第4話【卒業式前日】
あの日…
そこに運命的に現れた、学園の美少女。
そんな、夏蓮との卓球の試合に勝利した茜は、試合後に文人と二人っきりで話しをすることになり…
あれから月日が経ち…
とある高校の卒業式の前日。
教室にて、翌日に控えた卒業式の準備をしている、卒業生の担任と、とある生徒が居た。
「佳奈ちゃん、もう少し右の方が良い感じだと思う」
「こんな感じかな?」
「あっ、ちょっと右に行きすぎたかな」
「えっ、じゃあこういうこと?」
「う~ん、そこまでも行かないんだよね」
二人の飾り付けについての試行錯誤が続く。
「えっ~!じゃあどういうこと?どうすれば正解になるの?
てか、こんな少しの違いで大きく変わるもの?」
と、
佳奈ちゃんこと松木佳奈子は、文人たち三年生の担任であった。
前任者の急な退職に伴い、代理ではあるものの初めての担任を担うこともあり、ただならぬ強い思いで勤めていた。
「変わらないね!」
「えっ~じゃあ今までの高山とのやり取りは何だったのよ」
そんな佳奈子に指示を出していた生徒は、
茜の指示のもと、佳奈子の肩付近で一つに束ねた黒い髪が、不満げにユラユラと揺れていた。
自分の指示通りに動く佳奈子の様子を、後ろにある机に腰をかけて見ていた茜。
「いや~やっぱりこうして見てたら、佳奈ちゃんって可愛いよね」
飾り付けを終えた佳奈子は、椅子から降りて、乗っていた椅子を元の位置に戻す。
「もう~高山ったら…
そんな
少し頬を赤らめる佳奈子。
「何かチョコチョコ動いてるの可愛い」
ニヤケているのを
「うん?それってどういうことよ!」
椅子を戻し、机に座っている茜に近づく佳奈子。
「別に悪い意味で言ってる訳じゃないんだよ。
佳奈ちゃんは小柄で肉付きが良いから」
佳奈子は低身長で、少しふくよかな体型だった。
「ひっどい~
身長は高山とそんなに変わらないじゃない。
そりゃ高山の方が細いかも知れないけどさぁ」
自分の腕や足、腰周りを見回す佳奈子。
「私は誉めてるんだよ。
私も佳奈ちゃんぐらいあればなぁ~って思うもん」
茜は佳奈子のある部分を見ながら話す。
「それ、本当に言ってる?
脂肪なんて無い方が良いんだから。
小回りの利く体型の高山の方が羨ましいよ」
首を傾げながら、自分の二の腕を摘まむ佳奈子。
「私の言ってるのはね、あるべき所にあるのが羨ましいってこと」
茜は自身の胸に手を当てる。
「あぁ、そう言うことね。
こんなものあったって肩は凝(こ)るし、着られる服も限られてくるし、良いことなんて無いんだから」
佳奈子も自身の胸に手を当てる。
「ある人はみんなそう言うよね。
やっぱりみんな無い物ねだりってことなのかな」
「そういうもんよ。
私は高山の体型の方が羨ましいよ。
それに優しくて気が利く彼氏も居て、文句なんて言ったらバチが当たるわよ」
佳奈子も茜の隣にある席に腰をかけた。
「優しくて、気が利く彼氏を持つのも色々と考えちゃうの。
私の足りない部分がある子の所に行っちゃうんじゃないかとか、不安が絶えないんだから」
「まぁ、素敵な男子ほどライバルが多いのは事実よね。
でも、あんまり深く考えない方が良いもんよ。
恋愛は不安に
「そんなもんなんかな。
まぁ、私よりも恋愛経験豊富な佳奈ちゃんが言うなら間違いないよね」
「そうそう、間違いない~
ってか、さっきの話だと相馬は豊満な女性が好きってことになるけど」
「佳奈ちゃん…
そこを掘り下げる?」
呆れた表情を見せる茜。
「別に生徒の趣味を知りたいとは思わないけど、高山の相談に乗るなら知っておいた方が良いかもだしね」
「へー。
ってことは佳奈ちゃんに相談したら、私も佳奈ちゃんみたいに大きくなるってことなんだ~」
そう言うと茜は立ち上がり、佳奈子の目の前に行き、佳奈子の豊満な胸に手を当てた。
「ちょ、ちょっと!いくら女子だからって、そんな気安く触って良いもんじゃないんだから!」
そんな佳奈子も、目の前に居る茜の華奢な身体に付いている胸を鷲掴みにした。
「きゃっ!」
茜の高い声の悲鳴が教室に響き渡った。
「うん、高山も思ったよりあるじゃない。
まぁ制服の上からだとちゃんと分からないけど…
もしかして盛ってる?」
茜の胸の大きさを確かめるように胸周りを触り続ける佳奈子。
「もう~佳奈ちゃん~
ガッツリと触りすぎ。
それに盛ってないから。
これは自前の胸ですよ~」
背筋を伸ばし、胸を前に付き出す茜。
「ほほう…
盛ってなくて高山の体型でこれぐらいだと…」
「これぐらいだと…?」
佳奈子の顔に自分の顔を近づける茜。
「普通ね」
「何だ~
ちょっと期待しちゃったじゃない」
ガッカリする茜。
「まぁ、胸なんて大きさじゃないから。
大事なのは形なんだからね。
しかし、相馬もこれを
「佳奈ちゃん!!」
自身の胸を触り続けていた佳奈子の手を振り払い、佳奈子から距離を取る茜。
「おっと!いくら高山でも、これ以上言い過ぎたら教師クビになっちゃうよね」
「卒業式の前に生徒にセクハラしてクビとか笑えないからね~
はぁ…私が居なくなったら、佳奈ちゃんがどうなるか心配で卒業どころじゃないよ」
不安そうに佳奈子を見つめる茜。
「高山は私の心配をするより自分の心配をしなさい。
私もちゃんとした大人なんだから、こういうことする相手はちゃんと選ぶんだぞ。
てか、今回先に手を出したのは高山の方だし」
再び佳奈子の座っている机の横に腰かける茜。
「だって、佳奈ちゃんのに触れるのも今日が最後だと思うとね…」
暫く沈黙する茜。
「佳奈ちゃん…
私ね、無駄なやり取りなんて存在しないと思うんだよね」
少し間を置いて、深刻なトーンで話し始めた茜。
「高山…急に
「急にじゃないよ…。
飾り付けをしてる時からずっと思ってたんだよね。
このまま佳奈ちゃんと、こういうやり取りをずっと出来たらなぁって」
うつ向きながら、足をバタつかせる茜。
「高山ってたまにそういう所あるよね。
確かに高山の言う通り、今こうやって話してる時も無駄ではないと私も思うし、そうやって高山が私との時間を大切に思ってくれているのも嬉しいよ」
「佳奈ちゃん…」
顔を上げて佳奈子の顔を見つめる茜。
「でもね、ここでやり取りをずっと続けることは不可能な事なんだよ。
高山たちは明日、ここを卒業して私たち教師から巣だって行く。
その事はどうしたって変えることは出来ないんだからさ」
「うん…分かってるんだけどね…」
再びうつ向く茜。
「高山はそうやって残念そうにしてるけど…
私は今。この瞬間が、過去になることが楽しみで仕方ないんだよ」
「楽しみ…?」
顔を上げ、驚きと少し不満げな表情を見せながら、佳奈子を見つめる茜。
「もう分かりやすいよね。
高山は。
こりゃ相馬も大変だね」
呆れた顔で話す佳奈子。
「だって佳奈ちゃんが…」
と不満げに言い掛けた茜に対して、
「別に高山が思っているような、今が嫌で早く過去になってほしいって訳でもないんだよ。
ただ、私は変えれない事をどうにかしようとするんじゃなくて、考え方を変えてみようっていう考えな訳」
「考え方を変える…?」
茜は佳奈子に対し、不思議そうに見つめて言った。
「そうそう。
この今の時間が終わって過去になったら、また良い思い出として思い出す事が出来るでしょ」
「思い出す…」
佳奈子の発言を
「思い出す事が出来るのは過去の出来事だからであって、今の出来事を懐かしむ事は出来ない。
だから過去になったら、なったで楽しみな部分もあるって訳。
それに高山たちにはちゃんと卒業してもらわないと、私は教師をクビになるかもだしね~」
最後は少し冗談っぽくまとめる佳奈子。
「佳奈ちゃん…
じゃあ、懐かしむ事の出来なくなった過去はどうしたら良いと思う…?」
「それって大沢の事…」
「うん…」
深刻な表情で話し続ける茜。
そんな茜を見つめながら、腰をかけていた机の椅子を引き、ある生徒の席に座る佳奈子。
「高山も座ったら?」
「うん…」
佳奈子の呼び掛けで、茜も席へと座るのだった。
【予告】
卒業式前日、茜と担任の佳奈子は二人っきりで、茜の高校生活、最後の時間を噛み締めていた。
そんな中、茜が文人について話し出し…
次回【(5)秘密】
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