第3話【分岐点】

いつものように空き教室で卓球をしていた4人。


文人ふみとあかねりく結香ゆか


その4人の前に現れた美少女。


夏蓮かれん



これまでに集まることの無かった、5人は試合を行うも、文人と茜の大喧嘩に発展してしまい…


そんな二人の喧嘩を止めようと、陸の提案にて再び卓球の試合を行うこととなる。


果たして、試合の結果は…


その結果に伴い、運命の歯車は動き出そうとしていた。

 


 〈カッ!カッ、カカカ…〉


 


 玉は文人のラケットにわずか数センチの差で触れることなく、卓球台に跳ねたあと床に転がっていった。


 

 「試合終了!」


 

 結香の掛け声に合わせ、茜の喜びが響き渡る。


 

 「やった~!!!! 陸やったよ!」


 「俺たちやったな!」

 

 勝った茜と陸。

 茜は嬉しさのあまり何度も陸にハイタッチをしていた。


 「うん!これで文人に何でも聞いてもらえる!」


 「結局そこかよ…俺は二人の後押しをしただけなんだよなぁ…」


 目をキラキラと輝かせている茜に聞こえないように、陸は言った。


 「えっ?何か言った?」


 「ううん、何にもないよ」

 

 勝って嬉しい気持ちもあるものの、複雑な心境の陸であった。


 

 一方、文人があと一歩の所でヒーローになり損ねて、敗北してしまった文人と夏蓮。


 「ごめん!俺があと一歩早く動き出していれば…」


 「謝ることないですよ!

 大沢くんに私の言うことを聞いてもらえないのは、少し残念ですが…

 こうやって大沢くんとチームを組めて、卓球を出来たことは私にとって大切な思い出になりました。

 やっぱり大沢くんは高山さんとの方がお似合いってことですね!」


 何か吹っ切れたように清々すがすがしい表情の夏蓮。


 「別にあいつと俺なんて…」


 「そんなことないですよ。

 今回、初めてお二人を近くで見ることになりましたけど、やっぱり二人の関係性は特別だなぁって感じました。

 私も大沢君とチームを組んだりしましたけど、私の入る隙間はないなぁと…」


 「えっ…」


 夏蓮のあたかも自分に気があるような物言いに驚く文人。


 「高山さんの想い、しっかりと受け止めて上げてくださいね」

 

 真剣な眼差しで、文人を見つめる夏蓮。


 「いや、別に俺と茜はただの幼馴染みだから」 

 夏蓮の目線を反らす文人。


 「ずっと一緒に居たら気づかないものですよ…」

 

 「文人~

 いつまで小花さんに見とれているの?

 文人は負けたんだし、いつまでもこんなに可愛い子と一緒に居たら他の男子達に目を付けられたりでもしたらどうするの~」

 

 茜が文人と夏蓮が話している様子を見かねて話し掛けてくる。


 「そんな可愛いだなんて…

 あっ、もうこんな時間。

 私、そろそろ失礼しますね。

 よそ者が長居をしてすみませんでした」


 鞄を持つなど帰り支度を始める夏蓮。


 「そんな、よそ者なんて…

 もっとゆっくりして行ってもらっても!」

  

 結香が慌てて引き留めに入る。


 「長沢さん、お気遣いありがとうございます。

 ですが…負け犬が長々と居てもみじめなだけなんで…

 それにそろそろ演劇部に戻らないと怒られそうですし」


 「それなら残念だけど…

 これ以上引き留めるのもかえって申し訳ないわね。

 小花さんが来てくれたから、こんなに盛り上がったんだし、またいつでも遊びに来てね!」


 「はい!また遊びに来ますね!」

 

 笑顔を見せて夏蓮は文人たちから去っていった。


 そしてこの日を最後に、二度とこの空き教室に夏蓮の姿を見ることは無かった。


 

 「じゃあそろそろ俺たちも帰ろうか」


 「そうだね、今日はなんか色々とあって疲れたよね」


 夏蓮を見送った直後に陸と結香が帰り支度を始める。


 「文人…」


 「うん?」


 そんな二人の様子を見て、同じく帰り支度を始めようとした文人だが、茜に呼び掛けられるのであった。


 「みんなが帰った後に話があるの…」


 「あぁ…さっきのやつね。

 分かった」


 茜の事だから、またどんな頼み事をされるんだろうと、少しめんどくさそうな口調で返す文人。

 

 その後、片付けを終え帰ろうとする陸と結香。


 「あれ?二人はまだ帰らないの?」


 ぼっーと突っ立っていた文人に対して結香が声を掛けた。


 「茜が話があるって言うから…」


 文人はせっせと片付けを行っている茜を見つめながら言い放つ。


 「茜、手伝うよ」

 

 陸が片付けをしている茜を手伝おうと声を掛けた。


 「ううん、大丈夫。

 陸は少しでも早めに帰ってゆっくりと休んで」


 「別にこれぐらいすぐに終わるよ」


 「陸はやっぱり優しいね。

 でも、あそこに突っ立っている奴にやらせないとね」


 「あぁ、文人ね。

 俺が言って帰るわ」


 そう言って茜の元から離れ、荷物を手に取り、文人と結香の居る出口付近に向かう。


 「文人、茜が文人に手伝って欲しいみたい。

 行ってあげたら。

 俺が手伝おうとしても断られるから」


 「茜はね、さっきの試合の報酬を頼むみたい。

 だから大沢じゃなきゃダメなんでしょ」


 陸に気にしないよう気遣う結香。

 

 「あぁ~さっきのやつか…

 茜の事だからどんなこと言われるか。

 それじゃあ、俺と結香は外で文人の無事を祈っておくよ。

 あとさっきのについてもまた聞かしてくれよな」


 そう言って陸は文人の肩を軽く叩く。


 「本当ね、もうさっきみたいなケンカだけはしないでよ~」

 

 そう注意喚起ちゅういかんきをして結香は陸と共に空き教室を後にした。


 

 「文人…」


 

 空き教室に残った文人と茜。

 


 椅子に座った二人を、窓から入る夕暮れが照らす中、茜の話しに耳を傾ける文人であった。

 

 

 後にこの日の出来事が、に大きな影響を及ぼすことになるとは、誰も知るよしがなかった。


【予告】

5人の運命を掛けた試合は、茜と陸の勝利に終わった。

勝利の報酬として、茜は文人を呼び出し二人っきりで話しをすることになり…


次回【(4)卒業式前日】

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