ。……世に出るためにオマエらが必死なのはわかってる。オレ達も最初はそんな感じだったからな」


 そう言ってニカッと歯を見せて笑うLxLxLエルキューブ


「それに、もし負けたとしても、それはゲームでの話だ。ステージ勝負でこめっとが敗れるわけじゃねえ……。むしろそういうルールにしてくれて、ありがとな!」


 つくづく、気持ちのいい男だな、と僕は思った。大昔の不良マンガや侍マンガに、漢字の「漢」と書いて「オトコ」と読む台詞回しがよく出てくる。アレって多分、こういう人間に対して使うんだろう。

 もっとも、この大男の中身は褐色肌の女子高生なんだけど……



      *     *     *



『エイリアンズアース』は、突如地球に襲来した7種の異星人と、地球人の合計8勢力が、地球の覇権をかけて戦う、バトルロイヤル型SLGだ。プレイヤーはこの8勢力からひとつを選んで、他の7勢力の殲滅せんめつや支配を目指す。

 地球に降り立った侵略者たちは、基地を作り、環境を改造し、超兵器を開発する。あるいは防衛側の地球人は、地の利を生かして戦いつつ、異星人のテクノロジーを奪って対抗する。


 ルール設定により、10分程度で終わる即効戦から、一週間がかりになるような長期戦まで幅広い遊び方がある。年に一度行われる、SEEFゲームの世界大会でも花形種目で、プレイ時間の長さによって等級が用意されていた。


 今回は30分程度で終わる設定で、3本プレイすることになる。


「それじゃあ、まずは勢力決めからだ。選択権の順番はコイツで決める」


 ゲームに参加しない僕が、コインを取り出した。この世界での通貨『ISIイシ』の硬貨だ。その裏と表を4人にしっかりと見せてから、親指で弾くようにして天高く飛ばす。「ウラ!」「オモテ!」石動とミヤコが立て続けに叫ぶ。コインは『1』と刻印された側を上にして地面に落ちた。


「やった♪」


 石動が小さ手を叩く。コイントスの結果、ミヤコとレッド・サンが先に勢力を決めることとなった。


「それじゃあ、わたしはコレ!」


 石動が選ぶ勢力は『クリーナーズ』と呼ばれる植物生命体だ。他の勢力が排出する有毒物質をエネルギーに変換する技術を持っている。30分という短期間のプレイ時間の場合、核兵器や化学兵器などの、高火力かつ環境への影響が強い兵器を撃ち合う展開になることが多い。

 それ逆手に取れるクリーナーズは、このプレイ時間だとかなり強い勢力だ。LxLxLエルキューブの入れ知恵か…?


「オレはコレだ!! オレらしくクールに、連合エンドを目指すぜ!!」


 LxLxLエルキューブが選んだのは全勢力で最も知能レベルが高い『ウィズダミアン』だった。このゲームでは、全勢力が手を取り合って宇宙連合を発足させるという特殊エンドがある。そこに到達できる技術を保有するのが彼らだ。

 もっとも、ウィズダミアンは強力な兵器群を有してもいるので、クールなゴリラがどこまでクールでいられるか見ものだ。


 続いて、ミヤコとレッド・サンのチームの勢力選択。


「よかったー、コイツが残ってて!」


 そう言ってミヤコが選んだのは『セイバーズ』だ。 白兵戦能力が最強で、「宇宙サムライ」の異名を持つ昆虫型異星人。「サムライガール・ミヤコ」のキャラクターを意識してのチョイス。でも、普段の久能の態度を見ていると、一番正確にあった種族とも言える……。


「オレは基本中の基本。これで!」


 最後にレッド・サンが選んだのは『地球人』だった。クセがないので初心者が使う勢力とされる。けど基本能力は最も低く、数値だけ見ると決して強い勢力ではない。

 反面、最も多彩な戦い方が出来るのが土着勢力である彼らの強みで、多分アカサカも何か考えがあって選んだのだろう。


 残り4勢力に「NPC」の表示が出ると、バトルフィールドのが構成されていく。4人のプレイヤーはそれぞれ専用のプレイヤーシートに座り、空中に浮上する。その真ん中に直径10mほどの巨大な地球儀が現れた。これがこのゲームのプレイマップだ。大気圏上には光の点が7箇所に集合している。地球降下を待つ7種の異星人たちの艦隊だ。


「うおおおおーーーー!!!」


 背中で歓声の圧を受ける。振り返ると、石動たちのチャンネルを通してやってきた数多くのファンが地球儀を取り囲んでいた。

 彼らライブルームのランクだと、この場に立ち入って観戦できるライブ席は、合計で3500人分ほど用意されるはずだ。たぶん今、それが満席になっている。そしてその何倍もの人が、中継でこのプレイを見ているのだろう。

 事前告知もほとんどない、ゲリラ的に行われるイベントなのに、この集客だ。改めて、〈六華仙〉と人気ナンバーワン実況師ライバーの影響力を思い知らされる。


「アハッ!最高じゃんコレ!」


 ミヤコがプレイヤーシートから身を乗り出し、僕に向かって楽しそうに叫ぶ。そうだ、これはミヤコの顔を売るのには絶好の場所だ!


『Play Start!!』


 電子音声がゲームの開幕を告げる。同時に、大気圏上に展開していた各勢力の艦隊が降下を始める。それを迎え撃つために、地球各地から核ミサイルが艦隊に向かって発射される。戦いは始まった。

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