第2章

第18話 ハリケーンというよりトルネード?

 リビングでピョンピョンと跳ねているスライムたち、窓際で日向ぼっこをしているマンドラゴラ、私の膝の上で魔力をモグモグと食べている羊・・・うん、毎日が濃い1日だ。そう、自分を無理矢理と納得させようとしていた。


「ねぇ、カイン。ちょっと聞きたいんけど、良い?」


「ん?良いよ、何?」


 今日は朝から『魔の森』で、薬草などを採取して来た。なので、リビングのテーブルで二人で、採ってきたそれらを選別していた。だがふと、前々から気になって気になっていたことを、カインに聞いてみようと思ったのだ。そんな私の声に、彼は手を止めてこちらを向いてくれた。が、フードを被ったままなので目が合っているか分からない・・・うん。これも、なんか慣れてきたよ。


「・・・この世界の食事って、塩っぱいか、甘いか、脂っこいか、酸っぱいか、でしょ?」


 そうなのだ。家では『魔の森』の薬草を使っているからそうでもないが、町で食事をしたり、惣菜を買ってきたりして食べても味気ないのだ。これをなんとかしたい!


「ま、そうだね。食事はお腹が膨れれば良いかなって前は思っていたけど、今はノアが作ってくれて美味しいと思えるようになったよ、ありがとう」


「いや〜どういたしまして・・・」


 面と向かってお礼を言われると、なんかね~照れるよね〜。


「でも、それがどうしたの?」


「あ、で、この薬草で作る料理を町の人に教えたら、この世界の食が改善されるかな〜と思って」


 選別していた薬草の一つ、巨大サイズのニンニクのような物を持ち上げてみた。


「ん〜それは、難しいかも・・・」


 薬草の選別を止めていたカインが、同じ巨大ニンニクを手に持ち、ため息混じりにカインは言う。


「え、なんで?」


 思わず、キョトンとしてしまう。まさか、カインから難色を示す言葉が出るとは思わなかった。町での食事や惣菜の購入も、美味しくないと渋るようになったのにだ。どうしても、今日は食事作りたくないと言う私の意見に渋々といった感じで、食事をしてきたり惣菜を購入してきたりしてたのにだ。絶対に、賛成してくれると思っていたのに・・・。


 うぅ~良い考えだと思ったんだけど・・・。


「これね、町での相場は大金貨3枚なんだよね・・・王都だとどれくらいの金額になるのか・・・」


 カインが、ボソリと言う。


「え!なっなっなっ・・・」


 なんですと!?確か、大金貨って日本円で10万円だったよね!それが3枚・・・30万・・・こっこれが!?王都だとそれ以上?!


 手に持っていたニンニク?を、目をコレでもかというくらい見開き、マジマジと見てしまった。


「うん。これで食事を作ったら、いったい一食いくらになるのか・・・この薬草はね。スタミナ回復の特級ポーションを作るために必要なもので、『魔の森』とか魔素が多い所でしか採れないから値が張るんだよ」


 カインは、そのまま薬草の選別をやり始めながら諦めたように言う。


「偶には、人が作った美味しいものが食べたかった・・・」


 ガクッと項垂れていると、突然ドンッという大きな音と共に煙が舞い上がって視界がゼロになってしまった。


「え、何!?なんなの?」


 突然の爆音と状況に驚いて、オロオロして膝に乗っていたコトンをギュッと抱きしめた。そして、金属同士が当たったような、カキンッ!!という大きな音が聞こえた。その聞こえてきた場所からして、頭上だということしか分からない。しかし、大きな音がして煙が舞い上がったわりには、風圧も来ないし煙たくもない。カインがシールドを張ってくれたみたいだ。


「いつも突然ですね。連絡くれれば良いのに」


 頭上からカインの声が降ってくる。彼の発せられた声は、私に向けられたものではないことは分かる。そして、舞い上がっていた煙が一瞬でどこかに吸い込まれるように消えた。すると、そこにいたのはカインと剣を交えた30代くらいの美女だった。壊れた家の屋根の残骸をバックに・・・。

 突然のことに私は固まったままで、それを呆然と見ていた。が、はっきり言って彼らのスピードが速すぎて、目が追い付いていかない。


「・・・コレどうする、コトン?」


 なんか、こっちに被害が来ないということが分かったのと、何故か分からないけど二人が楽しそうなので、安堵感からか力が抜けた。余裕が出来た私がコトンに問いかけると、なんか言った?という感じでコトンは首を傾げ、興味なさそうに直ぐに持っていた魔力をモグモグと食べ始めた。


 肝が据わっているというか、なんというか、あなたに聞いた私が愚かでした・・・。


「プレンたちコレどうする?」


 コトンよりは、まともな意見が返ってくるだろうと、次にスライムたちに聞いてみた。


『カイン様!頑張って下さい!!』


だが、プレンが手に汗を握るような感じで、カインを応援している。


『ノア様。アレは、自分たちが何か出来ることはありません!だから、放っておきましょう』


『そうですよ。あれを邪魔しては無粋ですよ』


 そして、先にイチコが興奮しながら言い、次にコクが微笑ましそうに言った、他のスライムたちも頷いている。


「じゃ、放置で」


 アレに微笑ましい要素があるのか分からないが、みんなの意見を尊重して、終わるまで薬草の仕分けしておこうかな。図太くなったな私・・・。


 暫く、ドッカン、ドッカンと音がしていたが、それが鳴りやんだ。


 終わった?畑、大丈夫かな・・・?


「カイン!喉渇いた。酒!!・・・あと、なんか、あたしが留守の間に随分賑やかになったみたいだな」


 あ~、終わって良かった~と思っていると、メリハリのあるスタイルの良い先程の美女が、いつの間にか目の前に現れて、椅子にドカッと座ってカインに酒を要求する。多分、転移の魔法だろう。カインが良く使うヤツだ。彼女は、緩やかなウェーブがかかったアッシュグリーン色の長い髪をかき上げると、目尻が上がったキツイ印象を与える淡い金色の瞳がキラリと光らせ、私たちの方に目線を向けると、ニヤリと笑った。


 もしかして、カインの恋人さん・・・?


「お断りします。アンナ、毎回来て早々に酒って・・・それより、紹介しますから」


 その後直ぐに現れてたカインは、呆れたように言う。彼の姿は彼女とは違い、着ていたローブがボロボロだ。


「なんだ、なんだ、まさかカインが女の子を連れ込んでいるとはな」


 アンナと呼ばれた美女は、カインと私をニヤニヤしながら交互に見る。


 そんなことを言うということは、恋人さんじゃない・・・?


「こちらに渡って来てまだ間もない、同郷のノアです。ノア、これは一応俺の保護者兼師匠のアンナだけど、良くしてあげなくて良いよ」


「え?」


 へ~、保護者兼師匠なんだ・・・カインにも保護者いたんだね。ん?でも、良くしてじゃなくて、良くしてあげなくて良いって・・・どういうこと?え、本気で言ってる?


思わずオロオロしてしまう。


「形だけでも師匠を敬えよ〜」


 彼女が嫌だとか嫌いだとかではなく、いつものように普通の流れでカインが言うので、頭での理解が追い付いていかず、混乱してしまう。更に、彼女はクククと面白そうに笑うので、本当に余計どうして良いか戸惑ってしまう。


「保護者兼師匠と言うよりは、手が掛かる子どもという感じなので、ちゃんと相手すると疲れるだけだから、程よく距離を持って接した方が良いからね」


「分かった・・・」


 カインがそう言うが、冗談なのか本気なのか、良く分からないが取り敢えず返事をしておこう。


「相変わらず、師匠に対する態度じゃないな~」


「日頃の行いのせいでしょう」


 普通だ・・・冷たい感じでもなく、鬱陶しい感じでもなく、冗談を言う感じでもなく、普通だ・・・はっきり言って、受け流している感じだ・・・。


 この二人のやり取りはいつものことなのか、身内と認定しているジャックくんに対する感じに似ている。言葉はアレだが。


「あっあの、初めまして、アンナさん。お邪魔しています、カインの同郷のノアです。よろしくお願いします」


「あぁ、よろしく!」


 コトンを抱きしめたまま、スッと立ってアンナに向き合い頭を下げて挨拶をすると、彼女はそう言いながら、ニヤッと笑ってガシガシガシッと私の頭を撫でた・・・というか、横に勢い良く動かされた感じだ。ついでにコトンの頭も撫でてくれるが、力が強すぎて横に勢い良く振られ自分のモコモコの毛に顔が埋まる。


 お、男らしい方です・・・。


「女性には、もう少し丁寧で優しく接ることと言いましたよね?」


「丁寧で優しいだろ。お前に接するより」


「それは、次元の違う問題だから」


 お互い言い合っているけど、なんか仲の良さが滲み出てるよね・・・。


「お、どうした?座りな」


 余りにも強烈だったので、座ることを忘れていた私にアンナさんが声を掛けてくれる。

 そして、興奮していたスライムたちは、アンナさんの側に集まり出して、いつもより勢い良く跳ねる。


『男の中の男っす!』


『憧れます!』


『あなたみたいな男になりたいです!』


『『『『『『師匠!』』』』』』


 そんなことを言いながら・・・・。


「ん?なんだ?何か言いたいのか?お前たち」


 急に集まり出して、何かを訴えようとしていると感じたのか、アンナさんはスライムたちにそう聞く。


「なんか、師匠になってほしいみたいです・・・」


 あえて、何のかは言わないでおこう。


「そうか!見る目あるなお前たちは!!」


 機嫌良くアンナさんは、スライムたちを一匹づつ片手でガシッと鷲掴みして、こねくり回していく。

 カインはそれを放って置き、ため息を吐いて薬草の選別の作業に戻るので、私も同じくそれに戻った。


 屋根と壁、直さなくて良いのかな・・・。


「アンナ、家の修理は早めに」


 私の頭の中を覗いてみたかのように、カインがアンナさんにボソリと冷たくそう言い放ち、それに分かった分かったと言って、アンナさんはそれを魔法で直してしまった。手をかざすことなく、何も声を発することなく、時を戻したかのように一瞬で。


 流石、カインのお師匠さま・・・。


「森や畑も」


「分かってるよ~」


 そう言うと、彼女は目を一瞬閉じたが、直ぐに開いた。何かしたのだろうか?


「それ懐かしいな」


 そして、私の方を見ると、何かに気付いたようにそう言う。私の顔の下の方をを見て、アンナさんが懐かしそうに目を細めているので、多分このローブのことを言っているのだろう。

 『魔の森』で採取をしに行った格好のままでいたので、カインに借りていたローブを着ていた。


「これ、カインから借りたんです。『魔の森』は危ないからって」


「へ〜珍しいな、カインがな・・・それ、カインのことを引き取った時に作ってやった物と、同じヤツだな。まだカインはガキだったから、『魔の森』で生活するには、それくらいの性能がないと生きていけないしな」


「・・・そうなんですね」


 恋人の物じゃなかったんだ、良かった・・・良かった?

自分の言葉に首を傾げてしまう。


「ところで、アンナは何しに来たんですか?いつもより短い期間での襲来だけど」


「襲来?どこが?」


「先の惨劇で、そんなことを言う?」


「いつもより大人しいだろ?」


「どこが?」


 アンナさんがニヤニヤと揶揄うのを、カインが呆れたように返す。


「様子を見に来ただけさ。小耳に挟んでね」


「昨日の今日で?随分とお早い口ですね。それが、誰からかは分かりますが」


カインが、呆れたように言った。


「暫く、ここに居るからな」


「いつもことですから、構いませんよ。ノア、当分の間かなり五月蝿くなると思うけど、面倒は見なくて良いから、よろしくね」


「う、うん」


そんなこんなの二言で、カインの保護者兼師匠のアンナが、暫くの間この家に滞在することになった・・・。


カインの言葉のこれは、どっちだろう?いや、面倒は見るのはジャックくんだと思うし、私はジャックくんの補佐ということで!

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