ショタ勇者のお供はもふもふウサギ

@ssk0627

第1話

冷たい冷気が帯びる空気が鼻をくすぐる。

冷気により少しブルリと丸い体を震わせ、辺りを警戒し続ける。

長い耳をピーンと張り、真っ黒い目をキョロキョロと動かして少しの変化も見逃さないよう気配を伺っている。


……いた!


すぐさま岩陰で僅かにジャリ……と砂利を踏む音が耳で捉えた。

即座に後ろ足の筋力を活用し、目標の場所へと急ぐ。

軽やかにジャンプしつつ素早い身のこなしで足場の悪い凸凹道を掛けていく。

そしてあっという間に目標の背後へ。


タッチ。


『っ⁈ゲェー!』


相手の緑色の背中を短い前足でタッチする。


よっしゃー捕まえたぞー。


緑の背中、どころかその者は全身が緑である。

腰にはボロボロな古臭い布切れを巻き付けており、右手には手作り感満載な棒切れに岩を縄でくくりつけた斧のような武器を手にしていた。

さて、では今度こそ言うぞーと、息を吸い込む。


しかし、私が何か言う前に彼は脱兎の如くその場を「ギェエエエエェ」と叫び声を発狂しながら、洞窟の奥へ消えて行った。


その場には白いもふもふの私しかいない。

寂しくポツンとその場で一番大きな岩の上へぴょんと飛び上がり丸くなる。


今日も言えなかった。


さっきの彼はゴブリンと言うヤツだ。

ゴブリンは群れで行動し過ごしている。

それを知ってから私も仲間に入れてもらおうと声を掛けようとしている。


しかし、先程の通り彼等は、脱兎の如くいなくなる。

とても驚きながらいなくなる。

過去には、大事な自分の武器を思わず投げ捨てて逃げるものもいた。


仕方ないから取りに来るまで私が預かっているが、ずーーーーーと待っても来ない。

いくら待てども来ない。

私に斧は使えないのに。


 ここに生まれてから、どれくらいの時が流れているだろうか。


 最初は私にも親がいた。

しかし、生まれて間もなく他の魔物にやられて死んでしまった。

兄妹もいた。

でも、同じく血を流して息絶えていた。

私はその兄妹の屍の下敷きになっており、なんとか自分だけ助かっていた。


皆、動かない。

他の生き物はどうだか分からないけれど、私の場合すぐに手足で歩くことが出来ていた。

歯も小さいながら生えており、食べることも時間はかかるが出来そうである。


お腹空いた。


でも、動けるとは言え、ぽてぽてとした歩き方しか出来ない。

側で食べることが出来る物といえばー…。


オカアサン達。


正直、親というものが兄妹というものが分からない存在であった。

彼女達はなんなんだろうか。


そのよく分からない存在を私は少しの困惑の中、空腹が勝り口にした。

味は美味いとも不味いともよく分からなかった。

ただただ胃を満たしていった。

時間をかけて胃に貯めていく。


うぅー、お腹いっぱい。


全部は食べきれなかったので、残しておく。

お腹を満たすと睡魔が襲ってきた。

まぶたが重くなり、意識が遠のく。


眠い。


心地良い闇に包まれて、素直にそのドロドロな睡魔の沼に落ちて行った。


どれくらい経っただろうか。

フーフーと落ち着かない音が聞こえる。

気になり、目をうっすら開ける。


どうやら、#親と兄妹__ごはん__#を食べに来たものが近付いているようだ。

本能で身の危険を感じた。


急いで兄妹の屍の下へ潜り込む。

そして、息を潜めて外の気配を探る。


そのモノは、もう距離に差がない所まで来ているらしかった。

息が先程よりもはっきり聞こえるからだ。

そして、体をがふと軽くなる。

兄妹を一匹捕ったらしい。

側で食べる音まで聞こえる。


ゾッとした。

初めて恐怖する意味を知った。

私もあの鋭い牙でやられてしまうかも!


体がガクガクと震えた。

そのモノは、早くも食べ終えたらしく、また食べようと手を伸ばす。


やだ!


自分の身と、ごはんを守るために行動に出る。

目の前にある茶色い毛むくじゃらの手を思いっきり歯を立てた。


『ギャッ⁈』


敵も驚いたしく素早く噛まれた手を引っ込める。

同時にずるりと私が引っ張り出された。


もお、怖いものは嫌!


そう思った瞬間、熱が集まり黄色い光が敵を覆う。

光が強まり目を開けていられなくなる。


気付けば敵は、岩壁に背中から張り付けられたようにやられていた。

息も耐え、ぴくりとも動かない。


これは死ぬ前にチラッと親から聞いたことがある。

私たちには不思議な力を体内に蓄えている。


それは魔法だと。

 

練習していく必要がある。

まださっきはとっさに発動させたが、全く使いこなせていない。

自分の身を守るためにも、戦う術を身につけよー。


 この日から私は自分には戦う術を持つことを知り、練習するようになった。

最初は壁に埋れている彼を的に、魔法を出す訓練から試していくことに。


次に魔法の発動、攻撃魔法を自分なりに研究し改善もした。

守る術も訓練したよ。

私はそのままガードと呼んでいるが、透明な壁を自分を覆うように発動する防御の魔法。

扱えるようになってからは、この防御を破るものと会ったことはないが精進してるよ。


魔法が思うように使えるようになった頃は、気付けば岩の上にいた兄妹と親はいなくなっていた。

#敵__まと__#もいつの間にか魔法の衝撃で床に落ちていたが、気にせず続けていたらいなくなっている。


自分も動けるようになり、体も前より大きくなったらしい。

体の軽さが段々と増え、飛べなかった高さまでジャンプすることが出来るようになっている。


 もう、この場所に留まる必要はなくなった。


どれくらいの日をここにいたのか、全く分からないが旅立つ日が来た。

何のために生きるのか。

分からないけど、お腹が空くから食べるし痛いことは嫌だし死にたくない。

本能が言っているのだから、それに従うのみだ。


私はその場を少し複雑な想いで、でもこのザワザワ落ち着かない、泣きたい気持ちで背中を向けて進む。

 この感情が何なのか知る術はない。



命の取り合いに時間は関係なかった。

私を襲う敵をがむしゃらに当時は倒していく日々。

怪我もしたが、習得した治癒魔法で回復も出来る。


寝る時が一番大変だったな。

最初は寝たくてもいつ襲われるかという恐怖で、寝るに寝れなかった。

しかし、気付いたのだ!


あ、結界張れるじゃん、自分。

さらに経験から知恵が身につき、自分が先に動けるよう自分の拠点から離れたあちこちに、察知で知らせが来るように仕掛けておいた。


そのうち、苦労していた敵も簡単に倒せるようになっていった。






そして、現在今に至る。


あ、リザードさーんこんにちはー!


目の前を通りかかった私より大きなトカゲ型に声をかける。

今日こそ声掛けるぞー、と意気込んで近寄るが彼も私に気付いた途端ダッシュして逃げていった。


昔はがむしゃらで、余裕なんて無かったからそんなことは思わなかったのだけれど。


ぼっち寂しい!


そう、誰も私に構ってくれなくなってしまったのだ。

これはとても重大な事件である。


仲間を倒しすぎたからか何なのか、皆私を避けるようになってしまったのだ。

寂しい。

暇である。


あーもー!

誰か私と遊ぼーよー!


もふもふな白綿がゴロゴロ転がる。

どれくらい生きたのだろうか。

もう、つまんないや。


私には誰もいない。

さっきのリザードだってゴブリンだって仲間がいて、一匹ではない。

時には、楽しそうな笑い声をあげて駆け回る姿も見たことがある。


私は笑ったことなんて、楽しいことなんて今まで感じたことがあっただろうか。


『キィー』


か細い鳴き声が漏れ出る。


誰か私を見つけて。


突然複数の足音が聞こえた。

ジャリジャリと岩や小石を踏み締める足音。

広い広場であるこの場所に向かっているようだ。


聞いたことない声。

会話をしている。

そして、その複数の足音は広場に通じる入り口付近で止まる。


まだ、影になっていて姿は見えない。


私は大きな岩上で、べちょーと意外と伸びると長い動体を伸ばして自分の客を待つ。

なかなか出会ったことはないけれど、過去にもこんな生き物に会ったことがある。


人間の気配だ。


剣士に魔術師に武闘家にヒーラーのチームであるようだ。

私の培ってきた察知スキルから大まかな情報を得る。


カツン。


さあ、敵が来た。

私を倒しに来た。


でももしくは、少しのほんの小石のかけらぐらいに期待もある。



次こそは私と仲良くしてくれる存在かも、と。

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