第7話【最後のホームルーム】

 卒業式でドジを踏み恥をかいてしまった主人公、大沢文人おおさわふみと


 そんな文人の姿を見て大笑いをする文人の元カノ、高山茜たかやまあかね


 さらに、文人が入学以来憧れ続けている美少女、小花夏蓮おばなかれん


 あまり人と絡むのが好きではないが、文人とは友人関係である土村裕二つちむらゆうじ


 そんな4人の前に高校生活最後のホームルームが始まろうとしていた。



 教室に着き、足早に自分の席に座る文人。


 窓側の一番後ろの席だ。


 いつものように、校庭を眺める文人。


 窓が少し開いており、3階の文人の教室には春になりかけている、心地よい風が教室に吹き抜けていた。


そんな、文人の後を追うように、裕二が文人のすぐ前の席に座る。


 その直後に、裕二が文人のほうへ振り返り話し掛けてきた。


 「お前が校庭を眺めるのも今日で最後だな」


「そうだな。

 やっと校庭を眺めなくて済むようになるよ」


 そう話している二人の声をかき消すように、隣の列から茜の声が聞こえてきた。


 「ねぇ、卒業式が終わったら私に第2ボタンくれない?」


 

 「はぁっ?卒業式に第2ボタンって古いだろ。今はネクタイとかじゃない?」


 そう言って茜の発言を返す男の名は…



 相馬陸そうまりく


 

 文人の元親友であり、茜の現在付き合っている人物である。


 「確かに学ランならともかく、ブレザーで、ボタンをもらうのはおかしいか。

 じゃあネクタイでいいよ!」


 「じゃあって…まぁこんなものでいいならいくらでもやるよ」



 (本当だったら俺が茜にネクタイを渡してたのかなぁ…)


 横から聞こえてくる茜と陸のやり取りに対して、文人はこう思った。




 続けて茜と陸のやり取りが続く。



 「今日も親は仕事だし終わったら私の家に来てよ!」


 「またか。てか親は卒業式に来てただろ!」


 「卒業式が終わってから仕事に行くんだって~だからさぁ~」


 「俺だって卒業した日ぐらいは、家で家族とゆっくり過ごしたいって」


 「えー、自分だけ家族と過ごして、私は1人で家にいろって言うの?」




 (茜は寂しがりやだからなぁ…)


 文人は二人の会話を意識しないように校庭を眺めていたのだが、あまり効果もなく茜たちの会話を気にしていた。


 「分かったよ。じゃあいつもの時間に行くよ」



 (結局行くのかよ?てかいつも行ってるんだ…

 茜の家で二人っきりでいつも何してるんかな…??あ~早く松ちゃん来ないかなぁ~)


 と、文人がいつものようにヤキモキしながら考えていた時だった。




 〈ガラガラー〉



 扉が開く音がした。




 「はい、みんな座って!最後ぐらいキッチリするわよ!」


 と、言いながら教室に入ってきたのが…



 松木佳菜子まつきかなこ



 文人が2年生の時に赴任してきて、3年生になり担任になった国語の教師。


 性格は大雑把だが、生徒への想いが強い為、生徒からの信頼が厚く、文人もお気に入りの先生であった。



 「松木!彼氏出来た?卒業式までに作るって言ってたよな?早く作らないと、おばちゃんになっちゃうぞ!」


 と言うのはクラスのお調子者…



 金田健かねだたける



 「うるさい!お前に言われなくても分かってるし~てか、おばちゃんって誰のことだ?

 私はまだピッチピチの29歳だからな!」



 「いやいや!29ってピッチピチじゃないから!

 私らは10歳も下の18だし!」


 と、反論する松木先生に対して茜がするどく突っ込みを入れる。


 「高山~最後ぐらいピッチピチで通さしてくれよ~」


 「いや、最後とか関係なくピッチピチではないから」


 「冷たいなぁ~そんな事言ってたら男が逃げていくぞ!」


 「佳菜ちゃんには言われたくないって!

 私の事より自分の心配をしなよ!」


 「はい、はーい。来年こそはイケメンをゲッチュしてみせるからね!」


 「はいはい、頑張って下さいね」



 と、こんな感じに茜と松木先生の、いつものやり取りが続いた。



 (もう、この松ちゃんと茜とのやり取りも聞き納めか…)




 と、二人の話を聞きながらも校庭を眺め続ける文人。



 「相変わらずだなぁー

 この騒がしいのも今日で最後だと思うと、清々せいせいするなぁ」


 と裕二がボソッと文人に対して言った。


 「そうだなぁ。今日で最後なんだよなぁ…」


 

 このとき、高校を卒業したら茜と全く会わなくなる事に対し、嬉しいような、切ないような、複雑な気持ちが入り交じっている状態の文人だった。



 その後、松木先生の進行によりホームルームが始まり、瞬く間に終わりへと差し掛かっていた。



 「と、言うわけでホームルームは、ほぼ終了なんだけど…

 最後に先生から一言いわせて!


 今日で、ここにいるみんなは離ればなれになる。


 けど、みんなが過ごした3年間の思い出は、私も含めてみんなの心の中に残るから!


 同じ思い出が残ってるってことは、みんなが離ればなれになっても、みんなが繋がってる証しだと私は思う。


 この先、苦しい事や、どうしようもない壁にぶち当たることは、もちろんあると思う。


 もしその時が来たら、ここにいるみんなや、このみんなとの大切な思い出を思い出してみて。


 きっと、どんなことでも乗り越えられる勇気が湧いてくるはずだから!」



 「良いこと言ってるけど、一言にまとめれてないぞー」


 気持ちの入った松木先生の言葉に対し、金田がさりげなく突っ込みをいれる。


 そんな突っ込みをした金田に対して。


 

 「だって…最後にみんなへ伝えるのに…

 一言ではまとめれなかったの!


 私は…みんなと過ごしたのは2年間だけだったけど…


 みんなのおかげでいい時間を過ごせました…

 本当にありがとうね~!」


 と、今にも泣き出しそうなのをこらえ、必死に笑顔を作り、言葉を絞り出す松木先生。


 そんな松木先生の、みんなへ向けた最後の言葉に、泣き出す生徒も見られるなか最後のホームルームが終わりを告げた。




 【予告】

 ホームルームが終わり、文人の高校生活が終わろうとしていた。

 文人は、松木先生がみんなへ送った言葉が心に引っ掛り、教室から動けないでいた。

 そんな文人に、声を掛けてくる一人の人物がいるのであった。


次回【(8)終わり行く高校生活の中で】

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