第20話【想い人】

 主人公、大沢文人おおさわふみとは卒業式の日から入学式の日にタイムリープ!……したかに思えたが……。

 

 実は文人は既に亡くなっており、残り半日の時間しか残されていないと判明する。


 そんな僅かな時間しか残されていない文人は、この先の時間をどう使っていくのだろうか……



 

 「みんないっぱい来てるね」


 「本当に。文人ってこんなにも知り合いがいたんだね」

 

 「そうだね。私達の知らない大沢の姿もあったんだよ。きっと……」


 「あれは、小花さんと土村君に中條さんも」

 

 「本当だ……。土村君はともかく小花さんと中條さんは意外だわね……」

 

 「土村君と小花さんって付き合ってるらしいよ……」


 「……えっ? 本当に?」


 「うん。本人が言ってたから間違いない」


 「……えっ。茜、小花さんといつの間にそんな話ししたの?」


 「卒業式の日に少しね……」


 「そうだったんだ……。まさか二人で来るとはね……」


 「……私が言うのもなんだけど……文人も浮かばれないね」


 「本当に……。相馬ですら大沢と長い付き合いだったけど、ちゃんと遠慮してるのに……」


 「うん……。陸から言われたの。二人一緒に出るのは申し訳ないけど、どっちかは出てあげた方が良いだろうって……。

 それで……出るなら私だって。

 

 でも今でも実感ないよ……。

 こんな急に……私たちの前から居なくなるなんて……。

 ……前からなやつだと思ってたけど……。

 文人がまさかここまで……だったなんて……」


 「本当に急すぎるよね……。私……実は卒業式の終わったあとに大沢とちょっとだけ話したんだ」


 「……結香が文人に?」


 「うん。 

 あのままじゃいけないと思って、渇を入れてやったんだけど……」


 「それで文人は何か言ってた……?」


 「『茜より幸せになれるように頑張ってみる』って……」


 「何よそれ……」


 「……茜」


 

 「頑張ってみた結果がこれなんて……。

 

 なんなのそれ…………



 本当に何なのよ……もう……本当に……バ……カ…………………」


  

 喪服をまだ持っていないため、卒業して着る予定が無かった制服にもう一度袖を通した茜と結香。二人の制服はお線香の香りで包まれてしまい、結香は自分の胸で泣きじゃくる茜を懸命けんめいなぐさめるのであった。

 



 「……茜」


 そんな茜たちの会話を聞いていた文人とばあちゃん。


 「文人が居なくなったこの場において、母親以外で涙を流しておる――まぁワシもこの場にいたら間違いなく流しておったんじゃが……まぁ、それは置いといて。


 ――彼女がお前のことをどれだけ想っていたか、これを見たらハッキリと分かるじゃろ。

 

 お前が選んだ一番戻りたかった日。

 それがあんな形になってしまって『良いわけない』と、ワシもだまって見てられんかってなぁ……

 文人の体に負担は掛かるが……ついここに呼んでしもうた」



 「……ばあちゃん……。そうだったんだ。……ごめん。そこまで俺のことを考えてくれていたのにキツイ言葉を使って……」


 「良いんじゃ文人。人間誰しもあんなのを突然見せられたら取り乱してしまうものじゃ――まぁちょっとばかし可愛い孫に怒鳴られて心に響いたのも事実だったじゃが……。クソババァっての……。


 まぁそれもとりあえず置いといて。

 

 文人が今まで一番近くにいた女性は誰じゃ?

 

 今さら言うまでもないと思うがの……

 

 お前さんたちは間違えた道を歩んでしまった。

 

 じゃがな、心の底にあるお互いを想う気持ちってのは何も変わってないんじゃ。

 

 それをお前さんの時間が許す間に教えたかったわけじゃ。

 

 もう分かるじゃろ?

 お前さんが残りの時間でやるべきことを……


 後悔しないの迎え方を」


 


 「……うん。ちなみにだけど……俺がいなくなったあとの入学式の世界はどうなるの?」


 「それは……。歴史は元に戻されてしまうの……」


 再びばあちゃんの歯切れが悪くなる。


 「戻されるって……」


 「つまりは文人が最期の日にした行動がかきて、一回目の文人がした行動が皆の記憶に残ると言うわけじゃ……」



 「それじゃあ……俺が何をしたって意味ないんじゃ……」



 「まぁ……歴史的には意味がないが、突然命を落とした文人には意味があるんじゃないかの……?お前さんが後悔してること……やり残したことをわずかな時間ではあるが実行することが出来る。お前さんが残りの時間をどう使おうとは自由だが、有意義に使って欲しいとワシは強く想っておる……」



 「ばあちゃん。ばあちゃんの気持ちはわかった」


 ばあちゃんの好意にこれ以上、そむくことは出来ないと強い決心をした文人。


 「文人……。

 あっ、ちなみにここだけの話し何をしても無かったことになるってことはよいのじゃぞ?まぁ……あまり強引なのは地獄に近付くからオススメ出来んのじゃが……」


 「……えっ。それってどういう?」


 「まぁ……最期ぐらいおとこらしく思いきってやれってことじゃ!わかったか?」


 「うん。わかった」


 「よし。もう大丈夫そうじゃの。

 手荒な真似をして本当に悪かった。

 また後で……。

 待ってるからの~」


 そうばあちゃんと話した文人は再び意識を失っていた。



 (……あっ、よくみると居たのか……。文人に嘘をついてしまったわい……) 

   

 



 「はっ!……戻った……?」

 

 目覚めると神社にて土まみれになりながら倒れていた文人。


 (戻ったなら茜を早く探さないと……)

 

 慌てて起き上がり制服に着いている土を払い除ける文人。


 「茜~!」そう言って再び走り出した文人だったが……。


 (あれは夢じゃないんだよな……

 こんなに普通に体が動くっていうのに……

 俺はあと半日でこの世から居なくなるなんて……

 いま、当たり前に動いてるこの足も、この手も動かせなくなって……

 この体から完全に抜けてしまう……なんて……

 

 みんなにも。母さんにも。茜にも……。会えなくなるなんて……

 嘘であってほしいよ……。

 こんなの……


 なんで俺なんだよ……)



 文人は意識の失っていた間の状況を不思議に感じながらも、ばあちゃんと話した記憶は鮮明に覚えており『夢だった』という簡単な言い訳では片付けられない状態でいた。

 

 そう考える中で、残り限りないわずかな命と向き合うにはあまりにも文人の精神年齢は幼くもろかった。


 走っていた体が徐々に動かなくなり、『死』という感じたことのない恐怖に、押し潰されるように全身に震えが始まっていた。


 それでも文人は何とかして茜を探さないといけないという強い想いをいだき、茜のもとまで辿り着いたのであった。


 【予告】

 文人が亡くなった後も想い続けていたのは茜だった。

 そんな茜に抱き抱えられた文人は安心して再び意識を失っていた。

 そんな彼が次に目覚めた時にとる行動とは……

次回【(21)最期のキス】

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