第21話【最期のキス】
文人はあと半日でこの世から存在が消える……。
この事実はまだ高校生の文人からしてみれば信じがたいほどの恐怖であった。
そんな文人は恐怖で全身を震わせながらも、何とか茜のもとまで辿り着く。
しかし辿り着いたと同時に意識を失ってしまった文人。
こうしている間にも彼の残された時間は減り続けているのであった。
「……ふ……と。 ……ふみと。 ねぇ、文人ってば!」
自分を呼ぶ聞き慣れた声に反応をし、ゆっくりと
そこには心配そうな顔をして、自分の顔を覗き込んでくる茜がいた。
「……起きたの?」
うっすらと目に涙を浮かべながらも、表情に笑みがこぼれる茜。
(……茜。また俺は茜を泣かしてしまっていたのか……)
「……ねぇ。落ち着いたならそろそろどいてくれない……。重いんだけど……」
「えっ……」
文人は首を動かして辺りを見渡した。
そこにはどこかで見た光景にそっくりな池が夕陽を照らして眩しく光っており、視線をそらそうと首を回すと細くもむっちり感のある綺麗な肌の膝が見えてきた。
「……ちょ……っと……変に首動かさないでって!」
「いてっ!」
茜は我慢の限界を迎えて立ち上がり、それと同時に文人の頭はベンチに「コツン」と打ち付けたのだった。
(さっきまで頭があんなに痛かったんだし、優しくしてくれよ……それに……)
文人の表情が再び青ざめてきた。
「文人?大丈夫?また顔色悪くなってきたじゃん……救急車とか呼んだ方がいいかな?あっ、それより先に陸や結香に連絡を――」
茜はその場にしゃがみこんで、ベンチに横たわっている文人の顔を覗き込むように様子を
(こんな近くで茜を見たの久しぶりだなぁ……やっぱりよくみると可愛いよなぁ……ばあちゃんが変なこと言うから何か変にドキドキしてきた……)
薄く目を開けて茜を眺めていた文人は、青ざめていた顔から頬を中心として徐々に赤色に変色していった。
「えっ……今度は赤くなってるんだけど!?もしかしてまた風邪引いちゃったんじゃ!」
この茜の一言に文人の頭の中の記憶が繋がった。
(……また?そう言えば……このシチュエーションどこかで見たような……。……あぁっ。そうか……。そういうことだったんだ……)
「――あっ、もしもし!陸!!文人が大変なんだって!!また熱出てるみたいで顔がね!!『落ち着け』ってこんな時に落ち着いてられるわけないじゃん!!早く来てって!!えっ!?場所??場所はね――」
「……って……文人?」
文人はベンチから突然起き上がり、陸に電話をしていた茜からスマホを取り上げた。
「もしもしー?茜?どうした??文人は――」
文人は陸の声が響く茜のスマホの電源を
そして、同時に自身のスマホも取り出し電源を切った。
「……ねぇ……何してるの……?文人……?さっきから何か変だよ……?」
文人の前で不安げに首を
次の瞬間……。
「…………」
夕暮れの人気のない神社の池に『ポツリ』とあるベンチから小さく甘い吐息(といき)が漏れた。
その時……大沢文人はベンチから身を乗り出し、しゃがみこんでいた高山茜の首もとに『サラリ』と手を回し、自分に抱き寄せ『口付け』をしていた。
唇と唇を合わせただけだったが二人にとっては、お互いを確かめ合うような濃厚な時間だった。
それから、一分ぐらいの時間が経過し、茜の柔らかい唇から名残惜しそうに離れた文人。
「…………茜」
「…………文人」
二人はお互いの名前を呼び合いしばらくの間、見つめあっていた。
再びこの沈黙を破ったのは文人だった。
茜に対してまるで獸のような勢いで飛び付き……今度は茜の肩に手を回し抱き締めた。
今までにない強さで……。
「……文人……痛い……ねぇ……本当にどうしたの……?」
「ごめん……」
茜のこの言葉にようやく正気を取り戻した文人は、茜の肩に回していた腕を緩め離れようとする。
「……離れ……ないで」
抱きしめている文人の耳元で
「……茜」
文人は再び力強く抱き締める。
茜に痛みを感じさせないように気を付けながら。
そんな二人の心は夕焼けのように赤く、熱く、燃え上がっているようだった。
――そしてしばらく恋人のような雰囲気に浸っていた二人。
そんな時間はあっという間に過ぎ、気が付けば暗闇の中にいた。
二人はベンチに座り、穏やかに月を照らす池を眺めていた。
「もう真っ暗になっちゃったよ……」
文人の手を握りながら訴える茜。
「……うん」
夜を迎えるということは、文人にとってこの世で過ごせる時間が残り
「みんなの所に戻らないと……。きっとみんな心配してるよ」
茜は途中で連絡を切ってしまった陸や、気まずくなっていた結香のことを気にしていた。
「……いやだ」
「……文人」
「俺……茜と離れたくない……」
「……。……どうしたの?……やっぱりさっきから何か変だよ?文人が文人じゃないみたいに……」
文人が茜と離れる。それは二度と茜と会えないことを意味していた。文人はそのことを考えると、この幸せな時が進まないで『永遠に止まってて欲しい』と何度も心の中で訴え続けていた。
文人は「これが本当の俺だよ……。俺だったんだ……」と言い茜の手を繋ぐようにして握り返した。
「……文人。ねぇ……覚えてる?私たちが出逢った日のこと……」
【予告】
茜と文人は神社の池にあるベンチで手を繋いでいた。
そこで茜は文人に聞いた。
出逢った日のことを覚えているかと……。
次回【(22)あたしとあなたの出逢い】
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