1-3 情熱の炎の女神
「ステージ
炎浦イオンのために築かれた赤い金属柱と鏡面パネルの神殿。その右半分は、〈
その粒子は、炎浦の指から生まれた光の輪へ吸い込まれるように集まっていく。やがてそれは、先程のステージをダウンサイジングしたようなミニステージへと変化した。
炎浦のステージと〈
「そんなに手早くステージを再構成できるなんて…… キミ、もしかして舞台装置系の〈ソウ〉の持ち主?」
〈
「フンッ、この程度のことAIに任せてたってできるわよ。アタシのはこっち」
そう言った途端、炎浦の衣装が輝き始めた。
くだけた雰囲気の中でのラジオ収録だったため、今日の彼女の服装は白いブラウスに明るい赤のキャミワンピというシンプルなものだった。(ちなみに赤は炎浦のイメージカラーだ)
そんな普段着のような彼女の衣装が、燃えるような光に包まれたかと思うと、豪奢なドレスに姿を変えた。キャミワンピよりもさらに鮮やかな発色の真紅のドレス。肩を出し、大きく開いた胸元には
そしてひときわ目を引くのが、炎浦の背中から生えた、真紅の翼だ。その翼がほのかに金色の輝きを放ちながら大きく広がり、羽ばたく。ふわりと炎浦の身体が宙に浮いた。
羽ばたきとともに翼から抜け落ちたのか、金色に輝く羽毛が、この人工の宇宙空間に満たされる。その無数の輝きの中央では、真紅の女神が自身に
「へえ~……衣装系の〈ソウ〉か……」
〈ソウ〉とは、SEEF内の各種コンテンツで使われる特殊スキルの概念だ。このカタカナ2文字は
・ゼロから「創」り出す力
・「想」い描く力
・モノや現象を「操」る力
のトリプルミーニングだと言われている。
さらに、SEEFアイドルたちの間では
・音曲を「奏」でる力
・自らを華やかに「装」う力
などの意味も込められて使われている。
SEEF内でのアバターの活動には、システム上の限界はないとされている。頭の中で想像したとおりに体を動かす事ができるのはもちろんのこと、思い描くことで無から有を生み出すことも不可能ではない。「リンゴが食べたい」と思えば、目の前にリンゴを出現させることが出来る。(もちろんコンテンツの規約で制限されていたり、課金が必要なこともあるけど……)
でも、人の想像力には限界がある。絵心のない人がリンゴの絵を描いても赤いボールにしか見えないように、誰もがリンゴの形、色、味をリアルに思い描けるわけではない。
そこで大抵は、AIによる補正で「多くの人が思い浮かべる一般的な形、色、味をしたリンゴ」が創られる。
しかし、世の中には克明に何かを頭に思い浮かべ、完璧に再現できる人もいる。そういった再現の力が〈ソウ〉と呼ばれるスキルだ。そのようなスキルで生み出されたものには、AIの力を借りないがゆえの
炎浦イオンは「衣装系の〈ソウ〉」の持ち主だ。彼女がステージで身につける華やかな衣装は、全て彼女(の中の人……つまり
情熱の炎の女神 炎浦イオン降臨
まばゆい光に包まれた真紅の女神の姿に比べると、黒いコートにシルクハットという〈
「それじゃあ、アタシから先に歌わせてもらうわよ」
炎浦はそう言うと、右手の中にマイクを出現させた。ドレスに合わせてこのマイクにも真紅と金色の装飾が施されている。小さく再現された、彼女のステージオブジェクト。そこに仕込まれたサウンドシステムから、イントロが流れ出す。この曲は…
「ははっ……」
思わず苦笑した。歌が始まる。
"誰もが 私にかしずく そんな予定調和の世界に飽きたの"
"どこかにいるのでしょう ねえ貴方"
"私の炎を燃え上がらせる貴方"
炎浦が選んだ曲は、この公開放送がスタートする前に皆が想像していたものではなかった。この日歌うつもりだったであろう、新曲『
何もかもがうまくいく世界に飽き、予測不能な恋の駆け引きを楽しめるような男性を求める、という内容の歌。だけど、今歌っている「貴方」が指しているのが〈
"同じ顔 同じ言葉 同じ眼差し"
"もううんざり 私にとって何の意味もない"
挑んてきたからには、30戦無敗の私を楽しませてみろ。そういうメッセージを込めている。
"女神の支配は揺るぎなく だから私の退屈も揺るぎない"
"どこにいるのだろう 私の待ち人"
そうそう!これが炎浦イオンだ!! 挑発的・好戦的なスタイル。そこに僕を含めてファンたち皆、夢中になっているんだ。
"早く現れて女神の仮面を
炎浦のステージの上に、小さな輝きが灯った。それはごく小さな輝きの粒だった。が、みるみるうちに大きな
それは『エモ・スフィア』と呼ばれる、アイドル同志のバトルで用いられる判定システムだ。SEEF世界のアイドルたちの間では、こうして自身のスキルや人気度を競ううバトルがよく行われる。そこで採用されるルールには、いくつか種類がある。
これはそのうちの一つで、ライブ会場の熱狂度を視覚的に表現するシステムだ。SEEF世界にダイブする時、僕らLDRギアという機械を頭に装着している。その機械が脳波を測定し、精神的な
つまり、ライブが盛り上がれば盛り上がるほどこの
「さすが〈六華仙〉、歌もパフォーマンスも最高だね!けどアタシも負けないから!!」
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