第2話
かっわいい。
まず抱いた印象はそれだった。
可愛い。
何、あのくるんくるんな金髪の癖毛に綺麗な宝石のような青い目。
そして幼さがまだある丸みのおびた可愛い顔。
子どもらしいぽてっとしつつ、全てのパーツや色素、髪の癖といった特徴のトータルから彼を輝かす存在と化していた。
神は彼に二物も三物もと、いくつも与えたらしい。
これこそ人間の可愛さの集結といった姿をしていた。
同じ種族ではない私ですらそう思うのだから、同族は彼を放っておかないだろう。
凄い人間もいたものだ。
私が出会った人間は数少ないが、少年とは違い、皆同じような姿であった。
男ならイカツイ顔に、ムッキムキな筋肉に刺青掘っている者が圧倒的に多い。
後はちらほらと、なよい体に優男な魔法使いも中にはいた。
女は、本日初めてお会いした。
へー、男と違って優しそうな、綺麗な姿をしてるんだね。
なんか、癒される~。
そして、皆揃って言えることは複数のチームでやってくること。
このチームをパーティと彼等は言うらしい。
そして今回も、やはりパーティで彼等もやってきたのであった。
スキルの通り四人いる。
剣士は可愛い彼のようだ。
女の子どもにも思えたが、匂いで男と分かった。
武闘家は、いかにもな体格の良いムッキムキな男である。
髪に毛は生えておらず、肌は黒い。
目つきが昔に会ったことがある、山賊のようだと思った。
定番な存在である。
魔術師は、綺麗な波打った長い黒髪を持つ女であった。
全体的に布や大きな帽子で覆われて、本来であれば暗い印象を抱く色合いだが彼女の顔が華やかなため地味より、上品に感じる。
ヒーラーも女であったが、まだ魔術師と比べて幼い印象である。
胡桃色の髪を三つ編みにサイドで結み、更に幼さを感じる容姿であった。
成長途中といったところか?
「う、ウサギ……?」
そんな彼等を冷静にスキル鑑定で確認しつつ、様子を見やる。
こちらが冷静に観察している間に、彼等は私の姿に驚いているようであった。
ウサギとは何であろうか?
「真っ白い、ふわふわ、もふもふ、くりくりなお目め……」
ん?何やら幼い剣士の様子がおかしいようだ。
毒キノコでも食べたのだろうか?
この辺りでは普通のキノコが生えておらず、100階層中、1~30階層までは普通のキノコ。
31~70階層までが、食べられるキノコと回復のキノコと毒のキノコと魔物のキノコがいる。
残り70階以降から主に毒キノコが大半を占めるのである。
まぁ、そんな私の住処のことより少年が不安定であることが心配である。
次第に彼は、震えて視線を下に何かぶつぶつ言っている。
何だどうしたと戸惑っていると、ガバッと急に視線を上げた。
その目はとてもキラキラ輝いている。
興奮しているようで、頬を染めてこちらを見上げている。
そして私を見つめながら、そのプルプルな柔らかそうな薄ピンクの唇を開いて、言葉を告げる。
「絶対、飼う!」
「ちょっーー⁈ロン、何を言ってるのですー⁈」
「分かってんのか!あれは魔物だぞ!このダンジョンのボスだぞ⁈」
……ん?ボス?ダンジョン?
何それ?
「そうよ!私も間違えかなと思ったけれど、ボスの間にいるんだからボスに決まっているわ!手懐けることができるのはテイマーか余程相性がいいもの同士でないとやられるわよ」
ふーん。
ここはボスの間なんて大層な名前がついていた場所なんだ。
へー。
それにしても私を見てウサギとか言ってたわね。
ウサギってなんなのかしら?
自分のことが一番よく分からないのよね。
どうやら彼等は、私のことをよく知っているらしい。
とても飼いたい!連れて行きたい!と駄々こねている少年にあれやこれやと情報を与えて冷静な判断をさせようと周囲の人間が説得している。
私も、自分のことを知りたいな。
ピョーンと跳ねて人間の傍へ寄る。
こっちに気付いて欲しくて、ねーねーとズボンを履いている山賊さんにズボンの端を引っ張り、こちらに気付いてもらう。
「!なっ⁈いつの間に!」
「話は後よ。まずは大人しくさせないと!」
え、なんで声掛けただけなのに血気盛んなの?
今にもやられそうな事態にひぇ~と身を縮こませて丸くなる。
何の防御にもならないけど、本能的に丸くなるのよね。
きっと大きな剣で切り裂いてくるんだ。
痛そうだよう。
痛いの嫌だよう。
「待って!」
今にも振りかざしてきそうな剣士の腕……は、届かないので、腰に抱き動きを止める。
「まだ、危険な生き物と断定できないよ。見た目はウサギだけど、何の生き物なのかも調べる必要があると思う」
そう仲間に訴えて、少年は私に目元を緩めて微笑んだ。
「「「っっっつつっ!」」」
その微笑みと言ったらまるで天使様の一言に尽きる。
もう、可愛い。
なでなでしてあげたい。
ギュッとしてあげたい、と仲間の女性2人は母性本能をグサグサやられていた。
剣士も男と相手を分かっていても、一瞬女かと性別を勘違いする程の笑顔に固まった。
本来は少年のか弱き腕の拘束など、簡単に振り解けるのだが、可愛さの拘束には敵わなかった。
そして私はー…その笑顔に固まった。
しかし、理由は可愛いとかではない。
人間の表情など怒ったものしか見たことなかった。
他の出会った魔物もそうだ。
笑顔なんて見たことなかった。
私を見て微笑んでくれている。
その事実についていけなくて、固まってしまったのだ。
私は、今まで相手を不快にする存在なんだろうと、いつの間にか思っていた。
なのに彼はその不安を一掃するような、圧倒的輝きで微笑む。
少年は固まる私にゆっくり歩み寄り、三歩手前でしゃがみ視線を低くしてくれる。
「怖い思いさせてごめんね?」
そう言って手を私に伸ばしくれる。
その台詞は、今までの出来事も含めて言ってるようだと幻聴に聞こえた。
本当に天使のよう。
触れても良いの?
怒らない?
皆みたいに、痛いことしない?
そんな不安がよぎったが、彼の柔らかいタンポポのような微笑みに不安が弱まる。
あなたは、私といることを望んでくれるの?
決して、言葉は伝わっていない。
そのはずなのに、彼には伝わっているように少し距離を縮めて、手を近付ける。
「ぼくと一緒に来てくれる?」
心が震えた気がした。
初めて、初めて私といることを望んでくれる存在に出会えた。
私は、彼の小さく柔らかい手に鼻をすんすんとゆっくりすり寄せ、指先におでこをちょこんとくっつける。
まだまだ分からないことだらけで、不安でいっぱいだけど、私もあなたといたい!
「あ……。っはわわわわわ……!」
彼は私が触れた瞬間、頬を赤く染めて私を見つめる。
とても蕩けた綺麗な青い目を緩ませて、体を震わせて全身で悦びを味わった。
「もふもふがぼくのところに!」
興奮気味でも、私のことを考えてか、そっと頭を撫でてくれる。
初めての感覚だが、居心地は悪くなくむしろ気持ち良くてうとうとし始める。
うー、気持ちいいよー。
そんな彼等の戯れを、なんとも言えない熱い何かがこみ上げる感覚で見守る3人組。
美少年が真っ白いもふもふを撫でる図は、破壊兵器並みにやばかった。
しかし、知らぬが本人達だけで3人は悶えてHPが何もしてないのに削られていく。
でも、幸せだから良い。
彼等のパーティは、かなりの実力者な方であった。
村で発生した大量のワームを全滅させたり。
生きて帰らぬと言われる谷底にある薬草を、怪我はあるものの致命傷なダメージを受けずに全員生きて帰ってきたり。
とある外道を塞ぐ大型のドラゴンを討伐したり……と、それなりに大変な敵も相手にしたことは多くあったが、ここまでのダメージは喰らったことがない。
あぁ、ショタともふもふがイチャコラするとか尊すぎる。
少年のパーティ仲間は、今まで死闘を歩んだ者とは思えないゆるんゆるんに溶けた顔である。
もふもふとショタの組み合わせ、マジ幸せで死にそうっっっ!
目の前の光景を目に焼き付けつつ、悶えて耐えるのであった。
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