短編集
あすか
第1話 金!金!!金!!!
「あ~。金が欲しい」
その一言は俺にとっての日常であった。
「俊介。お前そればっかりだな。そんなにもお金って必要か?」
そして、もう一つの日常がこの大介の言葉。
いつも俺の金欲しい発言に対して諫めることを言ってくる。
大介とはほどほどに仲がいい。
友達というほどの繋がりはないけど、話し相手以上の間柄ではある。
これを友達と呼ぶものもいるだろうが、俺にはそうは思えない。
とまあ、そんな友情とは何だ?みたいなことを考えている暇はない。
今、俺が考えるべきこと、それは・・・・・。
お金だ!!
お金はいい。
なんだって買うことが出来る。
昔の偉人だか何だか“は金で買えないものはある“なんて世迷いごとを
言っていたが、そんなのは嘘だ。
資本主義というものに抗おうとする哀れな人間の戯言だ。
世の中の真理は“金で買えないものなどない”この一択だ。異論は認めない。
愛にしろ、命にしろ、なんだって金さえ払えば、買うことが出来る。
だからこそ、俺は金が欲しい。
それも1憶2億といった凡人が想定する程度の金ではない。
俺はこの世界を支配することのできるほどのお金を手に入れたい。
それが俺の夢であり野望だ。
いつか絶対に達成してやる。
そしてそのお金で俺は俺のための俺による俺にしかできない楽園を作る。
女を金で買い、弄ぶだけ弄んだら捨てる。
命を買いまくって、不死身の存在になり、この世を永遠に支配し続ける。
お金を娯楽品のようにして遊ぼう。トイレでは札を拭くために使い、
お金で覆いつくしたお風呂に入り、
少し寒くなったらお金を燃やして焚火をしよう。
あ~。考えただけで顔がだらしなくにやけてしまう。
金が欲しい。金が欲しい。金が欲しい。金が欲しい。
金が欲しい。金が!!欲しい~!!!。
「その願い、叶えて差し上げましょうか?」
そしてそんなことをいつものように考えていた時だった。
どこからともなくそんな声が聞こえてきたのは。
俺は勢いよく、頷いた。
どこから聞こえた声かは分からなかったが、俺の本能には逆らえない。
こんな最高のチャンスを不意にするほど俺は馬鹿ではない。
願いを叶えてくれるなら俺は何だってする。その心意気もできていた。
「ハハハハハハ。これで俺は楽園を作れるぞ~!!!」
思わず、俺は高笑いをあげながら叫んでいた。
(やったやった!!)
しかし、なぜだろうか。
無性に眠くなってきたじゃないか。
やばい。もう瞼が落ちてきた。あ=。どんどん目の前が暗くなってきた。
いったい、何が起きているんだ。
気が付くと、俺はすっかり意識を手放していた。
そのうち、俺の頭の中は真っ黒に塗りつぶされていき、もう何も考えられない。
あれ?どこだ。ここ
俺が目を開けると、目の前は真っ黒だった。何も見えない。
それなのにどうしてか、今俺がいる場所は移動している最中なのか
揺れているような感覚が腰のあたりから伝わってくる。
全然、事態がつかめなかったが、嫌な予感しかしない。
と、考えているうちに目的地に着いたのか、揺れを感じなくなった。
その代わりと言っては何だが、どんどん周囲が熱くなってきた。
さっきまで汗一つ書いていなかった俺の体からはとめどなく汗が流れ出した。
熱い。熱い。熱い!!
そしてその熱はどんどん上昇しているのか、いつしか俺の意識も奪っていくほどに。
それと同様に息苦しさが激しくなってきた。
とにかく空気が今は欲しかった。
俺は過呼吸の状態になっていた。
ハァハァハァ。という俺の呼吸音だけが俺の耳元に届いてくる。
もう限界だった。
俺は意識を手放した。
目が覚めた。
さっきまでの息苦しさがすがすがしいように消えていて、なぜか俺は立っていた。
どうして俺が今、立ったままの状態で意識がなくなっていたのかは分からない。
だけど今は、そんなことよりも息を吸い込むことの方が必死だった。
それもそのはず。さっきまであんな息苦しい空間にいたんだ。
だけど今、俺が立っている場所は外で、なんとも空気が美味しい場所だった。
これは吸い込まないわけにはいかないだろう。
そうして必死に息を吸っていると、なぜか俺の周りには人だかりができていた。
なんだなんだ??とやや疑心を抱きながら、その人々たちに目線を向けると、
彼らはなぜか自分たちの衣服や持ち物からお金を出してきたではないか。
そして何のためらいもなく、お金を俺の足元に置くと去っていった。
俺には意味が分からなかったが、
その不可思議な行動をする人々はどんどん増えていった。
俺の足元にはもう既にすごい量のお札が散らばっていた。
こんな夢みたいなことがあっていいのか。と単純に思った。
そして、もうこのくらい集まったわけだし、
今日はもう帰ってご飯を食べて寝たいと思うようになった。
この場所から動き出そうとした。
あれ?
いくら足を動かそうと考えても、足が動かない。
というよりも全身が1ミリも動かせなくなってしまっていた。
まるで物になってしまったかのような感覚だった。
そして、声も出せなくなっていた
声帯を震わそうにも口が固められたように開かない。
というか、さっきまで息を吸っていたように感じていたが、
その実何も吸っていなかった。
そういう感覚を感じていた。それだけだった。
おかしい・・・。
そう思ったのもつかの間、幸運なことにある少女が自撮りの態勢で
俺と自分自身を取ろうとしている様子が見て取れた。
俺は自分の状況を確認しようと、視線をその少女の携帯画面に向けた。
(は?嘘だろ・・・。)
俺はその瞬間、言いようのない絶望を味わうことになった。
そこに写っていた中に俺の姿はなく、
代わりに金色に光る俺の像だけがあった。
短編集 あすか @yuki0418yuki
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