第6話【卒業式】
〈ドッスン~!!〉
静かに卒業証書の授与を行っていた、体育館に大きな物音が響き渡る。
それと同時に、とある男子生徒に視線が集まった。
卒業証書を受け取り、席に戻る最中に段差を踏み外し、尻餅を付いているこの男子生徒こそが、
あまり人に見られるのが得意でなかった文人は、同級生や同級生の家族など様々な人が見ているこの状況に酷く緊張していたことが原因だったのかも知れない。
彼への視線と共に、クスクスと笑い声などの小さなざわめきが体育館に巻き起こった。
顔を真っ赤にして、慌てて立ち上がる文人。
そんな文人が真っ先に目を向けたのが、その様子を見て大笑いしている少女。
茜は、よく笑う明るい性格である為、悪気があって笑っているのでは無いことを、文人もよく理解していた。
(こんな形で笑っている茜を見たかったんじゃない…)
茜は文人にとって、小学校からの幼なじみ。
そして…あの日から付き合い始め、別れてしまった元カノである。
そんな茜の姿を見た後にもう一人、文人の視界に入った人物がいた。
そう。
夏蓮は、文人が入学した当初から憧れていた学園のアイドル的存在であり、あの日…共に卓球をして敗北を味わった相手でもある。
その後も、2年と3年の時に一緒のクラスになったり、関わる機会はあったものの、あまり距離を縮める事が出来ずに卒業式を迎えていた。
(うわっ…小花さんも見てる…カッコ悪…)
尻餅を付いた自分が情けなく、顔を上げることが出来ない文人。
「やっちまったな」
そんな文人に対して、うっすらと笑みを浮かべながら話し掛ける人物が居た。
「裕ニ、何だか顔がニヤケてるように見えるんだけど…」
その名は…【土村裕二(つちむらゆうじ)】
文人の現在、唯一の友人である。
なぜ、
そんな文人が、ある日を境に裕二と話すようになり、今では文人の一番の話し相手までになっている。
「そりゃこの状況であんなの見せられたら、笑うなっていう方が辛いんだけど」
裕二の気持ちも理解しつつ、席に着いた文人は
「笑い事じゃない!あぁ~本当に最悪の卒業式になった…
高校生活を全てやり直したい…
俺を入学式に戻してくれ~!」
文人は心の底からの思いをぶちまけた。
「1度終わった時間は取り戻せない。諦めるんだな」
と、そんな文人を正論で軽くあしらう裕二。
「だよな」
そう言葉少なく返す事しか出来ない文人。
文人が後悔を
その後、文人は足取りが重いままに、教室まで移動を行い、高校生活最後のホームルームが始まろうとしていた。
【予告】
卒業式を終えて文人たちが体育館から戻った教室で、文人を待ち受けていたのはいつもの辛い状況だった…
次回【(7)最後のホームルーム】
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます