4-4 ヴィクトリー・オブ・グローリー -関ヶ原-
『ヴィクトリー・オブ・グローリー -関ヶ原-』は北欧のゲーム企業
「いきなりこんなところに連れてきて……どういうつもり!?」
僕と、ミヤコこと
「ゲーム実況でもさせる気? 言っとくけどアタシそういうのは……」
「わかってる。どんなアイドルでもやってるような事を君にして貰う必要はないよ」
ゲーム実況は、SEEFサービスよりもはるか昔、まだゲームが2次元のディスプレイに投影されるものだった時代から、アイドルの定番の仕事の一つだ。
ゲームプレイは人の本性が垣間見える。当時VRアイドルと呼ばれていた、SEEFアイドルのご先祖様たちは、ゲーム実況の配信を通してそのキャラクターを知ってもらい、そしてファンたちから愛されていたという。
その伝統は今も健在で、SEEF内の各地でおこなれている体験型アクティビティに挑む様子を配信したり、ファンたちと協力プレイをしたりするアイドルは多い。
けど、僕がミヤコをこの場所に連れてきたのは別の理由があった。
「ゲームをプレイする必要はない。けど、『ミヤコらしく』振る舞って」
「はぁ?」
「その刀」
僕はミヤコの腰を指をさす。
「その刀を使って、ミヤコはここで何をする? ゲームをする必要はない。けど、そこに刀はある。どうする?」
「…………わかった」
しばらく考えた後に、僕の意図を読み取ったのか、ミヤコは長い方の刀を抜いた。そして真紅の騎馬武者と対峙する。
騎馬武者の十字槍がミヤコの胸を狙ってまっすぐと
「はっ!」
ミヤコは高く跳躍し、その一撃をかわす。空中でくるりと華麗に回転。着地と同時に武者に向かって走る。
十字槍の二撃目。それもよけながら跳躍。騎馬武者の胴に向かって白刃を斬りつける。ガキンという強い音が響く。武者はバランスを崩すも、何もなかったかのように即座に体勢を戻す。
「馬鹿! そうじゃない! まずは落馬させて、それから喉を衝くんだ!」
背後で見知らぬプレイヤーのアドバイスの声。確かにゲームの攻略としてはそれが正解。けどミヤコがやっているのはゲームじゃない。
「TEIKA、今の様子ぜんぶ記録してるよな?」
『はいマスター、問題ありません』
パーソナルスペース以外ではTEIKAのグラフィックは非表示となっている。それでも、僕のAIはSEEF世界では常に僕と供にいる。
ミヤコは騎馬武者を相手に、派手ではあるがゲーム的には意味のない立ち回りを繰り返している。その様子はTEIKAがしっかりと記録している。
荒武者の群れの中で単身、白刃を振り回して戦うサムライガール
その
久能自信も、そのイメージがあったのだろう。だからこそ、僕の思った通りの行動をとってくれている。
「式神が来るぞーーー!!!」
どこからか声がした。敵陣の奥から妖しい紫色の光をまとった紙片が飛び出してきた。紙片は巨大な黒いカラスに姿を変える。化けガラスは三本の足を持ち、それぞれの先端にある鋭い爪を立てて滑空してきた。
VoGは歴史上の戦いをモチーフとしたゲームだけど、決して学術的な再現を目指したものではない。これはゲームだ。だから、こういうクリーチャーを使役する武将もいる。
「でええーーーい!!」
ミヤコは敵の馬を踏み台にして、化けガラスに向かって高く跳躍する。彼女の刀の切っ先がカラスの爪と衝突する。ガチィッという音。いいぞ、いい画だ。が、彼女の刀が狙ったのは中央の足。その左右には……
「きゃっ!?」
ミヤコの身体を左右から爪が拘束しようとする。ミヤコもそれに気づいたようだが空中ではどうしようもない。落下するか、爪に捕まるか。その選択すら出来ない。あえなく彼女の身体は化けガラスに捕えられてしまった。
「ミヤコ!!」
僕は火縄銃をイメージする。数瞬遅れて、僕の両腕に抱えられるようにして大型の火縄銃(銃というより大砲というべきサイズの)が具現化する。以前、あるアイドルのイベントで、彼女と一緒にこの合戦に参加したことがあった。これは、そのときに獲得した記念アイテムだ。
「くらえぇっ!!」
僕は真上に向かってその大鉄砲をぶっ放した。化けガラスの羽に直撃する。同時に使い捨てアイテムだった大筒は霧散するように
化けガラスの爪が大きく開かれ、ミヤコの身体の拘束が解けた。彼女は落下する最中に身体を丸め、転がるようにして着地した。
「騎馬武者に真っ向から斬り込んだり、カラスごときにアイテム使ったり…初心者ならちょっと引っ込んでろ!!」
ミヤコや僕の戦い方に業を煮やしたのか、背後から武者が一人飛び出してきた。彼がかぶる兜と、右手の禍々しい形状の刀は、確か歴戦プレイヤーでないと購入できないような高級アイテムだ。
とりあえず撮りたい画は撮れた。これ以上、真剣に戦ってるプレイヤーの邪魔をするのも悪いし、あとは彼らに任せよう。
「大丈夫?」
着地したままうずくまっているミヤコに手を差し伸べる。
「………」
ミヤコは僕の手を借りずに地力で立ち上がる。
「……もういいでしょ? そろそろ帰りたい」
「うん、わかってる」
* * *
「まったくムチャ振りしてくれるよね! このアバター、今作ったばかりなんですけど!?」
パーソナルスペースへ帰投するやいなや、ミヤコは僕に喰ってかかってきた。
「そのムチャ振りにしっかり応えてくれるキミもなかなかだけどね」
「ううん、全然ダメよ……」
ミヤコは悔しそうな顔をする。そうなのか? 僕的にはかなり良いと思ったのだけど……
「TEIKA!今の記録、全消しして! あんなの人様に見せられない!!」
「は、はい……ですが」
軍服少女の姿をしたAIは戸惑いながらますたーである僕の顔を見てくる。
「いいでしょ? 消すよ?」
ミヤコは僕にするどい眼差しを向けてきた。
「今の動きに、納得いってないってこと?」
「うん。アタシの思考にアバターが全然追いついてない。少し
「馴らす?」
「オリベくん、今から君の家行くから。隣の先生も呼んでおきなさい」
そう言い残すと、ミヤコの姿は光の粒子となり消失した。ログオフ。どうやらSEEFではなく、僕の家で作戦会議を行いたいらしい。何故かはわからないけど……
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