第5話【秘密】

 文人ふみとあかねりく結香ゆかの4人はいつも一緒にいた。


ある日、学園の美少女、夏蓮かれんを交えて卓球を行った。


その日から、いくつもの日が過ぎていき…


卒業式の前日、卒業式の準備を行っていた、茜と担任の佳奈子による教室でのやり取りが続いている。


そんな卒業式の準備は他の場所でも行われており…


 


 とある高校の卒業式の前日。

 体育館でも卒業式の準備がとどこおりなく行われていた。


 「夏蓮~!まだ居たの?そろそろ帰った方が良いんじゃない?」

 

 「雪菜!?」


 そんな中、突如誰かから声を掛けられ、声のした方へと振り向き、驚いた表情を見せるのは、小花夏蓮おばなかれんだった。

 

 そんな夏蓮の前に立っていたのは、長い黒髪に名前のとおりの雪のような白い肌に、大人びた色っぽい体つきの中城雪菜ちゅうじょうせつなが立っていた。


 雪菜は夏蓮の一学年先輩に当たる。

 現在は大学に通っているものの、昨年までは夏蓮と共に演劇部を支えており、二人の事を【学園の美人姉妹】と呼んでいた者も多くいた。


 また、可愛いすぎる容姿もあり、同性には近寄りがたい雰囲気が出ていた夏蓮としては、数少ない対等たいとうで話せる人物でもあった。


 「どうして雪菜がここに?」

 久々に会った雪菜に対して驚きを隠せない様子の夏蓮。


 「どうしてって、私だってここの学校の卒業生なんだから、居ても不思議ではないはずなのだけど?」


 「それはそうなんだけど…」


 仲良しの雪菜と、久々に再会した夏蓮であるが、何だか気まずそうな雰囲気をかもし出していた。

 

 雪菜もそんな雰囲気を感じ取り…

 

 「あれ~?何か私が居て不都合なことでもあるの~?

  まさか…

 誰かと付き合っているとかじゃないわよね!?」


 

 雪菜からすれば、ただ軽い冗談を言ったつもりだけであった。


 「えっ…」


 「・・・・・」


 しばらく沈黙が続く二人。



 「えっ…!?まさかの図星!??」


 

 唖然とする雪菜。


 「ごめんなさい。

 隠してたつもりではなかったんだけどね…

 

 雪菜には… 

 明日ちゃんと話そうと思ってた。

 だから今日はこの話しは…」


 と、言いずらそうに話す夏蓮。


 「そう…。

 会うの久しぶりだもんね。

 夏蓮も遂にそういう人が出来たっていうだけで嬉しいよ」

  

 めでたい話しではあるものの、なぜか言いずらそうに話す夏蓮に対して、少し寂しげな気持ちになる雪菜。


 「雪菜…ありがとう」


 「うん…」


 久々に会ったはずの二人だったが、以前のような仲むつまじい様子とは程遠く、ポッかりと何か穴が空いてしまったような雰囲気であった。


 「中城先輩~!」


 そんな中遠くから、とある生徒が雪菜を呼びに来る。


 「うん?何かあったの?」


 声を掛けてきた生徒の方に振り向き、呼び掛けに対応をする雪菜。


 「あっ!?すいません!

 久々に会った小花先輩と話していた時に」


 「そんな、全然気を遣うほどでもね…」


 あまり会話が弾むような雰囲気では無かったこともあり、予想外の後輩の乱入は二人にとって、むしろ有り難かった。


 「いや~!そんな訳にはいかないっすよ!

 あの演劇部の二枚看板のお二人がお話ししてるところなのに!

 やっぱり間近に見てもどちらもお美しいですね~!

 せっかくだし、ちょっと写真でも撮らせてもらおうかな~!」


 陽気なテンションの後輩男子生徒であった。


 「――それより何か用事があったから呼んだんじゃないの?」


 今の二人にとって、写真を呑気に撮るなんて気分はあるわけも無かった。


 「あっ、そうだった!

 ちょっと中城先輩に大事なお話しがありまして!」


 「それならあっちでゆっくりと聞くわ…

 ちょっと先に言っててもらっても良いかしら?」


 「分かりました!

 それじゃあ、あっちで待ってますね!」


 と、勢いよく向かう男子生徒であった。


 「ってことだからちょっと私は話しを聞いてくるわね。

 せっかく夏蓮と久々に会えて、もっとゆっくりと話したいところだったんだけど…」


 聞きにくい雰囲気ではあったものの、夏蓮に聞きたいことは山ほどあった。

 

 「ううん。私の方こそ何かごめんなさい。はちゃんと説明させてもらうから…」


 申し訳なさそうに言う夏蓮。

 雪菜は夏蓮の様子を見て、何処と無く、苦しそうな表情にも見えた。

 同時に、今、話すことが出来るような話じゃなく、明日彼氏とじゃなきゃ駄目な理由があるのだと悟った雪菜。

 

 「夏蓮ももうすぐ大学生なんだし色々と事情もあるわよね!

 私は大丈夫だから、ここは私たちに任せて。

 あなたは早く家に帰って明日に備えないとね」


 夏蓮の様子が気にはなるものの、明るく振る舞う雪菜。


 「雪菜…」


 「中城先輩~!」


 先に行ったはずの後輩の男子生徒から催促される。


 「もう~あの子はせっかっちよね~

 それじゃあ夏蓮また明日ね!」


 笑顔で手を振って立ち去る雪菜。



 (雪菜…ごめんなさい…) 


 しばらくの間、じっと雪菜の後ろ姿を眺めている夏蓮であった。


 

 〈ガラガラッ〉


 教室の扉が開き、中から茜が出てくる。


 「佳奈ちゃん、今日はありがとう!

 明日は私らしく悔いの無いように人生を楽しむね。

 佳奈ちゃんも好い人早く見つけなよ」

 

 扉越しに話す茜。


 「こら、高山!

 あんたはすぐに調子乗るんだから。

 まぁ、でも高山はその感じが一番だね。

 その調子で、明日もクラスを明るくしてよね」


 安心した表情の佳奈子。


 「私に任せなさい!

 佳奈ちゃん、また明日ね」


 教室の中の佳奈子に手を振る茜。


 「また明日。

 遅れるんじゃないよ」


 佳奈子も少し照れくさそうに茜に手を振る。


 「りょーかい」


 茜は振っていた手をおでこまで持ってきて軽く敬礼をする。

 何やらスッキリとした様子の茜だった。


 

 (そう言えば、陸は何処で待ってるんだろう?)


 教室から出た茜は陸にメッセージを送ろうと、スマホの画面を見ながら歩いていた。


 そんな状態で曲がり角に差し掛かったその時だった…


 

 〈ドッスン!!〉


 

 「キャッ!!」


 二人の大きな悲鳴が響き渡たり、茜の持っていたスマホと、ぶつかった相手が持っていた沢山(たくさん)の荷物が散らばった。


 「ごめん!ちょっとスマホ見てて周りが見えていなくて」


 と言いつつ、茜はぶつかった相手の荷物を拾い集めていると、その中から一際目立つ緑色の光を目にする。


 「これって…」


 茜は、不思議な緑の光を放っているアクセサリーを手にする。


 「こちらこそごめんなさい!ちょっと色々と持ちすぎていて…

 スマホは大丈夫ですか?」


 ぶつかった相手が顔を上げた。

 

 茜はぶつかった相手に驚く様子を一切見せることなく、平然とこう言った。


 


 「小花さん…

 

 これってどこにあったの??」

 

 


 「あっ…それは!?」


 茜が持っているアクセサリーを見て、慌てた様子を見せるのは夏蓮だった。

 

 

 「何日か前に、ここの近くにある神社で拾ったんです。とても綺麗だったんでつい持って帰ってきちゃって…」


 茜の質問に対して返答する夏蓮。


 「そう…落としたってことかな…」


 茜は何かを知っているかのように呟(つぶや)いた。


 「てか、小花さんはこのアクセサリーは綺麗だって事だけで拾ったの?

 いくら綺麗だからって、普通は落ちている物を拾わないよね」


 アクセサリーを見つめながら茜が言った。

 

 「えっ…」


 茜の質問に動揺する夏蓮。

 追い討ちをかけるように茜は続けた。


 「このアクセサリー、文人もおんなじの持ってたなぁって思って…」


 文人の幼馴染みでもある、茜の問い掛けに、何も答えることの出来ない夏蓮。



 「た、たかやまさんこそ、大沢くんの事今はどう思ってるんですか?」


 焦った夏蓮は、話しを反らそうと、咄嗟(とっさ)に茜に質問を返す。

 

 「わたし!?

 う~ん、私には陸が居るからね。

 陸と居るのが今の私の幸せだから…

 そんな私の側に彼が居ることが辛いのなら、彼に関わるべきじゃないって思ってる…」


 驚きつつ、冷静に自分の想いを述べる茜。


 「ごめんなさい…私辛い質問を…」


 そんな茜に申し訳なく思う夏蓮。


 「私は全然大丈夫だよ。

 文人はどうなのか知らないけど」


 強がりを見せる茜。


 「それより謝るなら、私の質問にも答えてもらいたいかな。

 小花さんは文人の事どう思ってるの?

 このアクセサリーは文人の持っていた物って、知ってて持っているんじゃない?」


 再び夏蓮の方を見ながら問い掛ける茜。

 

 「確かに大沢くんはこれを持ってましたね…」


 茜の再三の質問に正直に答える茜。

 

 「そう言えば…

 

 前に一回小花さんとも一緒に卓球をしたよね。

 あの時から文人の事好きだったんじゃない?

 それで今でも好きだから持ってるとか…」


 もう一度夏蓮に問いかける茜。


 


 「私は……」 




 それぞれがそれぞれの想いを胸に、卒業式への準備を進めていた。


 果たして、夏蓮はなぜ文人のアクセサリーを持っていたのか?

 

 夏蓮の文人への想いとは…


 夏蓮の隠している事とは一体…

 

 文人たちは運命の卒業式を迎えようとしていた。


【予告】

卒業式前日は、それぞれ準備に追われていた。


これまでのことを振り替えるなど、様々な想いが交差をする中、夏蓮は何やら秘密を抱えており……


次回【(6)卒業式】


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