全裸RPG ~レベルアップする度に服脱げる制度やめてくんないかな!?~

滝千加士

第1話

 気付いた時には、楽園エデンにいた。

 

 褐色の美しく大きな双丘。


 それは実に美しくたわわに実り俺の目を癒し、そしてマイサンを刺激した。


「へ、へへ。何なんだこの世界は……!」


 鼻の下が伸びていく。

 しかしそれも、男であれば致し方のないことであろう。


 しかし、盛者必衰山あり谷あり。

 言い方は様々だが、神はいつまでも俺が楽園エデンに居座ることを許してはくれなかった。

 

理須りす虎之介とらのすけのレベルが上がった》


 AIのような声が脳内に響く。

 その瞬間、


「うえっ!? 俺も脱げんのかよ聞いてねぇぞちくしょう!! あぁ!! や、やめろぉ!! あぁ!! み、見んな!! 何なんだこの世界はァ!?」


 俺もまた全裸になった。

 

 何処にでもいる普通の、かなりオタクだけど別に暗くはない社会人として生きてきて俺は今日、事故に遭って死んだのだ。

 そしてこの世界に転移した。

 ラノベのように神に出会うこともなく、特殊なスキルを手に入れることもなく。


 ただ気付いたら、この世界の森に倒れていたのだ。


 そして見たのだ。

 サーベルについた血をブンと振るって落とす、全裸の美しい褐色女戦士を。

 それは正しく、俺の楽園性癖ドストライクだった。


 そう、この世界はモンスターを倒しレベルアップする度に問答無用で全裸になってしまう世界だったのだ……!!


「あはは!! 可笑しなこと言うのね。レベルが上がったら服が脱げるなんて普通でしょ? 嫌だったら冒険者にならなければ良かったのに」


 今俺とパーティーを組んでくれている女戦士のアメリアがそう言って肩を組んでくる。胸も下の口も丸出しだってのに、よく平然として居られるなこいつは……。


「そ、そうだけど……そうだけどさぁ!! だって、俺まで脱げるとは思ってなかったんだよ!!」

「えぇ~? あぁ、そういやアンタ記憶喪失なんだっけ。まぁ慣れなさい。これが嫌だったら、ただの村人に逆戻りよ~」


 軽い口調でサーベルのグリップ部分に指を通しくるくると回しながら何処かへ行ってしまうアメリア。


「わ、分かったよちくしょう!! 慣れてやらぁ!! リストラは名前だけで十分だぜバーロー!!」


 理須虎之介、学生の頃も社会人になってからも俺のあだ名はリストラ君だった。

 本当にそうなるのが嫌で必死に頑張って、会社である程度の地位を得たと思ったら地球という世界からリストラされた。


 俺はもう、リストラされるのは勘弁なのだ。両親には感謝しているが、何故こんないじられると考えなくても分かる名前を付けたのか……!


 そこまで考えて、ふと思い出す。

 そういえばこの世界の冒険者は、皆物凄い軽装だったなと。

 その理由こそこれだったのだ。

 レベルアップしたらどうせ装備を全部失うのだから、最初から必要以上に持っている必要がないのだ。

 むしろ不必要に装備を買い込んでしまったら勿体ないだけなのだ。

 思えばアメリアも、普段からビキニアーマーをもっときわどくした感じの鎧を装備していた。

 そう、つまりこの世界では露出に対してある程度慣れておかないと、冒険者としてやっていけないのだ。

 

「……はぁ、恥ずかしい。だけど慣れるしかないんだ頑張れ俺!! それもこれも全ては楽園エデンを間近で見るため!! うぉぉぉぉ!!」

「ねぇトラ、さっきも言ってたけどエデンってなぁに?」

「うひぃん!? え、あぁ~な、なんでもないぞ!! うん!」

「めっちゃ取り乱してるじゃん。絶対なんかあるでしょ」


 ジト目で俺を見つめるアメリア。

 ど、どうやって誤魔化せば……!!


「んあっ!! そうだ!! 普段から露出に慣れる必要がある、動物は服を着ている方が珍しい。つまり、俺もゴリラや猿のように体毛生やせばいいのでは!?」

「それやった人いるわよ」

「いんのぉぉ!? えっ、いんの! マジかよ!! 大分ぶっ飛んだ発想したと思ったんだけど!?」

「いや、確かにぶっ飛んでるわよ。でもさらに上を行く人がいるわ。あの人は体毛を生やす止まりではないの」

「な、なに……? つまり、そういうことなのか」

 

 ごくり、唾をのむ。


「えぇ。あの人は言動や行動すら動物化させれば恥ずかしくなくなると思ったのでしょうね。普段からウホウホ言ってその内本当に動物化して森に還ったわ」

「森に還った奴居たあああァ!? マジかよオイーッ!!」


 本当に、この世界は何なんだ……。

 いつも思っているが、マジで何なんだ! 最初はエロゲの世界にでも来たかと思ってたけど俺も脱げるし他の男冒険者も脱げてるし。

 エロゲだったら絶対こんな展開にはならん!! っていうかそんなんあったらネット上で話題になるわ! そして伝説のクソゲーという名を残すのだ……。

 うん。絶対買うよね!!


 なんてことを考えていると、背後からジトッとした視線。


「誤魔化されないわよ」

「なんでやねん!! 別にええやん! エデンくらい!」

「だって隠そうとするんだもの。私普段から色々とオープンだから何か隠してる人ってすぐ分かるのよね」  

「うんそうだね! だって全裸だもんね!」

「そういうこと♪ という訳で吐いちゃいなさい」

「んぐぐ……」

 

 ジト目のままに迫られる。

 よーし、こうなったらあれだ。

 嘘には真実を混ぜるとバレにくいというアレを使おう! 俺の想いは知られてしまうが、下心混みで見ていると気付かれるよりは断然マシだ!!


「わ、分かったよじゃあ言うよ! 俺の国の言葉で好きな異性を意味する言葉だ!! これでいいか!?」


 捲し立てるように言って、気まずげに視線を逸らす。

 自分が今全裸であることもあって自然と顔が赤くなる。


「ヤダ、可愛いじゃん……。ふふっ、そっか~。私みたいなのが好みなんだ?」

「わ、わりぃかよ」

「ぜ~んぜん。嬉しいよ。でもまだ答えはあげない! 私ね、自分より強い人じゃないと結婚しないって決めてるの」


 ふぁさっと、その紫色の腰まで伸びた美しい髪を揺らし背を向けるアメリア。


「だから、私と結婚したいなら頑張ってね? ふふっ」


 そのアメリアの言葉を聞いて、俺のやる気は天元突破した。

 そして同時にマイサンも勃ち上がった。


「あぁぁぁあぁぁ!! や、やめろ。見るんじゃない! くっそ~、鎮まれ俺の息子よぉぉぉぉぉ!」

「あっはははは!! 私みたいな女でそこまで反応してくれるんだ~。なんだか嬉しいかも。早く強くなってね。トラ」

「っ……お、おうよ! 任せときなアメリア!!」

 

 しかしこの時、俺はまだ今一つ分かっていたなかった。

 レベルアップしたら問答無用で全裸になる。ということは、レベルが上がりさえすれば全裸現象は老若男女誰彼問わず起こるものであるということを。


 そして俺は今日も豪快に服をキャストオフしながら叫ぶのだ。


「レベルアップする度に服脱げる制度やめてくんないかな!?」


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全裸RPG ~レベルアップする度に服脱げる制度やめてくんないかな!?~ 滝千加士 @fedele931

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