第22話【あたしとあなたの出逢い】
大沢文人と高山茜は誰もいない神社の池の目の前で、熱い時間を過ごしていた。
そんな中、茜が話し始めた十年前の出来事とは……
「……文人。ねぇ……覚えてる?私たちが出逢った日のこと……」
【十年前】
「ねぇ、あのお人形さん買ってってば~!」
茜と茜の母の百合子の二人はデパートに来ていた。
「もう~今日は買わないって言ったじゃん。ワガママ言わないの!」
「あたし買ってくれるまでここから動かないもん」
おもちゃ売り場のお人形コーナーの棚にしがみついている茜。
百合子が強引にでも連れていこうとはしてみたものの全く動こうとしなかった。
「もう早く行かないとなのに……。――それならママちょっと用事あるからここで動かないで『じっ』としといてよね!すぐに戻ってくるから!」
そう言って百合子は駆け足で何処かに行った。
「ママ……」
百合子の姿が見えなくなった茜は急に心細くなった。
そんな茜は、しがみついていた棚から簡単に手を離して、辺りを「ふらふら」とさ迷うように歩き出した。
「あなた何してるの?」
茜が声を掛けたのは、電車のおもちゃの棚にしがみついている一人の男の子だった。
「これ買ってもらう……」
「ママとかパパは?」
「ママはすぐに戻ってくるってどっか行った……」
茜はすぐに思った。私とこの子は全く同じ状況なのだと。
それを考えると置いていかれて不安だった気持ちが、一気に解放されて、大きな笑い声に変わっていた。
「なにがおもしろいの?」
「だって……あなたと一緒だったもん。あなたとあたしは同じ」
棚にしがみついている相手と自分を指差しながら話す茜。
「おなじ……?きみと?」
「うん。だからあたしと一緒にママを探しに行かない?」
茜は一人だと心細かったが、この子がいれば何とかなると思っていた。この時は……。
「……でも。待ってなさいって……」
「このままこんなところで待ってるより探した方が早いって!ねぇ!早く行こう?」
「……わかった」
この頃から
そうやって二人はデパート内を歩き回ることとなる。
「ねぇ……あたしと離れないでちゃんと着いてきてよね……ところで、ママたちどこに行ったかとかわかる?」
そんな小さな二人が横並びに歩いているのは珍しく、周りの視線を一身に浴びていた。
そんなこととは露知らず二人は歩き続ける。
「う~ん。おもちゃ売ってるところ?」
「それってあなたが行きたいだけじゃない?」
「うん」
徐々に『この子で大丈夫か』と不安になっていく茜。
その後もデパート内を歩き続ける二人。
二人の歩幅ではデパート内を歩くのも大冒険であった。
「ママ全然いないね……。って今の聞こえた……?」
そんな歩き続けた茜のお腹から『ぐう~』という音が鳴り響いた。
「なにが?」
「べ、べつに!聞こえてなかったらそれでいいのよ」
「ねぇ……こっち」
男の子が突如エレベーターの方を指差す。
不安に感じながらも他に行く宛がなかったこともあり、彼の言うことを素直に聞き入れて一緒にエレベーターに乗る二人。
まだ身長もボタンに届くか届かないかの年齢だ。
大人たちはそんな二人を見てこう訪ねてきた。
「僕たち二人でどうしたの?パパとママとはぐれちゃったの?」
二人は必死に首を横に振り、男の子が行き先を答えた。
大人たちは不審に思いながらも男の子の言う通りにボタンを押してくれる。
「ここは人が多いから二人でしっかりと手を繋いでおかないと、離れ離れになるよ」
大人たちが二人に伝えた。
まだ小さな二人がはぐれでもしたら、それこそどうなるかわからないからだ。
「うん。わかった」
そう言った男の子はいとも簡単に茜の手を握ってきた。
「ちょ……ちょっと」
知らない男の子と手を繋ぐのは流石に幼い茜にも抵抗があった。
「えっ、繋がないといけないんだよね?」
彼はただ大人の言うことを素直に聞いてるだけのようだった。
「わかってるわよ」
そう言って二人は手を繋いだままエレベーターを降りた。
到着したフロアに降りた瞬間「へいらっしゃい!」や「安いよ安いよ」などと、今までの上品な雰囲気とは比べ物にならないほどの活気が満ちていた。
それもそのはず。男の子が連れて来たのは地下にある食料品売り場だった。
「おっ、ぼく!今日はママはどうしたの?可愛いお嬢ちゃんと手を繋いじゃって。いかすね~!」
そんな感じで店員さんから言われ続けた二人は、様々なお店で試食を繰り返した。
もちろん普段男の子のママが購入をしているお店だから貰えることでもあった。
「あなた、いつもあんなことして食べてるの?」
「うん。美味しくなかった?」
「ううん。美味しかったよ。ありがとう」
形はどうであれ彼は茜の食欲を満たしてくれた。
それにより茜の彼への信頼は上がっていったのだった。
「ねぇ……」
そう言って握っていた彼の手を引っ張った茜。
「なに?」
「したいの……」
「えっ……」
「……だから。おしっこ……」
顔を真っ赤にしながらも、この状況では彼に本当のことを伝えるしか手立ては思いつかなかった。
「わかった」
そう言って男の子はまた茜を引っ張っていった。
どうやら男の子にとっては馴染みのあるデパートだったみたいで、茜の求めている場所に迷わず連れて行ってくれた。
これもまた茜の気持ちを安心させ、彼への信頼は上がっていく一方だった。
「ねぇ。ここ女の場所だよ?」
「うん」
「いや、いつまでこうして手を繋いでおくの?」
「嫌なの?」
「べつに嫌じゃないけど」
「男の子のあなたが入ってきて良いかってことを聞いてるの」
「いつもママと入ってるよ」
「あっ……そうなのね」
茜は男の子と手を繋いだまま女性トイレに入ってきていた。
「思ったより人いないわね」
「うん。ママがここならすぐに出来るっていつも言ってる」
「まぁそのほうがいいんだけど……ってどこまで入ってくるの?」
「ママとはいつも入ってるよ?」
「いや……あたしはあなたのママじゃないから……!終わるまで外で待ってて……!」
「わかった」
そう言って男の子が個室から出ようとしたその時。
「ちょっと待った!」と言って男の子の腕を掴んで再び自分の方へ寄せる茜。
「誰か来たみたい……」
物音がドアの外から聞こえ、見つからないようにと縮こまるようにして固まった二人だった。
【予告】
茜と男の子はトイレにて隠れていた。
そんな二人はトイレに入ってきた人に見つかってしまうのか……?
茜は無事にトイレを終えることが出来るのか……!?
この二人の結末は……
次回【(23)あたしと文人の秘密】
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