第2章 再出発の高校生活編

第12話【思いがけない再会】

 卒業式で、足を踏み外し大恥をかいた主人公、大沢文人おおさわふみとには高校生活で憧れ続けていた女子生徒がいた。




 その名は小花夏蓮おばなかれん


 夏蓮から一度告白をされた文人だったが、あまりにも予想外だった為にハッキリとした返事を返せず曖昧あいまいにしてしまう。




 その時の告白以来始めて、ハッキリと自分の想いを伝えようと決心した文人は卒業式の後、夏蓮に会いに行くが、その隣には親友の土村裕二つちむらゆうじの姿が…




 さらに夏蓮の親友、中城雪菜ちゅうじょうせつなから裕二と夏蓮が付き合い始めていたという衝撃の事実が!




 その帰りには、文人の元カノである高山茜たかやまあかねと、元親友、相馬陸そうまりくがキスをしている姿を目撃。




 酷く傷つき、高校生活に対して後悔にひたっていた文人が眠りにつくと、そこには文人のばあちゃんが…




 謎のばあちゃんの夢から目覚めると…




 そこには死んだはずのばあちゃんが朝ごはんを食べていた!?




 テレビや、カレンダーを見渡すと3年前の入学式の日だと分かり…




 新章!再出発の高校生活編いよいよ開始!!




 3年前にタイムリープした文人は夏蓮、茜たちとどのように関わり、関係を築いていくのか!?


 文人にとっての二度目の高校生活がいよいよ始まります。




 (今が3年前だとすると、茜とも付き合い始める前になるのか…)




 現在置かれている状況に困惑しながらも、家族に怪しまれないよう、冷静さをよそう文人。


 いつもの自分の席に着き、目の前にあった朝ごはんのトーストを食べ始める。




 (硬っ…!?)




 「何度も起こしてるのに起きてこないからじゃない。


 そりゃパンも硬くなるわよ」




 焼かれてかなりの時間が経っているのか、硬く、冷たく、とても食べられたものじゃない食パンを食べた文人が、余りに分かりやすい表情をしたので洋子は呆れた顔で言う。




 (これが本当に3年前だとしたら、これから入学式が始まり、茜たちと高校に通うことになるんだよなぁ…


 今さらどんな感じで話しかけていけば良いんだろう…)




 「文人!早く食べないと電車に間に合わなくなるわよ!」




 (それより、小花さんにどうやって話しかけるかだよな…


 ただでさえ3年間もあった高校生活でまともに話せたのが一度しかないのに、クラスが違う状態に戻った今、どう接っしていけば…)




 「もうそろそろ行かないと!


 初日から遅刻なんてみっともない真似やめてよね!」




 (いや、そもそも俺は本当にタイムリープしたんだろうか?


 さっきのばあちゃんの夢みたいに、また夢オチっていうパターンの可能性も…)




 「文人!文人!!」




 「うん?何?」




 ようやく洋子の声に気づいた文人に呆れながら…




 「春だからって、なにをボヤ~っとしてるのよ。


 一生に一度しかない高校の入学式の直前だと言うのに。


 ほらほら、そろそろ着替えて行かないと間に合わないんじゃないの?」




 と時計を指差しながら洋子は言う。




 「うわっ!?やばっ!


 駅まで自転車で飛ばして行かないといけないじゃん!


 もっと早く言ってよ~」




 「何度も言ったのにあんたが聞く耳を持たないからでしょうが」




 と言い放つ洋子を尻目に、急いでパンを食べ、制服に着替えに部屋に戻る文人。




 いつもと何かが違う為、違和感の感じる自分の部屋にて、真新しい制服に袖を通す。


 そして指定の青いネクタイを締め、カバンに必要物品が入ってるかをし、急ぎ足で部屋を出る文人。




 「文人や~ネクタイ締めてえらい立派になって見えるの~


 もっとばあちゃんの近くに来て見せておくれ~」




 「ごめん、ばあちゃん!急いでるから!


 また帰ってからゆっくり見せるよ!」




 台所に出た文人は、ばあちゃんに呼び止められたが、電車の時間が迫っている為、急いで玄関に向かう。




 「あれ文人?自分でネクタイ締められたの?昨日はまだちゃんと締められないから手伝ってってあれだけ言ってたのに」




 洋子が制服を着こなしている文人を見て驚いたように言う。




 「あっ、え~と、昨日徹夜で練習したから!」




 「あ~そうだったの。


 って、それでまさかあんた朝起きられなかったんじゃないでしょうね?」




 「あ、え~とまぁそんなところ」




 「おバカ!


 ダメじゃない。


 そんなことで寝不足なんて…




 早く寝ないと。


 荷物は全部忘れずに持った?」




 「もったもった!」




 「私も後から必ず見に行くから、しっかりやるのよ!」




 「別に入学式なんて見に来なくてもいいけど…」




 「なに言ってるのよ。


 高校の入学式は一生に一度なんだから!


 しっかり見とかないと!


 それにばあちゃんにも文人の晴れ姿を見てもらう為に、写真を撮らないといけないしね」




 (一生に一度の卒業式には見に来なかったくせに…


 てか、俺にとっては二度目の入学式なんだけどなぁ…)




 「あと写真なんて撮らないで良いって!恥ずかしいから!」




 「そうなの?でも、ばあちゃんも見たいって言ってるしね」




 「そうじゃよ~高校生の入学式は今日しかないんじゃから、しっかりと残しておかないとの~」




 「ばあちゃんまで…」




 (だから…


 二度目なんだけどなぁ…


 って、時間が!!)




 洋子や、ばあちゃんとのやり取りが続くなか、ふと時計に目を向けると遅刻間際の時間になっており、さらに焦りだす文人。




 「じゃあ、話はまた後で!いってきます!」




 と言って急ぎ足で玄関へ駆け抜けていく。




 「いってらっしゃい~気をつけてね」




 「文人~そんなに急いで転ばぬようにの~」




 慌ただしく靴を履いている文人に向かって言う洋子とばあちゃん。




 「ばあちゃんこそ、うっかりつまずいたりして転ばんようにね!」




 「ありがとう~人の心配をする文人はやっぱり優しさの固まりじゃの~」




 と、玄関の方を向いておがみながら言うばあちゃん。




 「もう。文人もばあちゃんも相変わらず仲良しなんだから」




 と、呆れながらも少し笑みを浮かべている洋子。




 「ばあちゃん。


 そんなに喜んでくれて…




 だって人生本当にちょっとしたことでいつどうなるか分からないんだから…




 ばあちゃんには1日でも長生きして欲しいし、これからも元気で俺のそばに居てね」




 「文人~1日でも長く元気で文人と、おれるよう頑張るからの~」




 文人の発言にうっすら涙を浮かべる、ばあちゃん。




 「まぁね、年なのは事実なんだから文人が心配するのも分かるんだけど…




 文人、時間大丈夫なの?」




 と洋子がさらっと言う。




 「あっ…」




 〈ガチャッ〉




 慌てて家を後にした文人を見送った洋子と、ばあちゃん。




 「行ったみたい。


 あの子あんなに急いで大丈夫かしら?


 緊張して一人だけ転けたりしなければ良いのだけれど」




 心配でたまらない洋子に対してばあちゃんは…




 「大丈夫だよ。


 同じことは繰り返さぬようあの子も分かってるはずさ…」




 「同じこと?


 ばあちゃんどういうこと?」




 とっさに聞き返す洋子。




 「早く文人の制服姿見たいの~」




 「何とぼけてるのよ。


 さっきネクタイ締めてる所を見たところでしょ」




 「そうだったかの~?」




 「ばあちゃん。


 本気で言ってるの?


 また認知症が進んだのかしら…




 そろそろ迎えの車が来るわよ」




 不安の表情を隠せない洋子であった。




 〈シャー〉




 春の心地よい風が吹き抜けるなか、必死に自転車のペダルを漕ぎ、駅に向かっている文人。




 (気持ちのいい風だなぁ~


 昨日の大雨の天気が嘘みたい。


 そりゃそうか。


 俺が経験した昨日と、この世界の昨日は別物なんだもんなぁ…




 でもこんなにハッキリと風を感じられるのに夢なんて訳ないよなぁ。


 ってことは…




 やっぱり戻ったんだよなぁ…




 俺は…




 ばあちゃんも元気だったし…




 久しぶりに話せて凄い懐かしかった…




 俺にもあんな家族団らんだった時があったんだよなぁ)




 自転車を走らせながら、懐かしき家族の温かさに想いをせながら駆け抜けていく文人であった。




 「間もなく電車が発車致します。


 駆け込み乗車はお辞め下さい」




 〈タッタッタッタッ!〉




駅の近くに自転車を止め、大急ぎで電車に駆け込む文人。




 「ハァハァハァ」




 (何とか間に合った…)




 これに乗り遅れたら入学式から遅刻、という笑えないスタートになる危機的状況を脱した文人は一安心し、車内のつり革にしがみつく。




 〈ガタン、ガタン、ガタン、ガタン〉




 通勤ラッシュが終わりかけの時間にしては、車内には多くの人が利用しており、走ってクタクタの文人に対しての座る場所などあるはずもなかった。




 「ハァ、ハァ」




 ゆっくりと深呼吸をして徐々に息を整えていく。




 〈シュー〉




 何駅かすぎ、とある駅で電車が停車した時だった。




 (あれは…


 うちの制服?


 こんな時間でも入学式に向かう子が俺以外にも居るんだなぁ…)




 人影に隠れて顔まではハッキリと見えないものの、自分と同じ学校の制服を着た、おそらくこれから一緒に入学式に出るであろう生徒を発見する文人。




 (それより、もうすぐ学校に着いてしまう。


 制服もそうだけど、まっさらな状態で始まるんだ。


 これからの行動で俺の未来は大きく変わっていくはず。


 このままいけば、おそらく茜と付き合うことになるとは思うけど、俺はもう茜と付き合おうとは思はない。


 前に付き合った時の事を考えたら、幸せを感じる部分も多かったけど、お互い無理していたところもあった。


 今そのことを知っている俺なら、茜の為にも辛い想いをさせないで、前よりも良い青春を茜に過ごしてもらうことが出来るはず。


 茜は、俺と付き合うより陸と付き合っている方が幸せなはずなんだよ…




 きっと)




 と、文人は現在のリープ後の世界では、以前付き合っていた元カノである、高山茜たかやまあかねとは恋愛関係にならないようにしようと考えていた。




 (俺は…




 今度こそ小花さんのそばに居れるように気持ちを伝えなければ…




 俺なんかのことを想ってくれて、好きって言葉まで伝えてくれた…




 今度は俺が小花さんにハッキリと告白する番だ。


 その為に、俺はタイムリープしたんだと思う)




 文人は、このタイムリープ現象が起きたのは、憧れの存在である小花夏蓮おばなかれんへの想いが実らなかった事が、一番の原因なのではないかと考え、2年、3年と同じクラスになるであろう夏蓮に、今度こそ告白をしようと考えていた。




 〈ブーブー〉




 (うん?誰からだろう??)




 そんなこんなと考えていた文人のスマホに連絡が入る。




 (うわっ…




 陸からだ…




 確かこの時はまだ連絡のやり取りをしてたよな)




 開いたそこには、陸からのメッセージが届いていた。




 『文人、大丈夫か?


 寝坊でもしたのか??


 俺たちはもう学校に着いてるぞ。』




 陸からのメッセージに対し文人はこう返信する。




 『心配かけてごめん。


 いま電車に乗っているから式には間に合うと思う。』




 なぜ入学式の前から陸と連絡のやり取りを行っていたかと言うと陸と文人、そして茜は小学校の時から同じ学校であり幼なじみだった。


 そして、結香とは中学から一緒の学校であったのだ。


 その為、茜と文人が別れるまで、文人と三人は頻繁に連絡のやり取りを行っていた。




 (陸に送るのなんて久しぶりだなぁ…




 こんな感じでよかったよな…)




 久しぶりに陸に送った文章に対して、おかしいところが無いか不安になる文人。




 〈ガ、タン。ガラッガラッ〉




 「お忘れものないようお降りください」




 (うわっ…着いてしまった…早く降りないと!)




 スマホに気を取られていた文人は最寄り駅に到着したのに気付くと、慌ててカバンを手に取り電車から降りる。




 駅に着いた文人は、桜が舞い散る様子を見渡し、これから高校生活が始まる真新しい気持ちにひたる。




 (今でもこの状況は理解しがたいけど…




 今から俺の第二の高校生活が始まるんだ…)








 この物語は、最悪の卒業式を経験し、謎のタイムリープという現象により入学式の当日に戻った、この大沢文人おおさわふみとという青年が、最高の青春を送るべく、恋や、友情、などに翻弄ほんろうされながら、青春というかけがえのない時間を懸命に突き進む物語。




 果たして…




 文人は最高の青春を手にすることが出来るのか…




 それとも…










 決意新たに改札に向かっていた文人だったが…




 (あれっ!?ない…?)




 いつもズボンのポケットの中に入れているはずの定期券が無いことに気づく。




 〈ガサゴソ〉




 改札前で立ち止まり、カバンの中を探す。




 (ないぞ…




 カバンに入ってなかったらどこかに落としたのか??)




 と、慌てて改札からホームへ探しに戻ることに。




 (ないなぁ~早く行かないと式に遅刻してしまうのに…)




 と、焦りを隠せない文人は定期券が落ちてないかと、前を向かず足元ばかりを見て歩いていた。




 その時…




 〈ドスッ!〉




 文人の肩が誰かにぶつかった。




 「キャッ!」




 文人がぶつかった直後に、何とも可愛いらしい女の子の声が駅に響き渡る。




 「すいません!大丈夫ですか??」




 ぶつかった相手の方を向き、慌てて謝罪の言葉をべる文人。


 そんな文人の視界に入ってきたのは、さっきまで同じ車両に乗っていた同じ学校の制服を来た女の子の後ろ姿であった。




 (確かあの子って先に降りたはずじゃ…)




 「私は大丈夫ですよ!ちょっとビックリして大声は出してしまいましたけど…」




 

明るい声を出し少し照れつつ、ぶつかった拍子(ひょうし)に乱れた髪を耳の後ろに掛けながら文人の方に振り替える女の子。









 「・・・・」








 その姿を見て文人は固まった。






 (小花さんがどうしてここに…!?)




 そう。


 文人と同じ電車に乗っていた同じ学校に向かう生徒とは小花夏蓮おばなかれんだった。




 「慌ててたみたいですけど、どうかしたんですか?」




 驚きすぎて、開いた口がふさがらないような状態の文人に夏蓮が聞いてきた。




 「え、えっと…




 定期を無くしちゃったみたいで。


 カバンの中を探してたんたけど見つからなくて…




 それでホームに落ちてないかと探していて。」




 「そうだったんですね。


 私も電車を降りてからここまで歩いてきましたけど、落ちているような気配はしなかったですし、乗ってきた駅か、電車の中で落としたのかも。


 駅員さんに聞いてみましょ!」




 タイムリープ後、夏蓮にまさかこんな状況で再会することになるとは思いもしなかった文人。


 戸惑いながらも、夏蓮と共に駅員に事情を説明しにいく事に。


 が、定期の落とし物の報告は受けていなく、見つかり次第に連絡をして頂くようお願いする文人たち。




 「すいません。


 ありがとうございます。


 ぶつかっておきながら駅員さんに確認するのにも着いてきてもらって」




 申し訳なさそうに文人は夏蓮に言う。




 「いえいえ!


 それより結局見つからなかったですし…


 改札を出るお金とかは持っているんですか…?」




 不安そうに文人に問いかける夏蓮。




 「それは大丈夫ですよ!


 確かここに入れた気が…!」




 自信ありげに言う文人だが…




 〈ガサゴソ〉




 「あれ…




 おかしいなぁ?


 いつもならこの辺にあるんだけど…」




 いつもならカバンの中に入れているはずの財布が、なかなか見つからずその場に座り込んで探し始める文人。




 〈ガサゴソ、ガサゴソ〉




 と、その後も探し続ける文人だったが…




 「大沢くん?もしかして財布も…」




 と、不安な声で夏蓮が言いかけたその時。




 「あっ!?


 やばい…




 もうこんな時間!」




 ふと、駅の時計に目をやった文人。


 すぐに走り始めないと学校に着くのが、集合時間に間に合わない状況になっており、慌てて夏蓮に対して…




 「えっと、俺のことは良いから先に行って!」




 唐突とうとつに文人は言った。




 「で、でも!それじゃあ、はどうやって改札から出るの?」




 「最悪見つからなかったとしても、もうすぐ親が来るから何とかしてもらうよ」




 「でも…




 それじゃ式に間に合わないんじゃ…」




 と、心配そうに文人を見つめる夏蓮。




 そして…




 「少し手を出してもらってもいいですか?」




 夏蓮がとっさに言う。




 「えっ?」




 文人は訳もわからず、とっさにカバンから手を出し、夏蓮の前に手のひらを差し出す。




 〈ポン〉




 「どうぞ!式に間に合わなくなるんでこれを使って下さい!」




 と、言い放ち500円玉を文人の手のひらに置く夏蓮。




 「えっ?」




 続けて夏蓮は座り込んでいる文人に手を差し伸べ…




 「早く行きますよ!一緒に入学式に出ましょう!!」






 夏蓮が言い放ったと同時に、春の暖かく穏やかな風が吹き、夏蓮の周りを華麗に桜が舞い散った。


 座り込んでいる文人からその姿を眺めると、手を差し伸べている夏蓮は、天使が手を差し伸べて、自分を向かいに来たかのように妖艶で可憐であり、さらに舞い散る桜がより一層、幻想さを引き立てていた。


 そんな文人の心臓は今にも飛び出そうな勢いで脈打っていた。




 〈ガシッ〉




 「ありがとう!必ずこのお金は返すから!」




 文人は照れて真っ赤になっている表情を夏蓮に見られるのが恥ずかしかった為、顔を少し背けながら夏蓮の手を掴んで立ち上がった。




 その直後だった。






「えっ!?」






 夏蓮が少し驚いた声を発する。


 それは、立ち上がった文人が夏蓮の頭の上に手を触れたからだ。




 「ご、ごめん!


 頭の上に桜の花びらが付いてて!


 ってだからって触れるのはおかしいよね…


 本当にごめん!」




 と、雰囲気にまれたとは言え、とんでもないことをしてしまったと自覚し、とっさに謝罪する文人。




 「あっ、そうだったんですね!


 わざわざ、ありがとうございます」




 少し顔を赤らめて話す夏蓮は何処と無く嬉しそうな表情をしていた。




 〈タッタッタッタッ〉




 夏蓮に借りた500円玉で運賃を支払い、駅を後にした文人たちは大急ぎで、桜の木が立ち並ぶ通学路を駆け抜けていく。




 そして、ようやく校門が見えてきた。




 「ハァハァ、どうやら…間に合いそうだね…」




 息を切らしながら文人は夏蓮に話しかける。




 「そう…ですね…」




 髪を振り乱しながら走る夏蓮も同じく息を切らしながら答える。


 校門をくぐり、校内に入ると大きな掲示板が見えてきた。


 二人は立ち止まり、掲示板を眺める。




 「ハァ…ハァ… 確か…


 ここにクラスが載ってるんだよね」




と…同じクラスだったら…いいなぁ…」




 「えっ!?」




 驚いて文人は夏蓮の方を向く。




 「あれ?


 私、なんか変なこと言いました?


 せっかく出会ったんですし知ってる人が同じクラスだと心強いなぁって思ったんで!」




 「そうだよね!俺も同じくそう思う!」




 (でも一年の時は同じクラスになれないんだよなぁ…




 いや、まてよ…




 リープしたからひょっとしたら運命が変わっているかも…




 そもそもこんな出逢いの形じゃなかったんだし)




 心の中で期待を膨らませる文人。




 「あっ、私の名前がありました!


 私は一組みたいです。


 大沢くんは…」




 (確か…




 俺の一年の時のクラスは…)




 「ありました…




 大沢くんは二組みたいですね」




 (そうそう。


 いつも集合したりするときは隣だから小花さんのことを眺めていたよなぁ…




 やっぱりリープしても一緒かぁ。


 あれ?そう言えばどうして小花さんは俺の名前を知っているんだろう??)




 「えっと…」




 文人が言いかけたその時。




 「大沢くん!


 まだ名前を言ってなかったですよね!


 私は小花夏蓮おばなかれんと言います!


 クラスが隣になりましたけどこれからもよろしくお願いします!」




 文人の言葉をかき消すように夏蓮が自己紹介を始めた。




 「あ、うん、こちらこそよろしくお願いします!俺の名前は…」




 「大沢文人おおさわふみとくんですよね!」




 再び夏蓮は文人の自己紹介をさえぎるように話す。




 「えっ?どうして下の名前も知ってるの?」




 疑問に思い聞き返す文人。




 「あっ、さっき定期券を探してもらう手続きをしているときに名前が見えちゃって」




 「あ~そういうことね。それでか~」




 文人は少しモヤモヤしていたものが吹き飛んでスッキリした。




 「それでです!大沢くん!早く行かないと間に合わなくなっちゃいますよ!」




 と、慌ただしく歩き出した夏蓮を追うように、再び歩き出す文人。


 そして、二人はようやく教室のそばまでたどり着く。




 「ここだよね。それじゃあ…」




 文人は夏蓮に視線を送りながら、憧れの夏蓮との二人っきりの時間が終わる為に少し寂しげな表情で言いかける。




 「あの!まだまだ色んな話をしたいと思いますし、また良かったら私と話しをしてくれませんか?」




 そんな文人の気持ちが通じたのか、夏蓮からのお誘いが。




 「もちろん!今日は本当にありがとう。小花さんが居てくれなかったら、今頃ここにはたどり着けてないと思う。


 借りた500円は明日にでも必ず返すから!


 その時にまた色々と話そ!」




 夏蓮からの思いがけないお誘いに明るい表情を取り戻した文人。




 「いえいえ!いつでも大丈夫なんで!気軽に話しかけて下さい」




 そんな文人の表情を見て、安心したように夏蓮は一組の教室に消えていった。




 (まさかこんな事になるとはなぁ…)




 と、未だにフワフワした感覚が続く文人だが、ゆっくりと気持ちを切り替える時間もなく、二組の教室のドアを開けるのであった。




 〈ガラッガラッ〉




 ドアの音に反応し、クラス全員が一斉に文人の方へ振り替える。




 (うわっ…みんなこっち向いたよ…)




 遅刻間際に到着した為に、教室の中には文人以外の生徒全員が揃っていた。


 そんな状況に慌てて文人は目線を反らしたが、一瞬のうちに見覚えのある顔が何人も文人の視界に入った。




 「えっと、大沢くんだよね。廊下側の前から3番目の席に着いて」




 先生に誘導され席に座る文人。




 思いがけない夏蓮との再会により、入学式が始まる前から大きく動き始めた文人の高校生活!


 いよいよ、文人にとっての二度目の入学式が始まろうとしていた。





 【予告】


 教室にて懐かしのクラスメイトとの再会が…


 その中には…




 次回【(8)クラスメイトと二度目の入学式】


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