一寸法師の悲劇学園版(意味がわかると怖い話)
身長が3センチ程度の少年イッサが存在していました。彼の顔立ちはとても格好はいいのですが、その身長のせいで、色々なことに慎重になってしまいました。
人間に踏まれれば即死するかもしれないし、車にひかれたらおしまいです。動物だってイッサからみたら脅威な存在です。自分は非力で何もできないとイッサは嘆いていました。
そんなときに、うちでの小づちの存在を知ります。しかし、小づちを持っているのは鬼沢という背の高い男でした。手に入れるために、彼は取り引きを持ちかけました。
「うちでの小づちを俺にくれないか?」
「これはうちに代々伝わる大切な代物だ。渡すことなんてできない」
「じゃあ、おまえが好きだと思っている女性とうまくいくように俺がなんとかしてあげようか?」
「本当に? おまえ俺の好きな女、姫坂の知り合いか?」
鬼沢と姫坂はおとぎ学園の生徒でしたが、イッサは小さいので入学できませんでした。厳密に言うと戸籍もなく、この国の人間だという証明書もない状態でした。
あるとき姫坂という女性の前にイッサが現れました。いるはずもない小人の存在に大変驚きました。
「俺はイッサ、君が困ったことがあったら助けてあげるよ」
「君、何者なの?」
「小人さ。これ以上大きくなれないんだ」
姫坂は元々小動物が好きだったので、話すことができる小人の存在を大変喜びいつもポケットに入れて大切にしてくれました。
「俺、いつかは大きくなりたいんだ」
「かわいいほうがいいから、私は小人のままでいいと思うよ」
「実はさ、鬼沢っていう生徒が放課後一緒に帰りたいと言ってたんだけど、頼むよ。帰ってやってくれない?」
「仕方ないわね。イッサが言うならば帰ってあげてもいいけれど」
鬼沢は憧れの姫坂と帰ることができましたが、鬼沢は好きな女性の前では無口になってしまい、姫坂は楽しそうにしていませんでした。
「鬼沢の持っているお宝がほしいんだよな」
あるとき、姫坂のポケットの中でイッサがつぶやくと、お宝という言葉に姫坂が反応しました。
「なんでも願いがかなうとかいう伝説があるみたいなんだよな」
「面白そう、私、それを見てみたい」
姫坂はにこにこして、鬼沢に近づきます。
「今日、鬼沢君の家に行ってみたい。珍しいものを持っているって本当?」
「うちでの小づちのことか? あれは伝説だから実際効果があるのかはわからないよ」
「みせてよ」
姫坂が自宅に来る機会なんてそうそうあるわけではないので、鬼沢は喜んで自宅に招き入れました。
「どれがうちでの小づちなの?」
姫坂はにこにこして宝の入った箱に近づきます。
イッサはその箱のスキマから入り、全力でうちでの小づちを振りました。大きくなあれと願って――すると、イッサの体はみるみる大きくなりました。
「やったー大きくなったぞ」
イッサの喜びとは相反して、姫坂の態度は冷たくなりました。
鬼沢と姫坂は自分自身のためにこづちを振ったのですが、何もかわりません。効力を持たないうちでの小づちは何の意味もなく、そのまま小づちはごみになってしまいました。そして、家族はイッサが大きくなったことで、困ってしまいました。
★解説
姫坂は小さいからイッサをかわいがっていたのです。大きければただの人。ただの人に興味はありません。それ以来、姫坂とイッサの距離は遠いものとなったという悲しい結末になったのです。
イッサの家族は、小さいままでいてほしかったと嘆きました。イッサは育ての親の元へ行きましたが、戸籍がないので学校に行くこともできず、食費は以前はほとんどかかりませんでしたが、大きくなり、その食欲は家計を圧迫したのです。
大きくなったのはいいけれど、小さいほうがメリットがたくさんあったということです。姫坂にかわいがってもらえたのも、小さかったからだし、食費もかからなかったわけだし。普通の人間として生きていくには、戸籍がないと大変なのです。戸籍というのはこの国の住人である証なのだから。大きくなる時は慎重に。今ある幸せをかみしめたほうがいいこともあるのです。
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