第5話 血液型の不思議

 新学期には、あれこれ学校に提出する書類がある。高校生になったから、自分で書きなさいと親に言われ、自分で書いている。家庭調査書とか、健康調査書とか、緊急連絡先とか、あれやこれや。

 保健調査書の記入をしていたら、家族の血液型を書く欄があった。気が付いてみたら、自分がA型だという事以外、知らなかったことに気づいた。それで、家族にそれぞれ聞いてみた。そしたら、不可解だった。父さんはO型。母さんはB型。兄貴はB型。おかしい。O型とB型の両親からはA型は生まれない。それは中学の理科で習った。俺は本当にA型なのか?おかしいではないか。

 こういう事を、親に聞いたらダメな気がした。だから、兄貴に聞くことにした。聞くというか、相談するというか。

「海斗、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。」

「なに?いいよ。」

平日の夜。お風呂に入った後で、比較的忙しくなさそうな時だ。

「俺の血液型って、A型だよね?間違ってるって事あるかな?」

兄貴は、俺の顔をじっと見た。

「なに?俺変な事言ってる?」

俺が言うと、兄貴はまだ不思議顔で、

「いや、お前はA型だよ。」

と答えた。

「だよね。でもさ、父さんがO型で母さんがB型だって言うんだよ。そのどちらかが間違ってるのかな。だってさ、O型とB型の間にA型は生まれないじゃん。」

俺が言うと、兄貴はそれこそ動きを止めた。

「どうしたの?」

俺が言っても、兄貴は動かない。俺が兄貴の顔の前で手をひらひらさせると、改めて俺の顔を見た。

「お前、覚えてないのか?」

と言う。

「何を?」

「あ、いや・・・あ、あれだよ。父さんはA型だよ。ほら、ばあちゃんがO型だったからさ、生まれたばっかりの時に検査してもらったらO型って出てたんだけど、大人になってから検査したら本当はA型だったんだよ。それを父さんが忘れちゃってるんだ。俺、ちょっと父さんに言ってくるわ。」

と、兄貴にしては珍しく早口で言って、ダダダダっと階段を下りて行った。父さんに何か言いに行ったようだ。そして、じきに戻ってくると、

「岳斗、父さんはA型だって思い出したよ。A型と書いておけ、な。」

兄貴は、そう言って俺の肩をポンと叩いた。

 何だかおかしい。兄貴の言動は不可解だ。「覚えてないのか?」と言った時の兄貴の顔を思い出す。あまりにも驚いたような顔をしていて、ちょっとした事――父さんの血液型の事――を忘れていたくらいの事でそんな顔はしないような気がした。

 俺、何か重要な事を忘れているのか?だが、そんな事言ったって何を思い出せばいいのかも分からないし。


 その夜、夢を見た。兄貴が俺の頭を撫でる。兄貴、まだ子供だ。俺は、なぜだかとても悲しくて、寂しくて、兄貴に抱き着いた。兄貴は頭を撫でてくれる。そうすると、気持ちが落ち着いた。俺はここにいていいんだ、そう思った。

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