2-2 キミは自室の壁が爆発したことがあるか?

ちゅどーーん!!!!!


「うわっ!? なに!! なに!?」


 慌てて周囲を見回す。暗闇。TEIKAの姿も、つい一瞬前まで立っていた宇宙戦艦の背景も何も見えない。違う! LDRギアが緊急停止したんだ。つまり今の音は外で…現実の世界で鳴ったものだ。

 ようやくその事実に気づくいた僕は手を動かして目の前を覆っている、黒いゴーグル型のデバイスを取りはずした。やっぱりだ。緊急停止ランプが赤く点灯している。


「……げえっ!?」


 デバイスから目を離し、前を向いた瞬間、驚愕した。もうもうと煙が立ち込めていて壁が見えない。


「火事!?110番!! ……じゃない!119だっけ!?」


 いや違った、115だっけ?177? いやそれよりも携帯電話どこへやった? 確か胸ポケットに……。左胸に手をあてる。今着ているTシャツにそんなものはついてない。違う違う。学校のカバンの中だったけか……いやえっと…ええっと……とにかく落ち着け!!


「けほっ…ま、まって」


 え?


 誰かの声がした。女の人の声だ。ここは僕が一人暮らししている4畳半の安アパート。僕以外の誰もいるはずが……


「でんわ……けほっ…ちょっとまって……!けほっけほっ……かじじゃ……けほっないから……っ!!


 声は今目の前で巻き起こる煙の中から聞こえてくる。目を凝らす。煙の濃度が少しだけ下がり、奥に何があるのかうっすらと分かるようになってきた。


「は?」


 穴。壁に大きな穴がぽっかりと開き、その奥に咳き込んでいる人影があった。


「けほっけほっ! や…やぁ…… どうもコンニチハ」


 声の主からも僕の姿が確認できたのかペコリと頭を下げる。


「えーーっと…… お隣さん…ですか?」


 この非常事態になんてのどかな質問だとは思ったけど、何者かの確認は必要だろう。僕の部屋は202号室。穴の向こう側は201号室のはずだ。


「ハイ、そうです。すみません、いきなり……」


 煙はだいぶ薄くなっていた。発火によるものではなさそうだ。壁の断熱材か何かがちりになって舞い上がっていたのか。それが落ち着き、今は相手の顔がはっきり見える。若い女性。といっても、たぶん僕よりは年上だ。20代前半といったところか。

 いかにも部屋着という感じの、飾り気のないTシャツとハーフパンツ姿。茶色がかった髪の毛はアップにしている。まとめられた房の長さやボリュームを見るに、それほど長くはなさそうだ。


「何があったんですか?」

「いや、ちょっと爆発…? がありまして」


 女性は自分でも何を言ってるかわからない、といった感じの表情で答えた。


「爆発? 何がですか!?」

「ええ~っと、その……」


 女性は口ごもる。ガスか何か? でもこのアパートの火元は電気しかないはずだ。平成の最後の年に建てられたという年代物の物件だけど、不動産屋はガスを使わなくていいという点だけは力を入れて売り文句にしていた。


「あっ! それそれ!!」


 女性の顔がぱっと明るくなり、僕の右手を指さした。手にしているのはLDRギア…この現実世界とSEEF世界との架け橋であり、手榴弾でもダイナマイトでもない。


が……爆発した?」


 女性はコクリとうなずいた。

 


 




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